不安と隠し扉4
屋敷の秘密階段を降り始めて一時間ほど経過した頃、誠志郎は大きな鏡の前に立っていた。
ひかりをあててみても真っ黒なその鏡に見覚えがあるのだが、思い出すことも出来ずにいた。じっと眺め、首を傾げる。けれども、何も思い出すこともなかった。
これ以上考えていても埒が明かないと思った誠志郎は、リュックサックに詰め込んだ保存食を床に並べた。
「頭を使いたいから、チョコパンだな」そう呟いてチョコパンにかぶりついた。あまり大きくないそのパンはあっという間にその姿を消していった。
そして、誠志郎はこれ以上休むことなく頭を働かせた。これ以上先の道がないのだから、下の世界への入り口はこの鏡に隠されていることは間違いない。もしかしたら、鏡をすり抜けられるんじゃないかとも思い、手を伸ばしては見るが普通の鏡で触れられた。
結局、為す術もなく誠志郎は眠りについた…。
『ねえ、ソリティアって偶に寝言でヴェリテって言ってるけどヴェリテって何?』
誠志郎は、まだ幼くソリティアにベタベタだった頃の夢を見ていた。そして、夢の中でソリティアは頬を赤らめ笑顔で答えていた。
『ヴェリテ…それはね真実という意味よ。私は嘘が嫌いだから、このヴェリテという言葉が大好きなの!誠志郎は好き?』
夢の中のソリティアからの質問に答えるように誠志郎は目を覚ました。そして、真剣な面持ちでリュックを背負い鏡に手を伸ばした。
試行錯誤を繰り返していた先程までとは違い、その表情は自身に満ちていた。
「克二さん。ソリティア。行ってきます…」
誠志郎は静かにつぶやき、やがてゆっくりとした呼吸から吐息を漏らし、力強く言葉にした。
「ヴェリテ!」
その瞬間、鏡が強い光を放ち誠志郎は鏡に足を踏み入れていった。この時、誠志郎は夢での続きを思い出していた。
ソリティアにヴェリテという言葉が好きか問われ、考えなしに好きだと言った。その時のソリティアの表情はいつどんな時よりも輝いていた。きっと、この言葉はソリティアにとって特別な言葉なのだろう。そんなことを今になって気がつくなんて、自分は本当に馬鹿だ。
誠志郎は自らを蔑みながらも、なぜヴェリテという言葉が特別なのかソリティアに聞いてみたいと思っていた。
本日もご一読頂きありがとうございます。
星をひとつ頂けるだけで書くための活力になります。
よろしくおねがいします。




