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不可解な進学校7

 入学式が終わりを迎えた同時刻。誠志郎は、屋敷の無残な姿を目の当たりにしていた。

 誠志郎の住む屋敷は、街から十キロ近く離れたところにあり、巷では()()()()()()と呼ばれている。人が近付くことのないこの屋敷が火事になるなんて事は考えずらい。だが、受け入れるしかない程の火力に誠志郎は涙を流していた。


 屋敷の周りには人が誰一人としていない。普通なら消防官などが火を消し止めてくれるのだが、その様子もなく火力を増すばかりだ。

 こんな辺鄙な所にあるから助けに来てはもらえないのか。もしくは、この屋敷が呪われた屋敷だからなのか。


 誠志郎は涙を拭い、火の中へと飛び込んでいった。


 誠志郎は幼い頃から暴力の環境で育ち行く場所を無くした。かつての家に帰りたくない一心で街の外れにある呪われた屋敷に辿り着き、美しき女性ソリティアに拾われた。それからは、家主である宮嶋克二とソリティアとの三人で生活して来た。


 トラウマが消えることのない中、二人の愛に包まれ誠志郎は成長出来たんだ。

 学校にも通わせてもらい、食べ物も恵んでもらい、血の繋がりがない三人だけれど誠志郎自慢の家族だった。

 それが、たった今壊されそうになっているのだ。


「ソリティアー。克二さーん。何処にいますか?聞こえますか?」

 屋敷内に入った誠志郎は必死で声を張り続けた。火煙を吸って頭がクラクラして来ても、声を張り続けることをやめなかった。屋敷の奥に進むほどに熱さは増していった。

「ソリティア…克二さん。頼むから返事をしてくれ」

 焼け崩れた瓦礫をかき分けながらも、誠志郎は奥へと進んでいく。そこにあるのは部屋は克二の部屋だからだ。


 克二は日中は自室にこもり何かをしている。たまにいない事もあるが、今日がその日であってほしいと思いながら誠志郎は足を進めた。


 屋敷の割れた窓から風が入ってくる。その風がまた焼ける様な熱風で誠志郎は顔を制服のブレザーで隠しながら前進した。

 そうして、屋敷の最も奥にある克二の部屋へと辿り着いた。扉の付け根から火が燃え広がっていて誠志郎は蹴り一つで扉を突き破った。


 もう何年もこの屋敷で暮らしているが克二の部屋に入るのは初めての事だった。そこで、誠志郎は目を疑う光景を目にしていた。

「火がない…ここだけ燃えてない」

 なんと、克二の部屋だけ全く燃えてはいなかったのだ。外で見た時から火は屋敷を丸々呑み込むほどだったのにそんなことがあり得るのだろうか。だが、誠志郎はそんなことを後回しに、次はソリティアが居るであろう二階の部屋へと足を進めた。


 克二の部屋のすぐ側には階段があり、この階段を上がりきったすぐの部屋がソリティアの部屋だ。普段の環境ならすぐに辿り着くが火が燃え広がる中では、中々に苦難な道だった。

 足場も悪く、階段を上る程に熱さが増していく様だ。それでも、今の誠志郎は熱さなど気にしなかった。

 ただ必死で、大切な家族を失う事が怖いだけ。ソリティアと克二が生きてさえいてくれるのならなんだっていいと考えている。


「ソリティア。ソリティア」

 誠志郎は自分の息もそう長くは続かない事を頭では理解している様だった。だから、とにかく急いでいたんだ。

 誠志郎が火の階段を上り終え、ソリティアの部屋の扉を打ち破ろうとしていた。その時。


 ソリティアの部屋からガラスの割れる様な音がした。

 誠志郎はソリティアの部屋が火に覆われているためガラスが割れたと思い、慌てて扉をこじ開けた。だが、誠志郎の思い過ごしだった。

 ソリティアの部屋も火は入っていなかった。


 ただ、部屋の窓から誰かが飛び降りる気配があったような気がした。

「ソリティア?」

 もし、今感じた気配が確かなら外に飛び降りたのはソリティアだったのではないかと思いつつも誠志郎は部屋の中へと入って行った。


 部屋に火は入っていないが時間の問題だと考えたソリティアは外へ飛び出した…ということなのだろうと思った誠志郎は、自分も窓から外に出ようと思い走った。だが、その瞬間に視界の片隅に扉のすぐ横の壁に倒れ掛かる人影が見えた。


 部屋に入ってすぐ、正面の窓目掛けて走っていた誠志郎は、部屋の中央辺りで足を止め後ろを振り返る。

「え、な、な。ソリティア…。ソリティア?」

 誠志郎は困惑しつつも窓に向かい、たった今飛び降りた人間がいたのかを確認した。


 すると、屋敷の外にはランチャーの様な武器をこちらに向けた黒いローブを被った武装集団がいた。一人がその集団の元へと走り、庭を横切っている。その男が部屋から飛び降り、その男がソリティアに何かをした。

 誠志郎は激しい怒りに呑まれそうになった。だが、ソリティアの無事を確認する事が先だと思い、窓から顔を引っ込めた。


 そして、ソリティアに駆け寄った。

「ソリティア。大丈夫?」

 顔色の悪いソリティアを抱きかかえた瞬間、誠志郎は手に違和感を感じた。恐る恐る、自分の手に視線を落とす。

 まさかと思いつつも、やはり手は赤く染まっていた。


「どうしよう。どうしよう。止血…止血しないと」

 誠志郎はパニックになった自分をなんとかコントロールしてソリティアの止血の方法を考えた。だが、止血など今更関係ないほどの出血。そして、重低の発砲音が何度も鳴り響いた。


 数秒、屋敷が大きく揺れ、天井が崩れ始める。

 この時、外にいた武装集団のことを誠志郎は思い出していた。

「あいつらか。何でだ。何でこの屋敷を襲うんだ」

 誠志郎は虚しくも一人嘆き叫び続けた。けれども、屋敷は崩れ落ちて行く。


「もう、やめてくれ。やっと出来た家族なんだ…」

 死なせてたまるか。無くしてたまるか。壊されてたまるか。誠志郎はこの言葉を心の中で叫んだ。すると、体の内側が熱に帯びていく感覚がした。

 この感覚が今朝の学校で八浜美丘を救いに行った時と同じ熱さだと、誠志郎は気が付いてはいない。ただ、無我夢中で自分に降りかかる不条理と闘っているのだ。


 やがて、誠志郎の黒き双眸は青き双眸へと変化し、腹部から血が流れ始めた。ナイフの様な刃物で切られたみたいに臓器に微かな傷が生まれ、その激痛に耐えられず意識を失った。

「…たまるか…」

 誠志郎の声が外に出る事はなかった。

本日もご一読頂きありがとうございます。



星をひとつ頂けるだけで書くための活力になります。


よろしくおねがいします。

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