異世界のガンマン 〜新月の用心棒〜
「バケモノめ」
生まれたときから、いつだって私はそう罵られてきた。
そうありたかったわけじゃない。
望んでヒトではない生命を授かったわけじゃない。
「……気持ち悪い」
「消え失せろ!怪物め!」
耳にこびりついて離れない声。
私がなにをしたというのだろう。
なにもしていない。
なにをする気もない。
ただ生きていたい。
それなのに。
たった、それだけなのに。
私は差別され、迫害され、こうして独り寂しく、死んだように生きている。
「……あぁ」
誰か。
私を、連れ出して。
私を、ひとりにしないで。
――私はそう願い……彼と、出逢った。
それは、新月の夜の出逢い。
◆◆◆◆
ひゅうひゅうと乾いた風が吹く。
荒れ果てた荒野を、ひとりの男が黒馬に揺られてまっすぐ進む。
彼の進む先に、小さな町が見えてくる。
「……モリコーネ、か」
男は看板に走り書きされた町の名前をなんの感慨もなさそうに読み上げ、町へと入っていった。
「魔族を許すな!」
「この世界は我々人間の住む土地だ!」
「人による人のためのよりよい暮らしを!」
モリコーネの町民と思しき男や女たちが人を集めて高らかに声を張り上げる。
行き交う人々も足を止めて、その演説に同調し頷き、賛同の声を上げる。
「……」
これを見た男は、無表情のままこの集団に近づいて行った。
「なんの騒ぎだ?」
男が尋ねる。
「あぁ、この前の王都軍と魔人軍との戦争で、この町の若いのが何人か犠牲になったんだ。兵役に出た立派な若者がな……」
演説を聞いていたうちのひとりがこれに答え、尋ねた男の方を振り返る。
「あ、あんた……」
彼は尋ねた男の出で立ちを見て、ギョッとした。
全身黒づくめ。
カソックコートを羽織り、鍔の広いギャンブラーハットを目深に被っている。
唯一黒でないのは髪の色。脱色したように白色だった。
最も異様なのは、背中に棺桶を背負っていることだ。
明らかに、聖職者には見えない。
それどころか、不幸を運ぶ死神のような姿だった。
「なんだ?」
「い、いや」
「……演説は結構だが、喧しいな。それよりここにサルーンは?」
「酒場ならあっちの方だよ」
「そうか」
カソックコートの男は、迷いなく酒場へと向かい、そのまま中へと入った。
すると、酒場で酔っ払っていた男たちが彼の異様な姿を見てたちまち息を呑む。
どんな酔い覚ましよりも、その異質さはアルコールに効くことだろう。
「ウィスキーだ」
男は気にした様子もなく、カウンターに寄りかかって店主に注文をする。
「かしこまりました」
店主も平静を装い、ウィスキーを手慣れた様子で差し出した。
男はウィスキーをグラスに注ぎ、ぐいと呷った。
「……この町はいつもこうなのかね」
「はっ?」
「いつもこんな風に喧しいのか?」
「え、いやぁ……喧しい、だなんて思ったことはありませんよ」
「だがうるさいだろう。あんたにはこの演説が子守歌なのか?」
「そ、そうは言ってもみんな魔族を憎んでおりますし……あなただって、そうでしょう」
「……」
男は無言で店主の目を覗き込み、ウィスキーをさらに呷った。
それから、彼は首だけを動かして言った。
「そこの張り紙が気になるな。見せてくれ」
「あれですか?」
「そいつは手配書だろう」
「ええ。この町の最大の敵ですよ」
店主が紙を剥がして男に手渡す。
「ヴァンパイア……か。懸賞金は2000ゼールか。それなりに高い額だが、今まで誰も挑まなかったのかね?」
「この町は辺境ですからね。小さな町ゆえ王都軍もわざわざ吸血鬼退治に来てくれやしない。最近ようやく探偵社から依頼を受けた賞金稼ぎが来るって話だ」
店主はため息をつき、愚痴った。
「こいつはなにをやったんだ?」
「今のところ特になにも。ただ、気づいたらここからすぐ近くの廃屋敷に住み着いていたんです」
「……住み着いただけか?」
「ええ、それだけです。でも十分でしょう?我々はずっと怯えて暮らしてるんだ」
「……」
男はじっと手配書に目を落とし、やがて言った。
「こいつのいる廃屋敷はどこにある?」
「退治してくれるんですか?」
「屋敷はどこだ?」
嬉しそうに声を弾ませた店主の質問を無視して、男は繰り返した。
「町を出て南へ向かえばすぐですよ」
「南だな」
男は銀貨を投げつけて、カウンターから離れる。
去っていく男の背中に、店主が声をかけた。
「あなたの名前は?」
「名前は捨てた。過去も、なにもかもな」
彼はなんでもないことのようにさらりと言った。
「それでは……あなたは誰でもない、と?」
「そうだ。だが、どうしても呼びたければ」
そして、振り返って彼は付け足した。
「名無しのゴンベエ。ゴンとでも呼んでくれ」
嘘か誠か、ゴンと名乗る男を見送ってから、店主はふと思い出したように壁に貼ってある別の手配書を見た。
「あ、あの男……まさかっ!?」
手配書に書かれた男と、今の棺桶の男と特徴が一致した。
特徴的な棺桶と、カソックコートを身につけた黒一色の不吉な衣装。
かけられた賞金は5万ゼールの無法者中の無法者。
間違いない。
「ヤツは〈灰色の男〉――ジャンゴだ……!!」
◆◆◆◆
モリコーネの町を出て、ヴァンパイアがいるという屋敷へとジャンゴは馬を走らせた。
「ここか」
ほどなくして、ジャンゴは件の廃屋敷に辿り着く。
彼は馬を降りて、屋敷の扉を押した。
扉は簡単に開き、ギィと音を鳴らした。
来客に反応したコウモリがバサバサと翼を鳴らして、彼の侵入を歓迎する。
「……まさしく、って雰囲気だなこれは」
ジャンゴは動じず、階段を昇って二階に上がる。
感覚を研ぎ澄まし、人気を探って進み、やがて彼は一室のドアの前で立ち止まった。
遠慮もなく、彼はその部屋に入った。
「……」
そこでジャンゴは、ひとりの美しい女性と目が合った。
紫がかった暗い色の長髪。
血のように紅い瞳。
彼女が、ヴァンパイア。
モリコーネの町民を震えさせる恐怖の怪物。
「おまえがヴァンパイア?」
単刀直入にジャンゴが聞いた。
「……ええ」
彼女は頷く。
容姿は大人びているが、声にはまだ少女のあどけなさが残る静かで柔らかい声だった。
「なにをしに来たのか、なんて聞く必要もありませんね」
「そうかい?」
「殺しに来たんですよね、わたしを。いくらかは知りませんけど、いつかは賞金稼ぎが来るってわかってました」
「抵抗しないのか」
「ええ。……もう、どうでもいいんです」
「どうでもいい?」
彼女は声を震わせ、感情の込み上げるままにまくし立てる。
「みんな私を突き放しました。なにもしていない。普通の人間じゃないってだけで私を差別して、罵って、殺そうとする。どうして?
私がそう望んでヒトと違って生まれたわけじゃないのに。
……ええ。私は確かに魔族です。けれど、人間でもあります。混血なんです。父が吸血鬼で母が人間。魔族と人間のハーフ。それがわたし。両親の愛を否定するわけじゃありません。でも、そのために私はどちら側にも立てなくなった。魔族からは裏切り者として追われ、ヒトからはバケモノとして恐れられる。
それで父も母も殺された。
ひどい話ですよね。生きていること、生まれることが罪だなんて。いいえ、産まれる前から、罪を背負わなきゃいけないなんて。それに、今こうして生きているだけで罪は増えていく。
それなら……死んでしまえばいい。私なんか」
彼女は話し終えると、息を大きく吸い込んで、はぁっと吐き出した。
「言いたいことはそれだけか?」
ジャンゴは無感情に言った。
「……ええ。それだけです。同情して欲しかったわけじゃないんです。ただ、誰かに聞いて欲しかった。その上で、死にたかった。……さぁ、私を殺してください。賞金稼ぎさん」
吸血鬼の少女は、彼から与えられる死を待ち構えた。
だが、ジャンゴは……。
「断る」
と、キッパリ言った。
「……ど、どうして?」
困惑する吸血鬼の少女に、ジャンゴは近寄る。
そして、彼は人差し指を彼女の目許に伸ばしそっとなぞる。
そして、彼は自分の人差し指を彼女に見せつける。
その濡れた人差し指を。
「言い直せ」
「え……?」
「本当に死にたいのか?どうなんだ?」
「わ、私は……」
「強情を張って、死にたいと主張してもいいが」
ジャンゴはとんとん、と彼女が先程まで読んでいたであろう本をつついた。
「そいつを読み終えるまで死ねないね、俺なら」
「……それだけの、理由で?」
「それだけ?いや、十分な理由さ。生きることはそう難しいことじゃない。むしろ、死ぬことの方が難しいと思うがね」
ジャンゴはタバコを取り出して火をつけ、ぷかぷかと紫煙を燻らせた。
「例えば。このタバコが美味いから、俺は今日この瞬間も生きていられる。おまえさんはどうだ?」
「……」
「いいか。まだやり残したことがあるのなら。やりたいことがあるなら、絶対死ぬな。図太く生きろ」
「でも……私は結局は魔族です。人間の敵ですよ」
「だからなんだ。人間が正義を振りかざして魔族を敵にして弾圧するのなら、悪になって立ち向かってもいいんだぞ。もちろん、非道な悪事を許さないってのもおまえの自由だ。だがな、だからといって他人の語る正義には従うな。従うなら……」
ジャンゴは自分の胸をがんっと叩いて力強く言った。
「おまえの心にすべて従え。その上で、生きろ。おまえの人生を他人の価値観に縛られるな」
「私は……本当に、生きてて、いいんですか?」
「それを決めるのは俺じゃない。他の誰でもない。おまえだ。おまえ自身が望むことだ」
「……そう、ですね」
彼女は、自分を励ましてくれる目の前の男に、今できる精一杯の笑顔を作ってみせた。
「訂正します。私は、まだ死にたくありません。もっと色んな本が読みたい。まだ知らない外の世界を見たい。それで……いつかわたしの本を書きたい。だから……生きていたい」
彼女の真意の言葉を聞いて、ジャンゴは大きく頷いた。
「それでいい。……ところで。おまえ、名前は?」
「私はカーミラと言います」
「俺は誰でもない、ただの名無しの男さ」
「……ジャンゴ、でしょう?」
「ジャンゴね……俺にはその名前は称号でしかないんだが。名無しってのも呼び辛いのもわかるし、おまえがそう呼びたければそれでもいいよ」
「じゃあ、ジャンゴ。ジャンゴさん」
「はいはい。よろしくな、カーミラ」
ジャンゴがカーミラの手を取り、軽く引いた。
カーミラの手は冷たかった。
だがジャンゴの手は対照的に温かった。
その体温を感じながら、彼女がゆっくり立ち上がる。
それからふたりは部屋を出て、一階へと降りるため階段へ向かう。
「あの、ジャンゴさん」
「なんだ?」
「本当に、いいんですか?わたしは血を欲しがります。純血の吸血鬼よりは衝動は薄いけれど、それでも、血が必要になるんです。私は罪を犯し続けます。魔獣だけに留まらず、人を殺して……それで生きていく存在なんですよ」
「そうか」
彼女は未だに抱える迷いを打ち明けるが、ジャンゴはただひとこと返事をしてうなずいた。
「……どうしてあなたは、私の罪をそんなに簡単に受け流せるんですか」
「そんなのは簡単だ。俺が無法者だからだ」
「……」
「俺は誰の正義も悪も気にはしない。この世界にある法がなんであれ歯牙にもかけん。俺は俺の信念と誇りに従う。だからおまえも、自分の人生を好きなように生きろ」
「……私もそんな風に、自由に生きられるんでしょうか」
「生きられるさ。俺がそう生かすとも。おまえを苦しめる罪が何百とあろうとも、俺が、俺ひとりがそれをすべて許す」
彼は力強く言った。
カーミラは、今まで背負ってきたものすべてがごっそりと抜け落ちたように体が軽くなった。
「……ありがとうございます、ジャンゴさん」
カーミラがジャンゴに感謝を伝えたそのとき、屋敷の扉が荒々しく開かれた。
「ヴァンパイア! 貴様を退治しに来たぞ!」
現れたのは、三人の男女の一党。
長剣と鎧で武装した騎士。
魔法を扱うのであろう、杖を持った女。
ナイフを手に持った身軽そうなエルフの女。
「話に聞いていた賞金稼ぎか」
「ああ。探偵社から依頼を受けたプロさ。そういうおまえも賞金稼ぎだろ?」
「ああ、そうだな。だが俺の商売は賞金稼ぎだけじゃない。頼まれれば殺し屋にもなる。用心棒もする。どこにでもいる流れ者さ」
淡々と答えるジャンゴの後ろに、カーミラがさっと隠れる。
「なら話は早いな。そこにいるヴァンパイアを引き渡せ。そうすれば賞金は山分けにしてやる。2000ゼールだ。四人で分けてもそれなりに遊べる額の金だぜ」
「そうだな」
ジャンゴは手だけでカーミラに待つように指示を出し、彼らのもとへゆっくり近づく。
「だが、俺はこの女の用心棒だ。彼女を守るのが今の俺の仕事だ。これは譲れないな」
カーミラはジャンゴを見据えた。
彼の迷いのない言葉を胸に刻み込んだ。
「……く、くく。あーはっはっはっはっ!! なにを言い出すかと思えば……そこの女に絆されたか? バカ言うなよ。そいつは生きてちゃいけない存在だ、悪だ。そいつに味方する理由がどこにある?」
だが、ジャンゴの言葉に対して騎士が大笑いし、仲間のふたりもニヤニヤと笑う。
カーミラの顔が恐怖に引き攣る。
ジャンゴだけが特別で、やはり他の人間は自分を殺したがっているのだと。
カーミラは、隠しようのない彼らの殺意を感じて震えた。
「それとも、そこのバケモノの首にかかった2000ゼールよりも高い金で雇われたのか?」
「ああそうさ。だが金じゃあない。それでいてもっと価値のあるものだ」
騎士の投げかけた問いを肯定し、ジャンゴは不敵に笑った。
「へぇ。それじゃあどれぐらいの報酬を貰ったんだ? マヌケな用心棒」
ジャンゴは余裕たっぷりにタバコに火をつけながら、騎士を睨みつけた。
「彼女の人生さ」
刹那。
BANG!!
BANG!!
BANG!!
BANG!!
BANG!!
BANG!!
「ぎゃああああ!!?」
六回銃声が鳴り響き、騎士の鎧の僅かな隙間に、鉛の弾が吸い込まれ、そこから血が吹き出した。
両肘、両膝に一発ずつ、下腹部に二発。
騎士は床に転がり、苦痛に喘ぐ。
「エメット!?」
目にも止まらぬ早撃ち。
ジャンゴは一瞬にして腰のホルスターに吊り下げたリボルバーを抜き、六連ファニングで正確な射撃をしてのけたのだ。
「くそぉ!」
女魔術師が杖を振るい、火の魔法〈フレイム〉でジャンゴを焼き払おうとする。
放たれた火炎がジャンゴを呑み込もうと迫る。
しかし。
「プロテクション」
ジャンゴは落ち着き払って、背中に背負っていた棺桶を正面に置き、ひとことつぶやく。
すると棺桶からシールドが展開し、炎を容易く防ぐ。
「そんなっ!?」
ジャンゴは防御をしている間に、冷静にリボルバーに弾を込めていく。
「よくもエメットをーっ!!」
女エルフが叫び、ナイフを振りかざしてシールドのない側面からジャンゴに切りかかる。
リロード中の今がチャンスと考えたのだ。
その判断は正しかった。
……正しかったが、彼の方が上手であった。
「甘い」
ヒュッ、と風を切る音が聞こえると、攻撃をしかけたエルフが力なく落下しどさっ、と重い音を立ててそのまま動かなくなった。
エルフの胸には、ナイフが突き刺さっていた。
ジャンゴの得物は、銃だけではない。
「あ……あぁ。ウソ……」
シールドが破られるよりも先に、魔術師が信じられない出来事に脱力してしまい、〈フレイム〉が消滅した。
ジャンゴは棺桶のシールドを解き、リロードを終えた銃の撃鉄を起こして狙いをつける。
BANG!!
銃声一発。
魔術師は動かなくなった。
「ふーっ……」
ちょうどタバコを吸い終え、ジャンゴは吸い殻をブーツで踏みつけ消火する。
そして、器用なガンスピンで愛銃を弄びながら、激痛に悶える騎士……エメットと呼ばれていた……に歩み寄る。
「ちく……しょう」
睨みつけるエメットに、ジャンゴはリボルバーを突きつけた。
そのリボルバーと彼の手を目にしたエメットは驚愕を露わにした。
「その銃……それにその左手の甲に刻まれた蛇の紋章は……! 世界に七丁しかないと言われる伝説の魔銃〈ワイルドバンチ〉! その資格者だと……!?」
「そういうこった。相手が悪かったなボウズ」
「く、くそ……ったれぇ……! なぜだ……なぜそいつに加担する!? そこの女は魔族だぞ……ヴァンパイアだ。人間に害を成す、悪だ……っ! それを倒すのが! ひとり残らず駆逐するのがっ!! 俺たち人間の役割だ、正義なんだ……!」
「そうかい」
「この畜生が……! 俺の仲間を、殺しやがって……! おまえは! クズだ! 悪党だっ!」
「知ってるさ。言われなくてもよくわかってる」
動じることなく、エメットの罵倒を受け止め、肯定した。
BANG!!
「だからおまえらの語る正義ってのを裁けるのさ」
ジャンゴのリボルバーは狙いを変え、エメットではなく彼の真上を撃っていた。
撃った先には、鎖で吊るされた棺桶。
銃弾はその鎖を破壊し、棺桶が落下。エメットを押し潰した。
「埋葬の手間が省けたな」
ジャンゴは飄々とつぶやく。
そして、彼はカーミラの方を見た。彼女は、彼の言葉を待っていた。
「行こうか」
ジャンゴはカーミラに声をかけ、手を差し伸べた。
「……はい」
彼女はジャンゴの傍へ歩み寄り、その手を取る。
「あの、ジャンゴさん」
「どうした?」
「また質問をしても……構いませんか?」
「もちろんだ」
「あなたがどうしてわたしなんかにここまで優しくしてくださるのか。それが気になるんです」
「ああ」
「よかったら……教えてくれませんか?」
ジャンゴはカーミラの手を引きながら、外へ出た。
屋敷の外。狭い鳥籠の外へ。
外には夜が訪れていた。
月のない、新月の夜。
星さえ見えない暗闇に、男と女がふたりだけ。
誰にも祝福されない、冷たい夜。
けれど。
「おまえがそう願ったからだろうさ」
――ふたりが繋いだ手は、なによりも温かった。