別れの旅立ち2
「おい、陸也。お前ら怒られても知らねーぞ」
「なんでお前ら、なんだよ。お前もだろ?」
「ん?ああ、これから話すから黙ってろよ」
誠志郎がため息交じりに言うと辻道が「何をー」と言いながら誠志郎に飛びついた。
「お前やめろよ。おもてーな」
誠志郎は心底めんどくさいと思っていたが、その表情は明るく輝いていて尚且つ、この時間を惜しむようだった。
そんな二人のじゃれ合いを見ていた八浜美丘は、ふと笑い出した。
誠志郎と辻道は八浜が笑い出した事を疑問に思って、腑抜けた表情になっていた。
「なんか、二人っていいね。中学の時から思ってたけど、辻道君と宮嶋君は私達が築ける友情の遥か上をいってる気がする」
誠志郎と辻道は目を合わせて、互いのありがたみを再確認しているかのように微笑み合っていた。
春風の肌寒さを笑い飛ばし、三人は向かい合って腰を下ろした。
話を切り出したのは辻道だった。
「んで、誠志郎は学校辞めんの?」
単刀直入に根拠のないは発言が飛び、八浜美丘は苦笑していた。だが、至って真面目な面持ちの誠志郎と辻道。二人の空気感に呑まれるようにこの場から笑顔が無くなった。
「陸也は話が早くて助かるよ。でも、辞めるんじゃなくて長期休みを取る。この前の火事で母親代わりだった人が重体になって、この東地区を出るしかないんだ」
誠志郎の事情を知り、止めようと思う人はいなかった。だが、八浜は一つだけ疑問に思っていた事を言葉にする。
「なんで私も呼んだの?宮嶋くんと私ってそんなに仲が良かったわけじゃないよね?それなのに、こんな大事なこと聞いていいのか…」
少しばかり慌てている八浜美丘の質問に誠志郎は迷いなく答えた。
「別に良いんだよ。俺は八浜さんとあまり関わってないけど、入学式の日に不良達に立ち向かうのを見てたから十分信用してる。八浜さんは俺が思ってた以上に素敵で強い人だった。だから君にも聞いてもらいたいって思ったんだ」
「私はそんなに強くないし、素敵な人間じゃない」
「それに、八浜さんは知りたがってると思って…」
誠志郎の言葉に八浜美丘は首を傾げていた。だが、何故か辻道には伝わっていたらしく、代弁しだした。もしかしたら、一番気になっていたのは辻道なのかも知れない。
「入学式の前、八浜さんは内田達に連れられて無傷で帰って来たよね。その時の君は自分に傷がない事を不思議がっているようだった。それとは逆にね、誠志郎は自分に傷がある事を不思議がってたんだ。見るからに顔中打撲やら擦り傷やらで覆われてるのに…おかしいだろ?一体、二人の間に何があったんだ?」
重苦しい空気感の中、誠志郎は話し始める。
「俺はどうやら変な体質らしいんだ」
『変な体質?』
辻道と八浜美丘が声を合わせ、誠志郎は少し笑っているようだった。
「俺ってさ、キレると体が熱くなるんだ。なんて言うのかな、血が沸騰してるみたいに熱くて、そんな時に大切な人が怪我をしてたら代わりに貰っちゃうっていう、変な体なのよ。入学式の日は目の前に八浜さんがいて、傷ついた君を見てその体質が出ちゃったみたいなんだ。その体質に気が付いたのもあの日だった。だから、あの日の事を気になってそうな二人には話しておこうと…」
目を丸くしたまま固まってしまった二人を前に誠志郎はもう少しだけ話しを続けた。
「五歳の頃、俺はこの体質が奇妙だと言われて母さんに捨てられたんだ。この体質を…俺の奇妙な力を信じれないかも知れない。信じたとしても気持ち悪いかも知れない。でも…できることなら恐がらないでほしい」
寂しげな声を漏らす誠志郎を前に辻道が何か言いたげだったが、八浜美丘に先を越されてしまっていた。
「恐いわけないじゃん!私を守ってくれた力よ!?でも、その力の事は体現した人しか信じないと思うから他の人には相談も出来ないだろうし、困ったらいつでも私を頼って。大した力にはなれないし、これからは会えない日々が続くんだと思う。けど、忘れないで。私は宮嶋誠志郎の味方です」
「私辻道陸也、以下同文です」
辻道は微笑みながら敬礼をしていた。
「辻道君ずるくない?私の言葉に乗っただけじゃん!」
「いや〜、あそこまで熱く語られちゃ出る幕ないですわ」
「ここに出る幕なんて元からないし」
「あれ?八浜氏は天然か?」
「天然じゃない。正直者なだけ、それより辻道君は私にあまり話しかけないで、本当に疲れるから」
気付かぬうちに仲良くなっている二人を横目に誠志郎はこの広い青空を目に焼き付けていた。二人には言えないことが本当は山のようにあって、その事がもどかしくて、これからの自分の歩みが不安で。けれど、誠志郎はもう一度三人でこの空の下に来られたらいいな、と考えていた。
誠志郎は新たな覚悟を決めて腰を上げた。
そして座ったままの辻道と八浜美丘を見下ろして今日一番の笑顔を見せた。
「生きて帰ったらさ、また三人でここに来ようね。今度は弁当なんかも持ってきてさ!」
「お、いいじゃん!弁当は八浜氏が担当ね」
「うん、練習しとく」
二人の返答を記憶に残して誠志郎は出口のドアへと歩き始めた。
春という季節はやってきた途端になくなる季節なのだ。新たな道を切り開くまでが春で、そこから踏み出してしまえばそこはもう季節では例えようのない荒野が広がっているのだろう。




