第2夜 目覚め
ふぁ〜あ。
山本は口を開け、大きなあくびをした。
あれっ、ここは……?
見覚えのある天井。ああ、おれは起きたのか。
結構面白い夢だったんだけどなー、もう起きてしまったのか。てゆーか、夢の中と言っても、う〇こを我慢してる時に起きるとなんか寝覚め悪いな。
……ん?なんか臭うな。アレっ、これやっちゃってるぅ!?
おれはおもらしをした。
おもらしと言えば、小学二年生の時に登校中に漏らして以来だ。
あの頃はしばらく、やーい、う〇こマン山本だー!逃げろー!
などとしばらくみんなに言われていたのが懐かしい。まあ、今は周りに誰もいないし片付ければあまりダメージはない。あれ!?フラグ!?
ぎょっとなり、周りを見るがやはり誰もいない。
おれはホッとした。
「あー、まだ朝の7時か。時間的にも余裕があるし、さっさとおもらしの片付けするか。
てゆーか、さっきの夢の続き見たいぜ!」
そう思いながら、おもらしの片付けをした。
「ふー、あとは朝飯を食べて学校行きますか……って、あっれぇ!?もう8時!?遅刻じゃねーか!急いで家出ないと!」
そして山本は家を出た。この日がこの世界最後の日になるとも知らずに。
なんやかんやで山本は死亡した。
「あ、おれ死んだ」
何が何だか分からないうちに、おれは意識が朦朧とし、目の前が真っ暗になった。
思えば短い人生だったな。
おれは過去の出来事が走馬灯のように頭を流れた。
う〇こマンになった小学二年生、
好きな子に思い切ってメアドを聞いたら、
「ごめん、私メールやってないんだ(笑)」
と言われた中学三年生。
嘘やん……数少ないおれの友達のたけしがゆみちゃんとメールしてるって言ってたぞ…
これは遠回しにあなたとはメールしたくないです、と言っているのだろう。つまり、振られたのだ。そう悲観したが、口には出さなかった。おれは男だ。勇気を出したのだから振られても誇りに思おう!
このポジティブさは山本の必殺技である。
……てゆーか、全然良い思い出なくねぇ!?
そして走馬灯が駆け巡ると、真っ暗だった視界が開け、眩い光が差し込んできた。
すると、おれの目の前には、透き通るような金色の髪をなびかせている女の子が立っていた。
「あなたは……?」
「あら、私が誰だろうといいじゃありませんか。そんなに知りたいのですか?私の事が。」
「い、いえ……別にあまり興味はないのですが。それよりもここはどこなんでしょうか?」
「まったく、失礼な人ですね。こんな絶世の美女を前にして私の事を知りたくないなんて。」
うわっ……確かに美人だけど、おれこの人苦手かも。
「それよりも、ここはどこなんですか?」
おれは少しキレ気味に返した。
「まぁ、良いでしょう。ここは精神世界の一部です。私が通りがかった所に、不気味な魂がさまよってたので。その魂があなたです。あなたの魂はなんだか気色悪いですね。毛が生えてますし。」
お返しとばかりに女の子が嫌味を並べてきた。てゆーか、魂に毛が生えてるってなんだよ!?それがおれの魂なの?それは我ながらショック…と言っても、その前に精神世界やら魂やらという存在に驚いてるのだが。
「はぁ……そしてあなたはおれに何の用ですか?」
「さっきから何なんですか?その態度。この私に対して失礼ですよ、あなた。せっかく生き返らせてやっても良いと思ってたのになー、あー勿体ない勿体ない。ドンマイ!まったねー」
「あぁー!ち、ちょっと待ってー!お願い絶世の美女様ぁ!それにその髪飾りもとても素敵で似合ってますね!」
「あん?てめー嘘ついてんじゃねーぞコラ、どつき回すぞコラ?」
女の子が鬼の形相をしてガニ股でおれに近寄ってくる。てか、いけません。女の子がそんな言葉遣いしてはいけません!あとガニ股も!
「ひ、ひぃぃ!ごめんなさい!なんで嘘だって分かったんですか!?」
「は?嘘ついてるかなんて分かるわけねーだろ、死ね!」
えぇ!?てことは、カマかけたのかこの人?凄く感が良いんだな……。
「カマかけたんですか!?酷いですよ!」
「ケッ、クソが……そ、それよりも。」
「な、何でしょうか?」
「こ、この髪飾りなんだけど……どう思う?」
「あぁ、その髪飾りは素敵だと思いますよ。その髪飾りは!」
「てめぇ何で2回言ったし……まぁ許してやろう。
だろう?この髪飾り可愛いだろー?私の好きな人からプレゼントされた物なんだ♪」
ビックリするほど機嫌良くなったな!よほどその人のことが好きなんだろうな。
てゆーか、この人言葉遣い悪すぎないか?本当は不良なのじゃないだろうか……暴走族とか。
しかし、ここは持ち上げて機嫌を良くさせた方が良さそうだな!
「勿論でございますとも!この素敵な髪飾りは、まるで、美しいあなたの為だけに作られたような物だと思います!」
「でっしょー?あなたも見る目があるわね♪」
ごめんなさい思いっきり嘘なんですけど!髪飾りが素敵だと思うのは本当だけどね。というか、さっきの感の良さはどこに行ったんだ?こんなのすぐ嘘だと気付くと思うんだけど……恋は盲目的なアレか?
「ふ、ふん。仕方ないですね。ま、まぁ?見る目がありそうですし?生き返らせてあげても良くてよ?」
おれはこの言葉を聞き、待ってました!と言わんばかりに笑顔になる。
「ありがとうございまあぁぁす!」
「ただし、条件があります。1度はこの私に無礼を働きましたからね。」
「じ、条件……とは?」
「これを見なさい!」
女の子がポケットからモゾモゾと変な物を取り出し、ドーンっ!っと置いた。
ちょっと待ってぇ!そんな大きくて重そうなものどうやってポケットから出したの!?ドラ〇もんですか?
そして、それは黒い布が被ってあり何だかは分からない。
「それは……?」
「聞いて驚きなさい、見て驚きなさい。これが……」
ここで女の子は黒い布をカッコよく取った。
「これが、私の大好きなパチンコ台ですっ!」
「……は?」
おれは、無意識に思ったことを口にした。それほどビックリしたからだ。女の子がパチンコ大好き!ってのは一旦置いといて。急にパチンコ台を出されてどうしろと?
「は、じゃないですよ。あなたにはこれをやってもらいます。経験はありますか?」
「まぁ、ゲーセンで何回かした事ありますけど……。」
「そ、こ、で!30分以内にあなたがこのパチンコ台で大当たりを引ければ、生き返らせてあげましょう。契約しますか?」
「よし、乗った!」
おれは即答した。元々死んでる身だし、生き返れる可能性が少しでもあるのなら、乗らない手はない。そして何より……
「良いでしょう。では、契約をします。生き返りたければ、只今より30分以内に大当たりを出しなさい。よーい、スタート!」
「うおぉぉぉぉぉ!」
キュイいいいいん、7!
キュイいいいいん、7!
リーチ!
おれはすぐさまリーチまで持っていった。
「えぇぇぇ!?ちょっとまってー!あなた何したの!?」
「この台には、裏技があるんですよ。」
おれは白い歯を光らせて、カッコつけてネタばらしをした。
そう、この契約に即答したのは勝つ自信があったからだ。
元より、裏技何ぞない。台の情報を軽く見て、大当たりがすぐ出ると確信していたのだ。
数回しかパチンコをした事ないなんて、真っ赤な嘘だ。ギャンブラーの父の元、おれは子供の頃から英才教育を受けていたからな。パチンコの。
そして……
キュイいいいいん、7!テッテレッテレー、大当たり!右打ちに変えてね。
見事におれは大当たりを引いた。開始5分もかかってなかったと思う。
「ねぇねぇ、あなたどうやったの!?教えて!」
女の子が目を輝かせて聞いてくる。この人からは、何だか父に通ずるモノを感じる。
そして、おれは口を尖らせて答える。
「まっ、経験みたいなモノですかね〜」
「お、お願いしますー!」
おっと、おっとっと?こんな挑発じみたことをしたのに、全く怒らないと?この女の子は、興味が引かれたモノには一直線なのかな。恋はもうも……それはさっき言ったな。
と言っても、本当に裏技なんてないんだけどな。
そんな事を考えていると、おれの周りが光り出した。
「これは……?」
「契約したからです。あなたは生き返るんですよ……。」
よっしゃー!次はそう死なないように気を付けよう。
「待ってぐだざぁい……さっきはどうやっだんでずかぁ……。」
女の子が泣き喚きながら、おれに聞いてくる。
あぁー。これじゃ、おれが女の子を泣かせたみたいじゃないか!何も悪いことしてないのに。
「分かった、分かったから!あれはですね……」
種明かしをしようとすると、おれは意識が遠のいていくのを感じた。もう数秒も意識は持ちそうにない。
「次会った時にお話します!」
咄嗟に出たのが、この一言だった。まぁ、最も適していたとは思う。
「まだお会いじまじょ〜……あっ、実は!あなたの生き返る場所は……」
そう女の子が言いかけた瞬間、おれの意識は完全に無くなった。
……ん?なんか見覚えがあるような……。
「あんちゃん、どうしたんだ?ケツなんか出して(笑)」
おれはおしりが丸出しの状態で復活した。
あれっ?これ夢で見た世界じゃね?
もしかしておれ、この世界に転生した!?
山本冒険記の始まりである。