第5夜 いざ、クエストへ
「なんでおれが魔王なんだよ!」
「嫌だったか?一応他にも候補はあるんだけどな、一つだけだけど。」
「嫌に決まってんだろ…おれはどこからどう見ても”村人C”って感じだぞ!そんな奴が、街中で『よー、魔王!』なんて呼ばれたら恥ずかしすぎるだろ!装備もただの草だし。」
草で出来た自慢の装備兼服(?)を見せつけながら、おれは反論した。あぁ、服が欲しい…
「そう言えば気になってたんだけど、魔王はなんでそんな草を体にまとわり付かせてんだ?」
魔王なんて呼ぶなよ…と思ったが、もう諦めた。
「いや、おれ服持ってないんだよね。」
「服を持ってない…と?」
「うん、そうだけど?」
「…え?変出者ァァァァ!?」
「ちょちょちょ待て待て待て待て待て!話を聞け!」
「イヤァーン、ケダモノ!」
ムニエルはそう言うと、自分の胸を腕で隠した。
「お前の胸なんか見たくねーよ誰得だよクソオヤジ!てかお前元々服着てんだろ!」
おれはとてもイラついた。怒りメーターで言うと80%くらいだった。
「だーかーら、話を聞けって!」
「仕方ない、話を聞こう。」
そう言うとムニエルはスっと落ち着いた。嵐のような時間が通り過ぎていったようだ。
最初からふざけずに話を聞いて欲しいものだな。
ここで、おれは話を切り出す。
「うむ…実はな。おれ、この世界に来たばっかなんだ。」
てん、てん、てん、ポカーン。
数秒の沈黙の後、ムニエルが続けた。
「ぐへへへへへ!(笑)何言ってんだよ。やっぱりアホか?アホなのか?」
「アホじゃねーよ!いやアホかもしんないけど。
あなた、会ったばかりの人にアホアホ言い過ぎだぞ。本当なんだって、信じてくれよ〜。」
「まあ、そういうことにしておこう(笑)。」
「(笑)ってなんだよ…ま、いーか。
それでな、さっきも言った通りこの世界には来たばかりなんだ。だからこの世界の常識なんて持ち合わせてないし、服も勿論持ってない。だから、服は雑草で作った。」
「確かに、常識あったら毒キノコなんて持ち歩かないし、自分のことを魔王だなんて言わないし、鏡で自分の顔を見て、”おれ、カッコよくね?”なんて普通は人前で言わないもんな。なるほど、納得した。」
「ちょっとそれ毒キノコ以外この世界の常識とは関係無くない!?」
溜息を吐くおれとは対照的に、ムニエルは楽しそうだった。まったく、愉快なやつだ。
そして、ここでおれは聞きそびれていた事を思い出した。
「あ、ムニエル。そういえば冒険者ってのは何なんだ?」
「あー、冒険者ってのは、その名の通りだ。簡単に言うと、好きに旅をしながらクエストをこなして暮らしていく、みたいなものかな。」
なるほど、その日暮らしってところか。
「ふむふむ。そのクエストってのは?」
「クエストってのは、依頼だよ。国から出されてるものもあれば、町や個人単位で出してるものもある。自分がクリア出来そうなもので報酬が良いクエストを発注するのが一般的だな。」
「ほへ〜。クエストは冒険者じゃないと受注出来ないのか?」
「そんなことはない。何なら、俺らで試しにクエスト受けてみるか?(余裕の笑み)」
おお、ムニエルの顔が自信に満ちている…頼もしいな!
「おう!」
こうしておれとムニエルはクエストを受けることとなった。