第11話 常識ってなんだっけ
「…………」
何これ。寝て起きたらいつのまにかある球体。
しかもこの世界に似つかわしくない金属製の完全な球体。
とりま端に寄せておこう。
これからどうすっかな。着替えて待ってればいいか。そういえば生まれてからほぼ着替えてない。村ではサイズが小さくなって着られなくなった時しか服がもらえなかったからなぁ。大人しく待ってるか。指示があるらしいし。………とは言うものの。着替えくらい3分もすれば終わる上娯楽もないときた。暇で暇でしょーがない。………これについてるボタン押した方がいいかな。絶対これ電源だよね。
でも中に何があるか。爆弾とか?いやそれはな…い?
「あー暇!」
思わず叫ぶ。だって暇なんだもん。仕方ない。
そうだこれは押せってことに違いない。そうだよね。押しちゃえ。
ポチリ。…………………あれ?故障?ちょっと煙が出るだけ?それとも最初からただの悪戯だった?
ガッカリだ。はぁー。深くため息をつき、ベッドに倒れこむ。
しかし、沈みきった気分は直ぐに晴れる。
「新入生、一番運動場二集合セヨ。繰リ返ス。新入生、一番運動場二集合セヨ。」
機械的な音声で石象が淡々と指示を告げる。
よっしゃ。まああんなものも暇つぶしにはなったってことで。
* * *
ここが運動場か。どっちかっていうと武器庫も兼ねてるって感じだな。
それにしても…多いな、人。100人ちょい?それが6つ。つまり600人ぐらい。
多分あっちの赤いバッジ付けてるのが教員かな?全員で12人か。50人に1人って少ないんじゃない?
それとも都会じゃ当たり前?前世の学校は東北だったからな。
「静ま……ずまれ…」
おっと。教員がなんか言ってる。でも口に布のようなもの付けてるせいで篭って何言ってるかわかんない。
当然周りも変化なし。あ、顔がだんだん赤くなってきた。プルプルしてる。
「…お前ら全員『口を閉じろ』!」
「「むうぅー!?もごッお!」」
なにこれ?口が開かない!能力?と言うか最初からその音量で話せよ!
「これで静かだ。さて、話すこともできない新入生ども。お前らにまず「ジカンワリ」というものを配る。
くだいて言えば今日から7日間の予定表だ。それでは、全員『口を開き、武器庫へ行け』!
あれ?時間割に予定表以上の意味なんてあった?ないよね。
武器庫かー。村には棍棒と盾しかなかったからな。ここのも期待できないな。
あ、時間割りゲット。一日5時間しかないのか。午前4時間が実戦訓練で午後が勉強か。
まあ言いたいことはあるけど我慢しよう。
「武器ヲ選ベ使イ方ハ使エバワカル!オッ!ソコノ新入生!イイモノヲ見ツケタナ!ソレハ銃トイウ違ウ世界ノ武器デ、遠イ的ニモトドクゾ!」
「うるさい!“おしゃべりガーゴ”!」
銃?ちょっと待て。なに?銃?棍棒と銃って時代が違うぞ。おかしい。技術の差がおかしい。
ガーゴイルに自我があって渾名までつけられてることも発見だけど銃…
伝えたのは転生者的な?どれぐらいいるんだろ。
まあ強いのは棍棒か銃かって聞かれたら銃だよね。これにしよう。
* * *
一時間(体感)みっちり講習を受けました。自分には魔法の才能がほぼゼロと言われました。
魔力が無さすぎて頑張っても中級の魔法一発撃ったら終わりだと。
いや凹むよねー。俺だって魔法ドカーンとかズバッとかできるんだと思ってたし。
再生能力は平均より上って何の慰めにもならねーよ。
しかもあの銃弾は魔力を撃ってるんだってさ。銃使えねーし魔法は才能ゼロだし。
先輩らしき人にめっちゃ慰められたよ。
唯一の幸運はシェイスとクリス君と一緒の班になったことだな。知らん人とコミュニケーションとか無理。絶対ムリ。イヤ。ヤダ。絶対ムリ。
で。部屋替えって言われたけどなんなのこの地図。魔族って地図書けないの?
たった200メートル先の部屋まで15分かかったんだけど。
そして着いてみたら物凄く殺風景。ベッド、机、以上。
えー、お腹減った。ご飯どこ?食堂?このへっぽこ地図。
まず、部屋から右。突き当たりで右。最後にT字路で左。
「はぁぁ?」ない。何もない。ただの壁。食堂なんて無い。
落ち着け。こういう時は人に聞こう。
「すみません。食堂どこだかわかりますか?」
「ん、新入か。あの突き当たりを左だ。」
ヤバイ。ヤバイ。めっちゃコワッ!親切に教えてくれたけど!顔がもうthe・魔界の住人。
で、突き当たりを左っと。あー。あった。メニュー…カレー、焼きそば、日替わり定食。
カレーにしよ…あ。金が無い。金…そういや一度ももらってないぞ。
まさかの無駄足。うん。必要なものは正確な地図、ご飯、お金。ないことには何も始まらない。
でもなぁ。結構教養のありそうな人からもらったんだけど。
小学生が描いた地図じゃないかってぐらい汚い。描き直そう…どっかで鐘の音してない?
してる。まさか…チャイム!?
今日の一時間目は…訓練。場所は運動場!頑張ればチャイム終わる前に着く!
確かここで右。うん、ついた。足が速いっていいね。
「連隊イィ、ナラベー!」
「おい。スティング、こっちだ。ほら。」
あ、シェイスが呼んでる。
「ねえ、連隊って何?」
「あそこに書いてあるやつだよ。俺たちは第四班って言われたろ?だから第一連隊。」
「ありがと。わかったわ。」
助かるんだけど、とても助かってるんだけど。
そのかわいそうな人を見る目をやめてくれませんかね。
「これから何やるの?」
「紛争地帯に日帰り旅行。実戦訓練。死ぬなよ。」
「……はぁ?」
思わず間の抜けた声が出る。紛争地帯?死ぬなよ?普通聞かねーよ。
殺す気か?教員は。俺たちを。
「新入生、早く入れ。グズグズするな!武器は向こうにもある!」
えぇ?これ入るの?なんか地獄の門って色合いなんだけど。
いや行かないとまずいよなぁ。でも…
ドンッ
「え?」
おっ…押された!誰だ!?
「あっ…クリス…テメ…」