久しぶりの本気2
「ガルルル…」
猛獣は牙を剥き出しにし、誠志郎のことをじっと眺め始めた。その瞳細く鋭く獲物を逃がさぬように研ぎ澄まされていった。
猛獣は声を殺した。その瞬間、誠志郎との距離を一飛びで埋めてしまった。
右前足を振り上げ、誠志郎の頭上からその首を狙っているようだ。
誠志郎に大きな影が落とされ、平然とした表情で猛獣の腹わたを見つめていた。
そして、猛獣が右前足を振り抜いた。
場内にいる何人かは恐怖心から目を伏せてしまう者が多発していた。
猛獣が地面に着地し、砂煙が闘技場を覆い隠した。
「ガルルル…」
依然として猛獣はその声を切らさない。
砂煙が晴れた時、闘技場には誠志郎の死体が落ちているのだろうと誰もが考えていた。だが、砂煙が晴れた時皆が思っていた光景とは違っていた。
「おい、痛いじゃねぇか」
誠志郎はそう言葉にし、首元を押さえていた。出血をしているようだった。ただ、その傷は浅く、とても猛獣の爪に切られたとは言い難いものだった。
猛獣は自慢の爪が効かないことに腹を立てたのか、すかさず猛突進をかました。
誠志郎は落ち着いた表情、呼吸で軽く腰を落とし拳を握り締めた。
そして、突っ込んでくる猛獣の牙を避けるように腹わたに潜り込んだ。その瞬間。
「クゥ〜」
猛獣から可愛らしい声が漏れた。その状況に場内は混乱しじっと見つめていた。すると、猛獣の足取りがふらつき始め、その口からは吐血していた。
だが、一方の誠志郎も牙を避けきれなかったのか、右肩から多量出血していた。
誠志郎は来ていた服を破り、自身の方に巻きつけて止血した。そして、笑みを浮かべて声を張り言葉にした。
「おい!デカワンコ。躾けの時間だ!」
今の誠志郎の攻撃は猛獣の戦意を根こそぎ奪っていった。けれども、右肩を負傷した誠志郎はヒートアップし始めているようで、もう誰にも止められやしない。
誠志郎は勢いよく猛獣目掛けて飛び出し、その黒き双眸が輝きを奥に潜めた。
誠志郎は猛獣の目の前まで来ると、大きく飛び跳ね、その額目掛けて拳を構えた。怯える猛獣には目の前にいる誠志郎という人間一人が、自分よりも遥かに大きな存在に見えていた。
そして、誠志郎の拳が猛獣の額を打ち抜き気絶させた。
思っていた結果とは違った結末。
願っていた結果とは違った結末。
万が一にもあり得ないと思っていた結末。
誠志郎という男の強さを国民に認めさせる結末。
それらが全て重なるように、場内は歓声に溢れ出しボルテージが計り知れないほどに上がっていった。
場内から誠志郎を否定する雰囲気が消え去り始めていたのだ。




