第12話 魔王とセットのアレ
クリスめ…こんな狭くて暗い場所に押し込みやがって。
なんか体がゴムになってる感触する…マジだわ。グニョグニョになってる。
「うおっ!とと。ってもう始まってるじゃねーか!」
矢?ワープして来た瞬間狙われたんだけど。
もう戦ってるよコレ。とりま武器だ武器。見っけ!
「おいそこ!こっち来い!」
ちょうど呼ばれた。まあ行くよ。武器のために。
「第四班のスティングだな。お前の武器は…オモカゲD8だ。あの棚にある奴。」
「オモカゲD8?どんな武器?」
ちょっと名前からは想像出来ない。
「まあ今は攻撃も少ない。説明するとな、刀身に魔力を流して、一時的に強化できる剣だ。いつでも解除できるし、魔力消費も少ないからお前でも大丈夫だ。さあ行け!」
「ありがとうございました!」
はっ?これで攻撃が少ない?何処みて言ってる?それとも矢が飛んできてる程度は魔族にとってどうってことないって事?
いやそれより武器。この棚ね。
オモカゲD8。コレか?剣っていうより刀だな。
魔力を流す?あ、出来たわ。なんか指を長くしてく感覚。
さて、行くか…どうやって?矢とか飛んで来てるんだけど。
当たっても大丈夫?流れ弾で死にたく無い。
あ、大丈夫だ。避けれる。この速度なら矢斬れるんじゃ?
やってみよう。
俺を狙う奴を敵意感知で見つける。
次に、そっちを向く。
飛んで来たら、斬る!
「はっ!」
斬れた。飛んできた矢斬れた!けど、そのまま俺に刺さった…。
ゴロリ、ドサ。
結局もともといた場所にもどってきた。ま、斬られても矢は止まらないよな。
ちょっと考えればわかることだ。
でも、これって弾けばいいんじゃね?こう、刃の面で。
「はっ!」
いける!コレいける。このまま近くまで行って斬る。簡単な事。
というか、戦術的な物って無いのか?
みんな勝手に突撃して戦ってるだけだし。あれか?ここはチュートリアル的な扱いだから何も無いの?
それにしても、こっちは気楽だけどあっちは必死だな。
ま、当然か。多分弓矢とかさっき食らった感じ効かないし。
でもあっちはワンパン。
ん?人を殺してはいけません?あっちから撃ってきたんだ。あいつに言え。
サクリ、カクン。
首が力を失って垂れ下がる。
はい、一人目。
「ふー。それにしても、みんな凄えな。変身してる奴とかいるし。ん?あのなんか氷の魔神みたいになってるのシェイスじゃね?」
なんか洞窟で見た時と全然違う。それと、忘れてた。
「戦闘形態移行…俺の鎧も変わってる!?なんか流線形になってる。」
でもこっちの方が前よりは格好いい。よっしゃ俄然やる気出てきた。
つぎの敵は何処だ? いた。今度は剣士か。
じゃあ近くまで走る。そして相手も気づいて剣を構えて…
一閃、斬りつける。
「がっ…ぁああああ!腕がぁ!」
あ、死ななかったんだ。コイツしぶといな。多分動脈切れてるぞ。
いや、オッサン、多分ハンカチじゃ止血出来ないだろ。
サクッと止め刺すか…
「「えっ?」」
ひとつはオッサンの声。もうひとつは俺の声。
なんか腹が熱い!いや痛い!
「あ…れ? ナンデ?剣…?が刺さってる?」
続いて刺さった勢いのまま吹き飛ばされる。
俺に剣が刺さってる。しかも一般兵が持つようなものじゃない。
宝剣とか聖剣の類だ。ヤバイ。めっちゃ痛い。
落ち着け、俺。大丈夫。息はけ。
「が…あぁ。取り敢えず抜こう。再生出来ねーし。」
ブシュッ…ジュクリ
よし…あれ?なんかクラクラする。腹、治ってない…?なん…で?
もしかして俺、このまま出血多量で死…縁起が悪い。やめよう。
まず隠れなきゃ。もしかしたらコイツの回収に来るかもしれない。
お、いいとこ発見。岩の陰とかでもでも意識しなきゃ中々見つからない。
大丈夫か俺の腹。あー治ってきてる治ってきてる。
つーか誰だ剣投げやがったの。敵意とか全くなかったぞ。
呑気に構えているとー隠れていた岩が突然爆発した。
「敬虔な神の信徒達!安心せよ!我々は”勇者“シンジ様とそのパーティーである!魔族による襲撃を止めに参った!」
あれ、見つかってなかったんだ。なんか岩を砕いたのは演出だったっぽい。
とりま勇者パーティーのメンバーはっと。
多分あの真ん中が勇者だな。今セリフ読み上げた奴は騎士か?
全身武装でガチガチに固めてやがる。
あと後ろにいるのはタンクとヒーラーか?魔法系はヒーラーだけっぽい。
タンクは…斬りつけたらこっちの剣が折れそうだ。
勝てる相手じゃねえ。逃げよう。
ん?あっ。絶対これ勇者の武器だよね。今あいつ手ぶらだし。
これ持って帰れば凄い手柄じゃね?腹も治った。これいける。
そうと決まれば先手必勝。走り出す…けど。
この剣メッチャクチャ重い。しかも血が足りない。
いやーほんと目眩とか腹痛とかヤバイ。
あっ。見つかった。
「あいつ!勇者様の武器持ってるだ!」
タンクゥ!一番鈍そうながたいして最初に気がつきやがった!
なんか打開策は…よっしゃ!キタ!希望来た!
「クリス!パス!」
良し。クリスに渡す。俺は勇者達の眼中になくなる。クリスは…頑張る。
これで行こう…ってかもう投げちゃったし。ん?んん?
背中に痛いぐらい強烈な敵意がする。ふりかえると矢が迫って来てた。
「は?ああっ?」
なんで俺の脇腹をみんな狙うんだ?俺の体はタダじゃねーんだぞ。
いやタダだったわ。勝手に治ってるし。
で。なんで俺狙われてんの?剣は渡したよ?クリスに。
「撤退!全員撤退!あれは我々が相手をします。」
無理じゃね?後ろでバッタバッタ倒されてる奴らでしょ?
盾の一撃で吹っ飛ばされてるじゃん。
全く。俺は逃げる!会ったばっかの人がどうなろうと知らん。
「で、逃げられたらいいんだけど。ね。」
俺狙われてるわ。敵意がもうね?すごいのさ。俺勇者に特別恨まれるようなことした?
してないよな。じゃあ気にせいにして逃げよう。
「は!やっぱり防御能力者は臆病者だ!我々とは格が違う!」
「あ。いつぞやのチンピラ三人組と…誰?」
「なっ…無知者め!我は“十大貴族”が一人、炎のガルムが子息、ゴルムなり!」
あっ。ハイハイ。偉い人の子供か。そういえばあいつらもなんか防御能力者はどうのこうのって言ってたな。
「で、俺が防御能力者で悪いか?」
臆病者ってとこにはあえて触れないでおく。実際逃げてるし。
「悪いか?だと。防御能力者は極々一部を除いて魔族の敵も倒せぬものばかり。」
「「そう、まさに魔族の恥さらし!」」
うわチンピラムカつくわー。まあ貴族ジュニアの言ってることも間違っちゃないんだろう。
中には一撃で二、三人片付けた奴もいたし。
でもそんなに有能でお強い奴なら俺と言い争ってる場合じゃないって分かるはずなんだけどな。
おつむの方はあまりいい出来じゃなさそうだ。
さて、逃げるか!
「じゃ、勇者倒せたらいいな!バイバイ!」
またなんか体が曲がっていく感覚。これがワープの時の感覚か。
勇者とかいるんだね。魔王がいた時からなんとなく予想はしてたけど。
絶対勝てないやつだ。挑もうとは思わないでおこう。
顔見知りを探そう。シェイスか、クリス。あ、いるわ。シェイスの冷気がきてるもん。
クリスはちっこいんだよな。俺より。金髪でかなり整った目鼻立ちしてるのに。
シェイスもかなりイケメンだよな…あれ?俺は?
待て、まだ鏡とかが無いから希望を捨てるな。少なくとも平凡でありますように。
って今は班でまとまらなきゃ。顔はどうでもいいんだ。
多分もうすぐ教官も来るだろうし。