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到着!ディア国3

 何も話せずに黙り込んでいる男の服装は、継ぎ接ぎだらけの長ズボンに上は砂や汗が滲み黄ばんでいる長シャツ一枚。この男がユウの言った衛兵にはとても見えはしないのだが、誠志郎はこの男がかなりの手練れであると確信していた。


「お前の名前はなんだ?」

 誠志郎がそう尋ねると男は隠し持っていたナイフを取り出し、自身の腹部を勢いよく刺したのだ。

 黄ばんだシャツはみるみる赤く染まっていき、男も地に帯びた咳をなんどもしていた。

 男が何故ここで自害を求めたのか誠志郎とカナには理解が出来なかった。理解しようとも考えていた誠志郎だったが、やがて男の口からブクブクと血が溢れ出していった。


 その姿を前にした誠志郎がなにやら思いつめた表情を浮かべていた。その微かな変化に気が付いたカナは誠志郎の手をとった。

「大丈夫。あなたが気に病む事なんてない!だから、変な気を起こさないで」

 カナは、誠志郎が男の傷を代わりに受けようとしていると思ったのだ。そんな馬鹿げた予想は間違ってなどいなかった。


 誠志郎はカナの手をぎゅっと握り返して、その双眸を青く染めた。

「大丈夫だよ。全部は背負わないから」

「でもっ…」

「っぐ!」

 誠志郎はカナに握られた手を振りほどき、腹部を抱えた。


 どれだけ他人の痛みを背負ってきたとしても臓器に刺し傷を負うのは我慢ならないほどの痛みだった。それでも、痛みに声を上げる事なく、冷静に男の腹部に刺さったナイフを引き抜いた。

 男は目を丸くしながら誠志郎を眺めていた。


「少しは痛みがなくなったろ…お前がなんで話さないのか知らねえけどな。死ぬ事は何にもならないんだ。もし、ただ死にたいだけならお前は俺を殺そうとはしてないだろ?言ってみろ、お前が生きる為に何で俺の死が必要なのか」

 血が混じった唾液を飲み込み、誠志郎は聞きたかったことを質問していた。

 その数歩後ろで、冷たい視線を男に向けているカナ。


 男は無表情を貫きながらも、小さく口を開いた。

 その瞳には涙に似た何か光輝くものが浮かんでいた。


 誠志郎は腹部をおさえながらも優しさに帯びた笑みを男に向けていた。その瞬間、男は力が抜けたかの様に話し始めたのだ。

 力強く温かいけれども、絶望に満ちた声色だと誠志郎は感じていた。


「私に名前は無い。君を殺そうとしたのはそう命じられたからだ」

「誰に?」

「この大国を治めているディア女王にだ」

「お前もこの国の人間なのか?にしては随分とみすぼらしい格好だな。貧乏な国なのか?」

 誠志郎がそう尋ねると男は首を振って答えた。


「俺はこの国の国民にも奴隷にも慣れなかった男だ」

「国民にも奴隷にも慣れなかった…か」

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