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呪われた屋敷1

 稲妻が走り激しい雨音が鳴り響く中、呪われた屋敷の塀の下に蹲る少年がいた。

 少年は泥にまみれた毛布を一枚羽織り震えている。もう少し人通りのある場所にいたのなら助かる可能性もあったのかも知れない。だが、生憎少年のいる場所は呪われた屋敷と謳われているため人が寄り付かない。

 

 いつからそんな大層な名前を付けられたのかもわからないその屋敷は、確かに異質なオーラを解き放っていた。子供なら恐怖のあまり泣き出していしまいそうなものだが、この少年は涙を見せることをしなかった。


 それどころか、この暴風暴雨を毛布一枚で凌ぎ切ってしまった。

 勿論、只では済んでいないようだ。


 頬は赤く熱く膨れ上がり、目線はふらふらとしていて意識が朦朧としているのだろう。よくぞ一晩耐えたものだと讃えてやりたいが、少年の命も流石にここまでだろうか。


 僕はここで死ぬ。少年自身がそう悟った時、髪の長い色白の女性が少年の前で足を止めた。そして、天使のような穏やかな声が少年を包み込んだ。

「君はここで何をしているの?」

 落ち着いていて聞き取りやすいその柔らかな声が少年の意識をほんの少しだけ保たせた。

 少年は残りわずかの力を振り絞り声にした。

「行く所が…ない…」


 少年の目には一寸の光すらもなく、まるで世の中に絶望しているかのようだった。幼き人に宿る瞳ではない。


 少年の言葉を聞いた女性は、屈み込み視線を合わせた。それから、ふふっと息を漏らして優しく穏やかに微笑んだ。

 そして、小さく可愛らしい顔をコクリと傾けて呟く。


「私も。私も行く宛がないの、一緒だね」

 美しい人だ、少年は素直にそう感じていた。この女神に出会えたことこそ神からの最後の褒美だと受け取った少年は静かに瞳を閉じた。


 深い深い眠りの中、少年は温かな温もりを感じ優しさに包まれた天使の囁きを聞いていた。

「私の名前はソリティア。行く宛がないのならば私の元へいらっしゃい」


 ソリティア。少年はその名を何度も眠りの中で呟いた。

 そうして目が覚めると下半身が何やら柔らかな物の上に浮いていて温かい。一度も見たことのない水色の模様の部屋は微かに甘い匂いを漂わせていた。

 体の痛みやだるさは全て無くなっていて紛れもなく調子が良い。


 少年が戸惑いを隠せずにいると、ドアの開く音がした。

「やあ、気持ちいい朝だね」

 色白で長い黒髪の女性。記憶が曖昧だった少年だが、彼女が命の恩人だということは疑う余地も無かったようだ。

「あ、ありが、とう。ソ、ソリ…ティア?」

「ええ、どういたしまして」

 

 ソリティアは持ち前の柔らかな笑みを浮かべ少年に名前を尋ねた。


「せいしろう」

 少年はそう答えた。


 それから、ソリティアとせいしろうはお互いのことを話し合っていた。


 何故、独りぼっちで屋敷の塀に蹲っていたのか。


 何故、自分のような価値のない人間を助けてくれたのか。


 両親とは一緒に暮らしていないのだろうか。


 ここは一体何処なのだろうか。

 

 二人は互いに聞きたいことが多く、何度も夜を共にした。

 そうしていく内に二人には家族のような愛が芽生え始めた。互いを想い合う気持ちは愛情そのものだった。


 この出会いはせいしろうにとってはとても大きく大切な出会いだったのだろう。


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