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池田 和美の桃太郎・第一話  作者: 池田 和美
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桃太郎、大地に立つ(嘘ではない)

昔、同人誌の穴埋めに書いた童話調で無国籍調のお話です。

壊れた先代のパソコンからサルベージできたので、載せておきます。


 むかし、むかしのそのむかし。

 雲の上にあるという極楽から下界を眺めた仏さまは、地上が荒れていることに哀れみを感じました。

 それというのも『鬼ヶ島』に住む『鬼』がやりたい放題しているせいでした。村々を襲っては金目の物はもちろんのこと、食べる物や着る物まで村人から取り上げる始末。

 地上に暮らす人々はわずかに残された貧しい食事で、その日の飢えをしのいでいたのでした。

 慈悲深い仏さまは、極楽にある桃園から桃の実を手に取られると、それを地上へ落としました。

 桃の実は川に落ち、そしてドンブラコ、ドンブラコと流されて行きました。

 その川沿いには一つの村があり、そこにお爺さんとお婆さんが住んでおりました。

 お爺さんは山へシバをかりに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。

 お婆さんが洗濯を終えて顔を上げると、大きな桃が流れてきました。もちろん、それは仏さまが極楽から落とされた桃でした。

 お婆さんは桃を拾うと、お爺さんと一緒に食べようと、家に持って帰りました。

 お婆さんは拾った桃が、それは見事な物だったので、家の上座に置きました。

 すると…

「おぎゃあ、おぎゃあ」

 桃が自然と二つに割れ、そこから元気な男の子が生まれました。

「お?」

 ちょうどその時、山から戻ったお爺さんが、赤ん坊の泣き声に気がつきました。

「あらお爺さん、おかえりなさい。遅かったんですね」

「おう、ただいま。いやあ、今年のシバはなかなか手強くてな」

 返り血をべっとりと浴びていたお爺さんは、ムシロに包んで持ち帰った、四面四臂で青白い肌をした獲物を、土間に転がしました。

「やっと脳天かち割って倒してきた」

「それは大変なシバ狩りでしたねえ。お風呂にします? 桃にします? それともア・タ・シ?」

「いやいや、そこは風呂だろ。いいかげんオレも役立たずになっているからなあ」

 豪快に笑うお爺さんは、シバ狩りに使ったナタを置くと、血塗れのまま上がり、桃から生まれた男の子を見おろしました。

「じゃあ、桃から生まれた男の子だから、この子は『桃三四郎』という名にしよう」

「ちょっとまてえい」

 眩い光が部屋に満ちると、そこに穏やかな表情とは決して言えない顔をした仏さまが現れました。

「普通、桃から生まれたら『桃太郎』じゃね? ジイサンよ、ちょっと変だろ。それに山にシバをかりに行くって、そっちか~い」

 ノリだけはよさそうな仏さまでした。

「いや、だって」

 バッテンマークで有名な某宗教や、『男は髭面、女は覆面』で有名な某宗教と並ぶ信仰対象の前でも、少しも怯まずにお爺さんは言い返しました。

「もう『桃太郎』は、とっくに鬼退治に送り出した後ですし」

 同意を求めるように、伴侶であるお婆さんへ視線を移しました。

「桃太郎は出て行ったきり音信不通の行方不明。その次に育てた『桃次郎』も帰ってこず、『桃三郎』も『桃四郎』も…」

 指折り数えながら欄間に飾った歴代の桃から生まれた男の子たちの出征写真を見上げました。そこにはずらりと鎧装束に身を固め、背中に『日本一』の幟を差した少年たちが意思の強そうな笑顔で映っていました。

 ここまで多いと『桃の一族』とでも名付けられそうな程でした。

 写真は十枚で一段。それが三段と三枚。つまり三十三枚ありました。

「ありゃあ」

 茫然と見上げた仏さまは、しばらくして気を取りなおしたのか、居住まいを直し、少しは威厳が出るように声を太くして言いました。

「ではお爺さんにお婆さん。桃三四郎を立派に育て、鬼ヶ島の鬼退治に向かわせるように」

 そのままスーッと消え始める仏さまを止めるように、そのおみ足にお爺さんとお婆さんは必死の形相で取りすがりました。

「仏さま」

「仏さま~」

 その必死の懇願といえる態度に、仏さまは消えるのを一旦止めると、その慈愛溢れる笑顔で二人を安心させるように話しかけました。

「ん? なにか困ったことでもあるのかな?」

「お待ち下さい仏さま~」

「せめて養育費を置いていってください」

「このところ台風が荒れ狂い、そのせいで川は溢れ、鉄砲水で作物には大ダメージ。やっと収穫したわずかな実りは『鬼』に奪われ、消費税は上がり、貿易摩擦により株価が…」

「ちょ、ちょっと待ってくれる。後半は仏さま関係ないよね?」

 仏さまの指摘にもめげず、お爺さんとお婆さんは放しませんでした。

「わかった、わかったから。落ち着きなさい。ん?」

 二人を落ち着かせて仏さまは、やっと衣を放してもらいました。

「わかりました。じゃあ、それは…」

 咳払いを挟んで仏さま。

「次の選挙に期待じゃ~」

 そして地上には、お爺さんとお婆さん。そして桃三四郎が残されたのでした。



 一年後。

 仏さまの加護でしょうか、桃三四郎はすくすくと元気に育ち、たったそれだけの年月で立派な少年になっておりました。

 村の中では桃三四郎に敵う子は他にいませんでした。それは腕っ節だけでなく、頭の良さでもそうでした。

 なにせ昨今の少子化&過疎化がこの村にも押し寄せ、他に子供というものがいなかったせいなのです。

 桃太郎は部屋に引きこもると、ネットゲームを夜遅くまでプレイする毎日。その使用キャラは、とっても希有なスーパータマネギまで育っていたそうです。

 そんな親の苦労を考えない生活を繰り返していたある日、いつものようにネット接続をしようと電源を入れると、画面に仏さまのアップが映し出されました。

「桃三四郎よ」

 おや、最近エロサイトばかり覗いていたから悪質なウイルスにでも感染したかと桃三四郎が考えていると、画面の仏さまが語り出しました。

「わたしは仏さまである。極楽から見て、地上が鬼ヶ島の鬼に荒らされていることが不憫に思えて、お前を地上に遣わした。それだというのに、肝心のお前が遊んでいるばかりとは嘆かわしい。よってネトゲのレアアイテムは私が没収する」

「ええ~っ。せっかく集めたのにー」

「こんな物よりも本物の伝説のアイテムを集め、お供を揃えて鬼退治をするのだ桃三四郎よ。さすれば鬼ヶ島の財宝が手に入り、お前は左うちわで将来の年金問題など心配せずに暮らすことができるようになるのだぞ」

「えー」

 桃三四郎は正直に答えました。

「私は争いを好みません。いわゆる草食形男子という奴ですよ。そんな私に鬼退治など出来るわけがありません」

「しゃら~っぷ!」

 仏さまは画面越しに桃三四郎を睨み付けました。

「ええと、ぶっちゃけさ。鬼だって同じところを襲ってないで、いつかはまたその村を襲うと思うんだ。そしたらお前はどうするわけ? ただやられちゃうの? ん?」

「じゃあその時に鬼退治すれば、わざわざ鬼ヶ島まで行く必要はないってことですよね」

「まったく最近の若者はああ言えば上祐。ええい、鬼によって荒らされている地上では、野盗どもがはびこり、鬼はその者たちを配下にしておるのだ。この村に鬼本人が来るとは限らんではないか」

「じゃあ、やっぱり鬼退治に行かなきゃダメなんですか?」

「そう言っておろうが桃三四郎よ。さあ、旅の支度を調え、西にあるイヌカイの村を目指すのだ」

「イヌカイの村?」

「そうだ。まず手始めに、そこに眠るという、どのような魔法も無効化するという『伝説の兜』を手に入れるのだ」

「わかりました、仏さま」

「そして、お前のアカウントは私が有効に活用させてもらうことにしよう」

「そ、それはずるい!」

「なお、未練が残らないように、この端末は自動的に…」

 まさか消去? いや自爆?

「自動的にロボットに変形する。オートボット出撃!!!」

 桃三四郎が愛用していたコンピューターはロボットに変形すると、いずこかへと跳び去っていきました。

 それを溜息一つで見送った桃三四郎は、久しぶりに居間へ出て行くと、お茶を飲んでいたお爺さんとお婆さんに話しかけました。

「お爺さん、お婆さん…」

「やっと、その気になってくれたかい」

 お婆さんはいそいそとタンスの方へ、お爺さんもホッとした表情で桃三四郎を見上げました。

 そこは今まで三十三人もの子を鬼退治へ送り出した二人。こうして改まって桃から生まれた子が話しかけてくれば内容は察しがつくのでした。

「みなまで言うな。わしらが言いたいことは一つ…」

 お爺さんは優しい目で桃三四郎を見つめて言いました。

「贅沢は言わん。この家も、もうボロだから。田園調布あたりに『犬が洗えるほどの広さを持った庭付き一戸建て』が即金で買えるぐらいの財宝を持って帰ってきてくれるだけでいいからな。もちろん最近話題のエコカーを乗り回せるほどだったら申し分ないが、まあそこまでは言わないから」

「はい?」

「これは今日のために、私が内職した旅装束だよ」

 お婆さんが取りだしたのはニットのセーターでした。

「あれ? 戦装束は?」

 欄間に並べられた写真を見上げる桃三四郎。そこに映っている全員が皆同じような格好をしていました。

「いや、さすがに三十四人目ともなると、蓄えが尽きてな。お前はこれで我慢しておくれ」

 茫然と畳まれたセーターを両手で受け取ってしまった桃三四郎は、改めて欄間の写真を見上げました。

 たしかに桃太郎は豪華な陣羽織を着ていましたが、一つ前の桃三三太郎(ももさんざんだろう)はだいぶツギハギの目立つ羽織を着ていました。順番に見ていけばまるで桃太郎が経年劣化していく様子を納めた連続写真に間違えることができそうなほどでした。

「武器も、ろくな物が残ってなくてなあ」

 お爺さんが土間に並べたのは『こんぼう』に『ひのきのぼう』。それに山でのシバ狩りに使うナタぐらいなものでした。

 桃三四郎は溜息を一つついてこたえました。

「ナタが無いとお爺さんが困るでしょう。それに私には徒手空拳で戦う術がありますから」

 そして三人同時に異口同音で言いました。

「「「三四郎だけにね」」」

 こうして桃三四郎は、鬼ヶ島へ鬼退治に行く事になったのです。


 第二話へ続く


ということで、二話以降もサルベージ次第載せる予定です。

ノリは「勇者ヨシヒコと魔王の城」

仏さまなんかは、まんまヨシヒコに出てくる仏さまと同じノリですし。

コレを書いている時は、まだヨシヒコの二期も三期も放送していなかった記憶があります。

桃三四郎が迎える数々の受難(という名前のドタバタ)を楽しみにしておいてください。


池田 和美

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