不安と隠し扉1
月をも隠れる静夜の中、半壊している屋敷のみがおぼやかな光を放っていた。その光が街に届くことは決してないのだが、まるで月を思わせるような美しさだった。
その光源は克二の実験室となっていて誠志郎と克二、そして眠ったままのソリティアがいた。
どこか浮かない表情の克二が口を開く。
「誠志郎、本当にお前が行くのか」
「うん。克二さんが教えてくれたんだろ?俺らの住む世界より更に下層部に違う文明があるって」
「あーある。そこでは誠志郎のような力が当たり前となっている筈だ。だが、それが意味することは分かってるのか?」
克二が眉間にしわをよせて問うが誠志郎はあっけらかんと答えた。
「俺と同じ変な力持ってるやつで回復に特化した奴を見つけて連れてくりゃいいんだろ?」
「そ、それはそうだが下の世界はここ程平和でないかもしれん。ワシが知っている下の世界は戦争に明け暮れていたんだ」
「そんなの今もそうか分かんないじゃん。それにさ、」
誠志郎が何かを言いかけたが克二が割って入ってきた。
「いや、やはりお前が行くべきではない。あちらの世界のこともよう知らんのに行って殺されでもしたら、ワシはどうすりゃいい?」
自分の大切な息子を危険と知っている地に送り出すことには気が進まない。そんなことは親心があるのであれば当然の心中だ。けれど、時として親は子のことを思うばかり気が付いていない事もあるのだ。
誠志郎は怯えている克二の肩を抱き、力のこもった声色で呟いた。
「俺が死ぬリスクなんてもう変わんないよ。ソリティアと残ってもあの黒いローブの武装集団に襲われれば今度こそ一溜まりもない。むしろ、人探しの方が安全だろ?余計な戦闘は避けてここに連れて来る」
「誠志郎…」
克二が力なく呟き、誠志郎は優しい笑みを浮かべていた。
「それにさ、ソリティアのことを俺が救いたいんだ。親に捨てられて路頭に迷っていた俺をソリティアが見つけてくれたんだ。今の俺がいるのは全部ソリティアがいてくれたおかげなんだ。その感謝を俺はまだ伝えられてない…だから、行くよ」
誠志郎は眠ったままのソリティアの手を取り、思いの丈を伝えた。そんなことを聞いてしまえば、いくら克二と言えど止める事は出来ないだろう。それどころか、いつかの自分を見ているかのように感じていた。
そして、克二はソリティアの指に細い針を刺した。
「何してんの?」
誠志郎に疑いの目は無いが何をしているのかは理解が出来ない。けれど、克二は当たり前かのようにソリティアの血液を摂取していった。そして、ソリティアの血は小さな試験瓶の半分くらいまで溜まった。
克二は接種を終わりにして、ソリティアの指に止血テープを巻いているようだ。
「すまんが開けさせて貰うぞソリティア」
克二がそう呟き自身の机にその血を流した。すると、ガチッ!という音が机の足元から聞こえてきた。
誠志郎が何の音なのか分からず首を傾げていると克二が机を軽々と持ち上げて言葉にした。
「この屋敷はなソリティアが一人で作ったんだ。そして、この部屋はソリティアの部屋になる予定だった。でも、わしが無理言ってここを分捕った。けど、おめあての部屋には鍵がかけられていて入れなかった」
「この机の下にその部屋があるの?何の部屋?」
「部屋というかな、今話してただろ?ここが下の世界への入り口だ」
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