奴隷解放宣言1
誠志郎がマイクを通して叫び、カナに聞こえる声で別の言葉を呟いた。
その瞬間、カナは震える声で叫んだ。
「も、もう、これ以上私に言葉をくれないでよ」
初めて聞くカナの取り繕うことのない叫びを聞いて、誠志郎は下唇を噛んだ。同時に、場内は奴隷が泣き叫ぶと言う異例の事態に笑いが起きていた。
誠志郎の怒りは間違いなく、場内の客に向いているはずなのだが、いざ向き合ったのは場内の腐った人間でも、王族でもなく、カナ・ウィリアムだった。
涙を流し、うずくまる彼女を誠志郎はすかさず抱きしめた。
その行為に下心なんかなく、あるのは愛というたった一つの純情な気持ちだけだった。
震える、カナのか細い体を強く抱きしめた誠志郎は優しく言葉にした。
「小さい頃、俺が悲しくて辛くて仕方のない時、こうやって力強く抱きしめてくれる人がいた。君にもいたみたいだけど、もういないんだね?」
カナは、なぜ分かるのか問いたくなるが、黙ったまま頷いた。
誠志郎は、頷くカナの頭を撫でながら呟いた。
「これから先、君に辛い事があったなら、俺が君を抱きしめよう。だから、君は俺の支えになってくれないか?」
カナはうんうんと何度も頷いて、涙を拭った。それから、誠志郎の目を真っ直ぐ見て言った。
「私は貴方に支えます」
すると、誠志郎は顔を顰めてカナの手を取り立ち上がった。その時に「そうじゃない」と呟いていたのはカナも気がついたが、どういう事なのか聞く間も無く答えを知ることとなった。
誠志郎は鍵を皆に見せつけ、注目が一通り集まると…。
ピキッ!
「えっ」
カナも思わず声に出して驚いてしまったようだ。だが、それ以上に場内が騒がしくなった。
誠志郎は、奴隷との契約を結んだ鍵をこの場で折るという前代未聞の行動に出たのだ。
「あ、貴方は何をしているの!?」
カナが声を荒げて言うと、誠志郎は真っ直ぐな笑みを浮かべて言い返した。
「俺は君が欲しい。でも支配したい訳じゃない」
「だからって、この場で鍵を折る意味分かってる?」
「ああ、分かってるって!」
誠志郎が明るく微笑んでいると、どこかに消えていたはずの司会者、ふざけたサングラスじじいが不敵な笑みを浮かべて近付いてきた。
「ゲスト様。あなた様には感謝申し上げます」
「あ?」
「まさか、ご購入頂いた商品を新品で返して頂けるとは」
「商品?それはよー、カナの事言ってんのか?」
「左様でございます」
「そうか…」と誠志郎が呟いた次の瞬間。
誠志郎の拳が司会者の顔面を下からえぐり、ふざけたサングラスが三回席近くまで吹き上がった。
バンッ!
銃声が鳴り響き、場内は静まり返った。銃弾はふざけたサングラスに当たり軌道を変えられていた。
誠志郎は青く光る双眸を三階席から銃を向けてきた王族に向け、その後静まり返った場内の連中に向けた。そして、マイクは使わず地声を張り上げて言い放った。
「王族、貴族、金に飢えた馬鹿野郎共。よく聞いとけ、俺はなぁー…」
誠志郎が言い放った言葉を聞いて場内は困惑に覆われた。
「何言ってんだ?あのゲスト」
「きっと貧しすぎて脳みそが腐っているんだわ」
誠志郎は皆の反応を気にする事なく、愉快に笑っていた。
「行くぞ、カナ!ノアを探して撤収だ!」
誠志郎に手を取られてカナはため息交じりに「何で楽しそうなのよ…」と呟き、誠志郎に引きを取らないくらいの笑みを浮かべていた。
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