侵入、奴隷の檻4
「お姉ちゃん!」
ノアが金髪の女性の足にしがみついた。その様子を見ていたマルクスは彼女が誠志郎とノアの助けたがっている人物だと察した。
「な、何してるの君!」
表情を顰める彼女とは打って変わって、ノアは明るく微笑んでいた。
「オイラ、お姉ちゃんに幸せになってもらいたいんだ。奴隷は多分辛いから」
彼女はあたりをキョロキョロ見始め、マルクスと目を合わせ尋ねた。
「この子と一緒にか細い青年はいませんでしたか?」
「し、しらん…」
マルクスは目を泳がせながら、適当なことを口走った。彼女を見るマルクスの瞳はどこか怯えているようで、それでいて憎しみの籠もった強い瞳だった。
「そうですか」と彼女は残念そうに呟き、ノアの頭を撫でた。
そして、老人と話していた誠志郎が漸くノアとマルクスに追いついた。
「おい、マルクス。彼女が言う、か細い青年は俺のことだぞ」
どうやら話の最後だけは聞こえていたようだ。
「ノア、よく見つけたな!」
誠志郎がそう呟くと、ノアは「まあね!」と恥ずかしそうに喜んでいた。
そんな二人の関係を目の当たりにして、彼女は安堵のため息をついた。そして、眉に皺を寄せて誠志郎のことを睨みつけた。
「どうして、こんな所に来たんですか!?」
「君を助けに来たんだって言ったら嫌がるんだろ?」
誠志郎の言葉に彼女は「当然です」と言い切った。
ノアはどうしてなの?という戸惑いを見せていたが、誠志郎にとっては想定の範囲内だった。
「まあ、そんな気はしてた」
「なら、何故来たのですか?奴隷になる私が羨ましいですか?」
「君は正気で言ってるの?」
「当たり前です」
誠志郎と金髪の女性が話していると、先程から様子のおかしかったマルクスが呟いた。
「こんな奴は助けないほうがいい」
「え?」
誠志郎とノアが声を漏らした。
すると、マルクスが軽蔑するような瞳で彼女を見下し話しだした。
「こいつは国と国の戦争に個人で乗り込むイカれた奴なんだ。それだけならまだいい、だがなこいつは必ずどこかの国に入り込んで、その国を裏切り内側から錯乱させる。何が面白くてそんな事をしているのかは分からないが、こいつはお前も裏切るぞ、セイシロウ」
誠志郎とノアが混乱していると、彼女自らがマルクスの発言を認めた。
「私は彼の言う通りの人間よ。それなのに奴隷にしてくれるんだから願ったり叶ったりよ。邪魔だけはしないで」
彼女の寂しい声色が誠志郎を元も来た道に向かせた。
「ノア、その人はここに居たいんだってよ。行くぞ」
「なんで?オイラは嫌だよ」
駄々をこねるノアに誠志郎は冷たく言った。
「それが、お前の答えか?」
「え、」
「来る前に言ったろ?自分で見極めて、それでも奴隷の人生を選ぶのなら勝手にしろと」
ノアは目に涙をたくさん溜めて、誠志朗を睨みつけた。
「セイシロウみたいに薄情なやつになるくらいなら、オイラは奴隷でいい。オイラみたいなのが奴隷になれるのなら本望だ!」
ノアの声が地下道に響き渡り監視兵の足音が近づいてきた。
誠志郎は冷たい声から一変し、温かく笑みを浮かべて呟いた。
「じゃあな、ノア。行くぞマルクス」
「おい、待て。本当にノアを置いていくのか?ノアはまだ…」
マルクスが言おうとしていた言葉の先を誠志郎が口にした。
「子供か?俺は少しずつだがこの世界のことがわかってきた。何かが起これば直ぐに暴力に走るくせして、どいつもこいつも心が乏しく弱いんだ。別にお前らが悪いとは言ってない…だがな」
誠志郎は一度、ノアの方を振り返り呟いた。
「気をしっかりもて。俺は約束を破らねぇからよ」
その言葉を聞いたマルクスはかすかに頬を緩め、誠志郎とともにこの場をあとにした。
涙をため、下唇を噛んでいるノアに彼女は話しかけた。
「早く、君も逃げたほうがいい」
「君じゃない。ノアだ」
「ごめん、ノアも早く逃げたほうが…」
彼女はノアの表情を見て言葉に詰まった。なぜなら、ノアが下唇を噛むことをやめ笑いだしたのだ。
「セイシロウは必ず戻ってくるよ」
「なぜ?」
ノアは彼女の質問に対し、胸を張って答えた。
「誰よりも自由だから」
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