不可解な進学校8
木材の焼け焦げた臭いが鼻につき、誠志郎は静かに目を覚ました。
その横にはソリティアもいる様で一安心と言ったところだろうか。けれど、体に自由が利かず動かせるのは、手と頭くらいだった。
声も出しずらい様で誠志郎は表情を曇らせていた。
ソリティアもそうだが、血を流しすぎてしまったのだろう。誠志郎はもがく事をやめ、これまでのことを振り返ることにした。あまりに多くのことがありすぎて短時間では脳が処理しきれない。
それなのに体が動く様になれば頭を整理すり時間がないだろう。そう思った誠志郎は疑問点を脳内であげていった。
まず、この家事は誰に仕組まれたのか、ということだ。
ソリティアが自室にいるということは火などは使っていないだろう。元々、ソリティアは起きるのが遅く、火事が起きたであろう時刻はベッドの上だと思う。かといって、克二さんは料理をしない、というよりかは出来ないからやはり火種は別の誰かが作ったことになる。
そこで浮かび上がるのは、部屋の窓から見下ろした時にこちらにランチャーの様なものを向けていた黒いローブを被った武装集団。奴らが火をつけたとは一概に言えない。だが、他にもそんなことをする人もいないし何よりも奴らの仲間がソリティアを刺したんだ。
黒いローブの武装集団のことを考える誠志郎だったが得られた情報が乏しく答えを出すことはできなかった。
すると、一階からの足音が壁を伝い誠志郎の体に響いた。一瞬、黒いローブの武装集団ではないかと思い強張ったが、聞き覚えのある大声が安堵させた。
「ソリティア。おるか?大丈夫か?今行くぞ」
ここにいるよ。ソリティアは重大だが息が聞こえるし問題はないと思う。そういってやりたかったが誠志郎も中々の深傷で声を張れない。小さな声でなら話せる様だが、今はまだ腹部が痛そうだ。
そして、克二が二階まで来たのか足音が近づいてくる。
「ソリティア!」
大声で部屋に入って来た克二と仰向けで扉の方に頭を向けていた誠志郎の視線がぶつかった。
克二は固まったままだ。本来ならば誠志郎は入学式の最中でこの場にいるはずがないのだから状況を呑み込むのには多少の時間が必要だった。
「誠志郎…遅くなってすまん」
瞳に涙を浮かべる克二に誠志郎は笑みを向けた。
「かつ、じ、さんも、無事でよか、った」
この時、誠志郎は克二がこの一件の何かを知っているのではないかと思っていた。普通、屋敷が焼かれて、同居人がこんな有様なら正常を保てるはずがない。何が起きたのか問い詰めるだろうし、どこを怪我したのか聞くだろう。それをしないのは、克二がこうなる可能性も視野に入れていたからなのではないのか。
もし、思っていた通りでも誠志郎は怒るつもりなんて到底なさそうだ。ただ、知りたいだけなんだ。
屋敷に起きたこと。ソリティアが狙われた理由。そして、自分の身に起きている不可解なこと。その全てを克二なら知っている様なそんな気がしていた。
誠志郎は腹部に痛みを感じながらも言葉を紡いだ。
「お、おしえ、て、ほしい」
「わかった、もういいから話すな」
克二が誠志郎の口を塞ぎ話すことをやめさせていた。
そして、克二は誠志郎とソリティアの服を捲り、声をあげた。
「おい。ソリティア。なんだこの傷」
克二の慌てっぷりを見て、誠志郎はソリティアの傷が自分の想像以上で命の危機なのではないかと肝を冷やしていた。だが、克二の驚愕的な表情が誠志郎にも向けられた。
何か言いたげな誠志郎だったが、言葉にする体力も無くなり再び瞳を閉じた。
克二は眠りについた誠志郎の腹部に視線を落とした。
「ソリティアに何かあったのは間違いない。ついに奴が動き始めたんだ。だが、誠志郎が襲われる意味がわからない。何よりも、ソリティアにあったであろう傷が中途半端に塞がっていて、誠志郎の腹部に似た傷がついている。本格的に目覚めてしまったのか」
克二は険しい表情のまま自室に戻り、特製の塗り薬を二人の腹部に塗った。市販で売られていないものだが、効果はどの薬品をも凌ぐ。
誠志郎が今日初めて立ち入った克二の部屋は謂わば彼自身の研究室みたいなものなのだ。何を研究しているのかは全くわからないが、身体に関わることには間違いないだろう。その証拠に克二の机には「解剖学」の本が山積みになっていた。
慌てていた誠志郎の目には入らなかったみたいだがかなりの量が克二の部屋には置いてあったのだ。




