勇者パーティ追放?!
「パーティからの追放、ですか」
勇者から告げられたその言葉を受け止める為、私は一度大きく息を吸い、そして吐く。
私から目を逸らさずに、ゆっくりと頷く勇者。
済まなそうな表情は浮かべてるものの、その意思は硬そうだ。
「出来れば理由を、お聞かせ願えますか?」
未練、そう、未練だろう。
わかってない訳じゃないけれど、私はそう聞かざる得ない。
恐らく私以上に能力のある神官はいないと言う自負があったから。
神官に求められがちな回復の類は勿論、呪いに関しての造詣も深く、呪いで敵を阻害するだけでなく、発動すれば一定割合で即座に命を奪う即死の術すら扱える。
更に超一流とまでは言えないが、剣も並の剣士以上に扱えるのだ。
私以上の神官など居ない。
それは誰もがそう言い、私も思っていた事だった。
だから私が不要だと言うのならこの未練がましいプライドに、キチンと止めを刺して欲しい。
「……だからだよ」
でも勇者は私の問いに、小さく呟きこちらを見る。
多分私を傷付ける言葉を吐きたくないからこそ、そんな態度を取るのだろうけれど、それでは駄目だ。
諦められない。
私が首を横に振ると、勇者は大きく溜息を吐く。
そして勇者は大きく息を吸い込んで、
「即死魔法連発して無駄に手番使って、しかもオレ達が傷付いてピンチの時にはMP使い過ぎて足りないから回復できませんだぁ? お前の役割は回復だよ! あとアンデッドには即死魔法なんて効かないんだから、せめて使うなら浄化にしろよ!!!」
思い切り叫ぶ。
あぁ、余程我慢させていたのだろう。
少し前に追放された魔法戦士と殆ど同じ理由である。
彼は確か、『魔法攻撃力を倍化させる支援魔法を使ってからの、混乱魔法マジやめろ! そんなの良いから剣で殴れよ! 支援魔法の意味がない上に、機械族に混乱魔法は効かねぇ!!!』って言われてた。
あの魔法戦士も、剣技は流麗にして多彩な魔法を操る、私に引けを取らない最高の人材として王都ではもてはやされていたのだけれども。
でもそれは過去の話となってしまった。
因みにアンデッドにも混乱魔法は効かないし、機械族にも即死魔法は効かない。
わかっては、いるのだけれども。
王都で最も優れた人材と勇者に付けられた私達。
しかしその多彩な技術は、勇者の旅立ちが近付いてると知った魔王が、人類に掛けた呪いによって逆に足を引っ張る事になる。
私や魔法戦士を苦しめるその呪いの名前は『クソAI化の呪い』だ。
名前の意味はいまいちわからないが、効果は戦闘の際、的確な行動を取り難くなると言った物。
例えば戦争に赴く兵士達は隊列を乱すし、砦での防衛戦なのに半数は弓で攻撃するが、残り半数が槍を構えて突っ込んだりしてしまう。
呪いの研究者によると、効率良く自分の行動を選択すると言う機能が、本能で動く魔物並になる様に引き下げられているとの事だった。
こうなっては勇者を頂点とした軍を派遣する案は瓦解する。
軍としての行動を取れぬ人の群れ等、魔物の大軍とぶつかってはひとたまりもない。
だからこそ、少数の優れた人間を勇者に付け、魔物の大軍に捕捉されずに魔王のみを殺す案が採用されたのだが、……魔王の呪いは私達にこそ多大な効果を発揮する代物だったのだ。
私や魔法戦士の様になまじ色々出来てしまうと、その選択肢の多さ故に的確な行動を選択するって能力は重要である。
そしてそれが引き下げられてしまうとどうしても、自分に自信のある物に無意識に頼りがちになるのだが、私や魔法戦士の場合はそれが即死魔法や混乱魔法だった。
普通に考えれば即死魔法や混乱魔法は有用な魔法で、私達はそれを扱える事が他人との違いだと誇りに思っていたから。
最初の間は高い能力に物を言わせてそれでも何とかなっていたのだが、私や魔法戦士が勇者と行動してる事が知れると、魔王はその迎撃に即死魔法や混乱魔法が効かない敵の比率を増やし始める。
その結果、私達は使えないと勇者に認識されるに至ったのだ。
「次の仲間には、武器での攻撃しか出来なくて良いから剣の腕が立つ戦士、ひたすらに攻撃魔法しか打てない魔法使い、回復だけに特化した司祭を仲間にするよ……」
叫び終えて大分と落ち着いた勇者は、申し訳なさそうに言う。
成る程確かに一芸に秀でた、と言うよりも一芸に特化した人材ならば、魔王の呪いの影響は少ないかも知れない。
「しかしそれのみでは、複雑に変化する戦況の全てには対応出来ませんよ?」
能力はあっても対応出来なかった私の言うセリフではないけれど、共に旅をした仲間、人類の希望である勇者には、私は恥を忍んででもそう忠告せざる得なかった。
だけど勇者は私の言葉に、漸く少し笑顔を見せる。
その笑顔には、強い決意が滲んでいた。
「だろうな。だからそれ以外は全部オレが担当出来るようになるよ。どんな戦況でも対応出来るように、お前や魔法戦士が出来た事も全部」
何故なら、この世界で唯一『クソAI化の呪い』から逃れた人間は、目の前の勇者唯一人なのだから。
ならばもう、私に言える事はない。
彼の為に出来る事も……、否、一つだけあった。
「わかりました。偉大な勇者よ、貴方の無事を神に祈ります」
それは心から彼の無事を祈る事。
私は自身の未来に関してはそう心配していない。
何せ私は誰よりも優秀なのだから、『クソAI化の呪い』さえ解ければ、勇者のパーティを追放されたと言う汚名も実力で直ぐに雪げる。
だからどうか神よ、我等が勇者の歩く道を、その威光で照らし賜え。