不可解な進学校9
そして日が暮れた頃、誠志郎が再び目を覚ました。
ソリティアと同じベッドに寝かされていて、傷口もあまり痛まなくなっていた。それに声も簡単に出て、ある程度が元通りだった。誠志郎は歩くことも困難では無いと知り、屋敷がどうなってしまったのかを確かめるべく外に出た。
「酷いな…」
誠志郎がそう呟いていると、背後から人の気配がした。振り返ってみると、克二が寂しげな表情を浮かべながら歩いて来た。
「すまなかったな誠志郎」
「いいや。克二さんのせいじゃないだろ」
「だが、遅かれ早かれこうなることは決まっていたんだ」
克二の話を聞いて誠志郎は首を捻った。
「遅かれ早かれって…何が起きているのか説明してもらえるんだよね?克二さん」
克二は俯いたまま頷き、話し始めた。
「今日の火事はワシとソリティアの元家族が仕掛けたもので間違いない。先程、手掛かりも見つけた」
「二人には俺より前から義家族がいたってこと?」
誠志郎の質問に克二は静かに頷いた。
「ワシが集めて来た子供達がいた。ソリティアもその一人なんだ。ある時、ワシらは家族で大喧嘩をしてしまって、奴はその時の腹いせをワシらにしようと…」
「克二さん。まわりくどいのはやめて。俺、そういうの分かんないよ」
だらだらと話を進めていく克二に誠志郎は苛立ちを覚えていた。
誠志郎が知りたいのは真実であって、オブラートに包んだ話じゃない。家を燃やされて、ランチャーで撃たれて、ソリティアが切りつけられた。この一連の事からして家族喧嘩の腹いせなんて生易しいもので無いのは一目瞭然。
それに加え、誠志郎は自分の身に変化が起きていることにも気が付いていた。そして、そのことを黙り混んでいる克二に聞き始めた。
「俺の体がおかしいんだ。ムカつくと内側から熱くなって、触れている相手の傷が俺に刻まれてく。殴られても無いのに顔は痣だらけ、刺されても無いのに腹部に刃物傷…それに、思い出したんだ。昔、母さんが男に殴られてて、俺はその傷を吸い取ってた」
「…」
誠志郎は黙り込む克二を真っ直ぐ見据えて話した。
「克二さんとソリティアは俺の変な力のこと知ってて、話してこなかった。俺の記憶から消し去るために。でも、昔のこと思い出しちゃったんだ。この力も含めて俺は誠志郎なんだってことも。子供の頃の弱い俺も所詮俺だから。でもさ…いつもありがとうね」
自分の体に宿る不思議な力。その力の存在を克二は長い事隠していた。それは幼く未熟な精神の誠志郎を救う手段であり、実際にその選択は正解だっただろう。
誠志郎の力のことを知っていて黙っていた。それなのに、感謝の言葉を貰ってしまった克二は夕空を眺め、真実を誠志郎に話すと決意した。その結末がどうであれ、もう大切な義息子に隠し事をしたく無いと思ってしまったのだ。
そして、誠志郎ならば全てを受け入れ乗り越えていくと信じることにした。
「誠志郎…一つだけ聞かせてくれ」
「何?」
「その力は憎いか?」
その質問は難解な質問だっただろう。けれど、誠志郎は今日の出来事を…自分の体に刻まれた傷を…鮮明に振り返り苦笑を浮かべた。
「憎いに決まってるよ。俺はこの変な力を母さんに気持ち悪がられてたんだ。でも、逆に言えばこの力があったから克二さんとソリティアに出会えた。この力のおかげで救える人もいる。正直今はどっちつかずかな」
「そうか…」
難しい表情をしている誠志郎を見て、克二は野暮な質問をしてしまったと後悔していた。その時、誠志郎の苦笑が微笑みに変わった。
「ただ!俺はこの力と向き合って行こうと思うよ。もう目を逸らさないし、使える力なら使ってやろうって思う。俺は克二さんから色んな護身術を習ったついでに痛みにも強くなってるんだ。他人の痛みを俺が背負えるのなら、背負えるだけ背負ってみせるよ!俺は克二さんとソリティアの息子だから!」
体が凍えそうな寒空の下、一点の光が克二に落ちた。その光は自らが愛を育み、知恵を与え、道徳を教え、強さを教えた大切な息子だった。血の繋がりなんか無くても人は家族になれると知っていた克二は多くの子供達を見てきた。けれど、皆違った考えを持ち、皆が違った愛の受け取り方をして成長を遂げた。
真っ直ぐに育つ子もいれば道を逸れてしまった子もいる。強き意志の元に命を燃やし尽くした子までもいた。そして、誠志郎は克二の知る中で一番器が大きく、優しさのある子だった。
力が強いわけでは無い。天才的な頭脳を持ち合わせているわけでも無い。特別な力も自己犠牲の上にしか成り立つことがなく、お世辞にも欲しいとは思えない力だ。
だけど、誠志郎という一人の子の優しさに克二は包まれていた。
「誠志郎。お前にはワシの知る、この世界の全てを話そう」
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