別れの旅立ち1
入学式から一週間が経過した。一高の新一年生は既に友達を増やしていて、授業も始まっていた。
誠志郎のクラスであるB組もまた、いくつかのグループに分かれているようだった。そんな中、辻道はクラスメイトとの馴れ合いを避けるように誠志郎を待っていた。
そして、もう一人。
八浜美丘も誠志郎の登校を密かに待っていたのだ。
その他の生徒からしてみれば一度しか見たことのない人間などに興味はない。同じ中学出身の人間も何人かいるのだが、深くは関わってこなかったため誠志郎に興味がない。
クラスメイトらは入学式の前に起こった事を忘れ去ろうとしていた。そんな時、B組の教室に忘れ去られた生徒、宮嶋誠志郎がやって来た。
誠志郎が教室に入ると皆は談笑をやめ視線を集めた。注目を浴びている状況を不快に思いつつ、窓側の最前列にて本を読んでいる辻道の前へと歩みを進めた。
辻道の本に影が落ち、彼は口角を上げた。
「随分と時間がかかったじゃん。大丈夫?」
心配する言葉とは裏腹に辻道の声は明るかった。
そして、誠志郎もまた笑みを浮かべていた。
「悪い、連絡もしないで。ちょっとだけ厄介なことになってさ」
本を閉じ、辻道は顔を上げ誠志郎を見た。その途端、目を丸くして驚いていた。
「本当に誠志郎か?」
その質問に誠志郎が笑って答える。
「当たり前だろ」
この時、辻道が感じたのは誠志郎の落ち着いた雰囲気だった。元から騒がしいタイプでは無かったが、一週間ぶりに見た誠志郎は自分とはどこか違うところで生きている人間のように感じてしまった。
そんな事を口走れば怒られてしまうだろうから、決して言えない。そのもどかしさが辻道を沈黙させた。
だが、その沈黙も誠志郎にあっさりと壊されてしまう。
「お前に話しておきたいことがあるんだ。ちょっといいか?」
「ここじゃまずいのか?」
辻道はそう返答したが、誠志郎の困る表情を見て納得していた。
「分かった。邪魔の入らない場所なら知ってる」
辻道が席を立ち、誠志郎はその横をクラスメイトの視線から逃れるように歩いていた。そして、教室前方のドアの前まで来ると自動で開いた。
この学校のドアにはそんな機能なんてないはずだ、そう思いながらも誠志郎は「便利だな」と呑気な事を口走っていた。
ドアが開くとそこには八浜美丘がいた。つまり、ドアは自動なんかではなく彼女によって手動で開けられたのだ。いいや、今はそんな事などどうでも良いか。
一週間ぶりに対面する誠志郎と八浜美丘。その二人を気遣ってか辻道がその場を離れようとした、しかし誠志郎は辻道の肩を掴んで逃さなかった。
「丁度いいや、八浜さんも一緒に来てほしい」
「話が唐突すぎ、どこに行くの?」
八浜美丘はそう言いながら辻道に視線を向けるが、呆れたようにため息を吐いて誠志郎の後ろを歩いた。
辻道は歩きながらも誠志郎に耳打ちをしていた。
「お前さ、八浜のこと好きなのに対応が雑じゃね?」
「そうか?」
「そうだよ、てかあんな誘い方でよく着いて来てくれたな。もしかして脈アリ?」
そう言いながらもニヤニヤしている辻道。その不快な笑みを見つめて誠志郎は呟いた。
「八浜さんなりに気になる事があるんだよ。俺はそれを解消してあげたいんだ」
「なんじゃそれ」
「あとで説明する。それよりまだ着かないの?」
「あーもう着くよ。この階段の上」
「上って、ここが最上階だろ」
誠志郎がそう言ってる姿を見て八浜美丘が呟く。
「屋上、って事?」
辻道は指をピンッと立てて「ご名答!」と言っていた。
そして、校則違反に気の進まない誠志郎を含めた三人は立ち入り禁止という張り紙が貼られたドアを開き屋上に足を踏み入れた。
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