久しぶりの本気4
強烈な蹴りを腹部に受けたアイシスは、静かに手のひらを誠志郎に向けた。次の瞬間…。
手のひらから氷の槍が飛び出し、誠志郎に襲い掛かった。
その氷の槍を誠志郎は間一髪のところで交わしたのだが、気がつけば懐にアイシスがいた。剣先は誠志郎の胸部に狙いが定まっていて、この一突きで終わらせる気なのだろう。
「死ね…」
「っんぐ…かはっ」
誠志郎の胸部をアイシスの剣が貫いた。
場内は微かな悲鳴に苛まれ、ディア女王は薄笑いをしている様だった。
闘技場にボタボタと落ちていく赤黒い誠志郎の血。
アイシスは自身の勝ちを確信し、剣から手を離した。そして、誠志郎は力尽きたかのように膝から崩れ落ちた。けれど、倒れる寸前でとどまり、血反吐交じりに言葉にしていた。
「ゲホッ。お、お前…。何、手ェ離してんだ?」
誠志郎の薄れる意識の中から絞り出されたその声色は、黒さに呑まれているように静かで存在感があり、アイシスに恐怖を植え付けた。
「な、なんでまだ話せるの。心臓を刺されてるのに」
「心臓?はっ、惜しかったが心臓はもう少し上だな…」
「に、にしても身体を貫かれて普通でいられるなんて…」
怯え始めつつも戦闘態勢に入ったアイシスに視線を向けた誠志郎は、突き刺された剣を引き抜き立ち上がった。剣を抜いた傷口からは大量に血が流れていた。
「普通?そんな訳ないだろ。悪いけど、女だからってもう手加減できねぇから。降参するなら今の内だからな…」
誠志郎の足はフラついていて目を開けることすら満足に出来てはいなかった。そんな姿を目前に、ディア女王は滑稽だと笑っていた。
場内の女達にはディア女王同様に笑みを浮かべる者と引いている者が別れていた。
そして、誠志郎と対峙しているアイシスだけが、自分に部が悪いのだと感じていた。自分の力ではこの男に勝つ事が出来ないと感覚的に悟っていた。だが、理解が及ばず、安易に誠志郎の間合いに足を踏み入れた。
アイシスの右手には氷で作れた刃があり、トドメを刺しに行く一撃を用意していた。だが、その刃は赤く染まることは無かった。。。
場内が静まり返った、というより、皆は何が起きたのかまるで理解出来ていなかった。だが、ディア女王にはしっかりと何が起きたのか見えていた。
「あ、ありえん…。今の速度は男程度の魔法では…いいや、ここまでの速度が出せるのはもはや常人が扱う魔法ではない。私ら五大魔法使いにすら匹敵する」
闘技場には息を切らしながら立っている誠志郎と、白目をむいて気絶しているアイシスがいた。
何が起こったのか、ディア女王以外理解していないようだが、誰しもが認識していることが一つだけあった。それは…。
「誠志郎が勝った…」
ディア女王は青ざめた表情で、マイクに声を通した。
「見ての通りアイシスは負けた。本日はこれをもってやめにする。男ごときに油断し負けた愚かな女はそこに置いて行け。これにて解散とする」
アイシスは油断など微塵もしていなかった。そのことを知っていたディア女王がそう言葉にしたのにはいくつかの意味があるのだろう。
勿論、男に負けてしまったという事への悔しさから見栄を張ったというのも含まれてはいるはずだ。
そして、誠志郎はたったまま白目をむき前のめりに倒れ込んだ。




