SS 族長の悩み
「はぁぁああああああ。」
深いため息をついたのは魔族の村の族長であり、最高の魔術師でもあった魔族。
魔王直々に名付けをされた数少ない中の一人であり、強い力を持っている…が。
既に衰退期に入ってきて徐々に魔力が衰えてきている。それを他に悟られる前に前に誰か自分の後釜を指名
しなければいけない。その目星はつけてあるが、全員に問題がある。
例えば息子のダルコスでは後一歩足りない。あれは自分の力でを過信し過ぎている。
次点のマグナスでもダメだ。ストレスに弱い。不測の事態に対応できないだろう。
最後のダルンは無理だ。そもそも魔術が殆ど使えん。この村を隠せない。
だがその問題よりも今は今年生まれた者達の方が問題だ。特にスティング、シェイス、カージェンの三体。
今年生まれた幼体達は総じてギフトが強いが、どこか異質。
確かあの三体は殆ど同じ所で産まれたが…いや、考えても仕方がない。
良い事を思いついた。一度旅人として人の領域に行かせてみよう。
ん、何故こう思った?まあ良いか。
「族長。族長!」
「ああ、なんじゃ、マグナスか。どうした?」
「さっきからずっとピクリとも動かなかったのでどうしたのかと思って…」
「慌てすぎだ。ただ考え事をしていただけだ。他の報告は?」
「グローツラングが地上に出た様です。」
「グローツラングが出て来たのは問題だ。迎え討つ。」
「はい…その事なのですが…実はもうグローツラングが森をうろついているので既に迎え討つと…」
「バカモン!何故その時に言わなかった!」
「ヒィッ!すみません。でもダルコスがもう親父には引退してもらうから言うなって。」
あの馬鹿息子め、どうせつるんでいる四人と行ったんだろう。だが、それだけでは無理だ。何故なら全員が攻撃しかできない。つまり回復役がいない。
「何?あの馬鹿息子。すぐに向かうぞ。」
■■■[浮雲]
雲に乗り森へ向かう。森にはやはりと言うべきか、倒れている五人の姿があった。
それよりも今はあのグローツラングの方に集中する。
■■■[身体強化]
■■■[魔力強化]
■■■ ■■■ ■■■[炎獄]
■■■ ■■■ ■■■[黒炎]
[シフトチェンジ]
身体能力を著しく下げ、魔力を上げる。そして、身体能力が上がれば上がる魔力も多くなる魔法。
■■■■■ ■■■■■[聖光線]
体組織を燃焼させてからの最強の一撃。これなら。再生能力が高くても意味がない。
「フン、こんなものか、さて、馬鹿息子の…」
(今度はこっちの番だ!)
「念波?まさか?アレを避けたのか?」
念波を放つなど書物の中にさえない!なんじゃこいつは。それに明確な意思を持っていた。
いやそれよりもどうやってアレを避けたのか…幻覚?いや、それなら屍が消える。
つまり脱皮!ならば皮の近くに…有った。地面に空いた穴。奴がいるのは地中!
■■■[地鳴り]
グローツラングが飛び出し激しくのたうつ。
やはり地面の中にいる敵にならばこの技は絶大な威力を発揮する。
■■■ ■■■[炎弾]
■■■■■ ■■■■■[聖光弾]
この短時間で再び脱皮は出来ん。今度こそ馬鹿息子と腰巾着達を連れて帰ろう。
「起きろ。この馬鹿息子。」
倒れている馬鹿息子を叩き起こす。
「う、あれ?あ!ご、ごめんよ。俺が悪かったよ。」
「黙っとれ。これに懲りてもうするな。分かったな。」
「…分かった。おーい!皆。無事?」
「「無事な訳ねえ。」」
おや、言ってる割には全員軽傷じゃな。なら、これぐらいで良いか。
■■■[衝撃]
「なっ!」
「フン、これぐらいで済んで良かったと思え…なんじゃその不満そうな目は。」
「イエ、ナンデモアリマセン。」
「ほれ、帰るぞ。さっさと来い。お前らはもうこれで何度目じゃ。」
「でもよお、親父はもう結構な年だろ?もう今後の事を考えて…」
「未だ4302歳じゃ。まだまだ現役。いや、儂は生涯現役じゃ。」
「それを結構な年って言うんだよ。俺たちももう高位魔族に成れる頃だし…」
「そんな物まだまだひよっこじゃ。せめて魔王様から階級を貰える様にはならんと。」
「嫌、無理だから。階級貰えんのなんて千年に一度ぐらいだし。」
「煩い。文句言わずに若者は働け。若者が働き、年寄りは休む。これが自然の法則じゃ。」
「でもさあ、ダルコスは良いけど俺達のギフトなんて全部役に立たないや…」
「煩いぞ腰巾着。愚痴を言えるならその役立たずのギフトを役に立つ様にしろ。」
「でも…あ。」
まだ何か言いたげな腰巾着と馬鹿息子を目線で黙らせ、空間魔法で村まで転移させる。
「はあぁ。ああはいったもののここ最近体が思うように動かん。こりゃ本気で引退を考えるべき
かのう。それに最近嫌な感じがする。もしや…いやそんな事は無い。」
頭を振って不吉な考えを振り払う。もうあれはいない。いてはいけない。
あの負の遺産は儂らの代で滅した。子や孫に降り掛からない様にと魔族総出でやった。
念には念を入れよう。あれがまだあるかどうか。
■■■ ■■■ ■■■ [空間転移]
あれは、あの石は何処だ?砕けている。信じられん。事故などで壊れる代物では無い。
つまり誰かが故意に砕いたという事。しかし誰に?魔物では無いな。
同族か?壊すメリットが無い。つまり人間だ。壊すメリットがあり、技術もある。
これはマズい。封印の一部が砕かれたならあの勇者が活動を始めないとも限らん。
カチッ
なんの音だ?と思った時には遅かった。四方八方から縄が飛んでくる。しかも魔法付きの。
しかし、かなりお粗末。
「喝ッ!」
魔法で全て叩き落とす。しかし、相手には気合だけで叩き落としたように見えただろう。
ふむ、精悍な顔立ちをした戦士とかなり若い野伏、魔法使い二人のの四人。縄は野伏の女の罠か。
「※※!?※※※。」
何を言ったのかは分からん。しかし何をするのかは分かる。
奴らはこういう時、いつも…逃げる。まあ、少し泳がせよう。
逃す気など微塵も無いが、な。
必要な一人以外は消すか。先ずは厄介な魔法使いから。
■■■ [重力]
押し潰してやれば魔法使いなど魔法構築の前に死ぬ。まあ、儂など一瞬で構築出来る例外もいるが。
「※※※※※※※※!!」
おや、戦士が何か仲間に何か言って立ち止まった。
殿という奴か。だが、まあ一人だけではな。
■■■[炎柱]
炎に包み込まれれば鎧など意味を成さん。包み焼きじゃ。
声も出せずに焼け死んだな。
人間共が何か言っているが必要なのは拠点まで案内してくれる一人だけじゃ。
二人目の魔法使いも天に送り返してやろう。
■■■ [光線]
心臓を射抜いた。これで後一人。
野伏の足なら逃げられるとでも思っているのか?一人になった途端俄然やる気を出したな。
まあ本当ならそれで合っているが。
■■■[浮雲]
これでこちらの方が速い。しかし諦められては困るな。少し速度を落とそう。
順調順調。既にいくつかの拠点とそこに居た者共を壊滅させた。
そしてもう気づくだろう。雑魚がどれだけ居ても足止めにしかならない事ぐらい。
勝てないと分かればもう奴らの考える事は一つ。
自分の身の安全だ。今は逃げ道の方に向かっているんだろう。奴らの転移魔法陣へ。
それこそが狙い。転移魔方陣を破壊、若しくは魔方陣の向こうへ攻撃を叩き込む。
やはり転移魔方陣。入った!偽物では無い!
■■■ ■■■ [爆撃]!
吸い込まれた!これで壊すのみ。
■■■[地鳴り]
良し。陣を二つに裂けば効果は失われる。
さて、これでもう人間は当分来ないじゃろう。
さ、もう帰るか。儂の村に。皆待っているじゃろう。
■■■ ■■■ ■■■[空間転移]