第4夜 山本、二つ名を授かる
おれたちはおっちゃん家の居間で談笑していた。
「いや〜おっちゃん助かったぜ。危うく漏れるとこだったよ」
実は、森でおっちゃんと出会った時……おれは漏れる寸前になり、歩けなくなったのだ。
そこを、おっちゃんが助けてくれた。
おれをお姫様抱っこでおっちゃんの家まで運んでもらったのだ。正確にはトイレまでだが。
「な〜に、気にするな。ところであんな森の中で何してたんだ?」
「あ、ああ〜ちょっと色々とありましてねぇ〜」
おれは焦って回答をはぐらかした。前世で死んでこの世界に転生してきたなどと言ってもいいのだろうか?
「そ、それより、森の中でこのキノコ拾ったんだけど、食べれるの?」
そう言うとおれは、話題を変えるように、紫色のキノコを差し出した。
「おっおまっ!なんてもん持ってんだよ!そりゃ毒キノコだよ!アホか?アホなのか!?」
いや、このおっちゃんにだけは言われたくないでござるな!
「実は拙者アホだから、食べられるキノコの区別も付かないのでござるよ〜」
「実はも何も、見たまんまアホだろ」
「……え?」
「……ん?」
暫く沈黙が続いた。
あ、そういえば。おれの容姿が気になるな。生きていく上で容姿は重要だからな。前世と同じなのか?それともめっちゃイケてたりするのか!?ハァハァ……興奮してきた。
鏡みたいな物はこの世界にあるのだろうか?
「なぁ、 おっちゃん。鏡って知ってるか?」
「貴様バカにしてるのか?知ってるに決まってるだろアホ!ほれ」
またアホと言われたが、この世界にもあるようなので安心した。
「ありがとよ、おっちゃん!」
よし。おれの顔を確認しよう!
……お?……うおぉぉぉぉ!?めっちゃイカしてるぅっ!!イケメンすぎるだろおれ!
「なあおっちゃん、おれってカッコよくね?」
おれは鏡で自分の顔を見ながらそう言った。
「うわ……あんちゃん頭大丈夫か…?」
おっちゃんの顔が引きつってる。
「……違うんだ!やめてぇ!変な誤解しないでぇ!このキノコあげるから!」
「いらねぇよ!」
そんなこんなでおれとおっちゃんは仲良くなった。
このおっちゃんの遠慮のない感じが原因だろう。
「おっちゃん、そう言えば名前聞いてなかったけどなんて名前なの?」
「ああ、そう言えば名前言ってなかったな。
俺はムニエルっつーんだ。よろしくな!」
ムニエルか。美味しそうな名前だな。お腹すいてきた。
「おれのなまえは山本だ。よろしくなムニエル!」
この世界で初めて出会った人が良い人で良かったと安堵する山本であった。
「ところで、あんちゃんは冒険者かい?あんな森の中にいたし。」
「せっかくだし名前で読んでくれよー、
そして冒険者とは?」
「わりぃわりぃ。なんかあんちゃんって方が呼びやすくてな。あっ、やっぱり呼び方変えるわ。」
「ん、なになに?山本?それとも山ちゃんとか!?」
冒険者とは何かは聞きそびれたが、もしかしてあだ名を付けてもらえるのか!と、おれは喜びを隠せなかった。
何せ、あだ名を付けてもらったのは小学校2年生の時くらいだからな。
“う〇こマン山本”
まぁ、あの時は、あだ名を付けて「もらった」と言うよりは、付け「られた」が正しいだろう。
何だろう何だろうと、笑顔なおれとは裏腹に、ムニエルの顔は邪悪に満ちているように見えた。
「フッ……フハハハハハハハハ!決めたぜ、あんちゃんの呼び方!」
「う、うん!なになに!?」
「あんちゃんの呼び名は……魔王だ!」
「なんでおれが魔王なんだよ!」
「いや、さっき独り言でおれは魔王だって言ってたじゃん。あ、大魔王だったかな?」
「や、やめろー!いや辞めてくださいぃ!」
わずか数刻前に出来た黒歴史を、こんなすぐに掘り返されるとは……何だか胸が苦しくなる。
はぁ、この世界でも変なあだ名になるのか……。
悲しみにふける山本であった。