あぁ、部屋の、部屋の隅に!
……これはなんと言えばいいのか。
見てんじゃねぇって感じで睨まれてるし。
「おい、俺の声は聞こえているか?」
ふむ、声は聞こえてない、と。
手の動きはどうだ?
おお、ビクッとした。
まぁ、俺自身向こうに何かをするつもりはないしな。
向こうが何かをしてこない限りは。
部屋の隅にもう1人の住人を迎えてから1ヶ月が経った。
向こうはこっちに何かをするつもりは無いらしい。
かと言ってずっと部屋にいる訳では無いらしい。
昼間とか俺がでているあいだにどこかに行っているみたいだしな。
しかしコイツ……どこかで見た覚えがあるんだが……どこだったかな……
まぁ、そんなことはいい。
俺は今日も貢ぎ物を皿の上に置く。
と言ってもフルーツだが。
相手が何を食うかなんて分からねぇからな。
そもそも食うかどうか怪しいが、消えてるってことは食ってるか捨ててるかのどっちかだろう。
無難なところだろう。
と、数週間前から続けているが、
「……まさか俺にもあるとはな」
俺の前に置かれているのは皿とその上にフルーツ。
それもご丁寧に俺が貢いだものとは違うフルーツだ。
向こうは貢がれている気があるかどうかは知らんけどな。
奇妙な同居人ができて1年が過ぎた。
毎日の如く互いにフルーツを起き合う生活だったが、どうやら引っ越すようだ。
こっちが質問しようにも声は聞こえないし、向こうが喋りかけてくることは無い。
まぁ、荷物なんて元々ないのかそれともあったものを俺がいない間に片付けたのかは知らないが、その身一つでどこかに行くようだ。
だが、俺には1つ気になることがあった。
奇妙ではあるが、同居人でもある。
お互いプライバシーは守られるべきだろう。
「しかし……毎日毎日何に拝んでるんだ? 決まってあの場所で拝んでるしよ」
そう、何かに対して拝んでいるのだ。
流石に見るのはプライバシーの侵害だろうから見なかったが、引っ越すのだから少しくらいいいだろう。
「お邪魔しますよっと」
……あぁ、なるほど。
そういう事だったか。
同居人が帰ってきた頃合を見て俺は聞こえているかどうか分からないが、声をかけた。
お互い言葉はいらないだろう。
気持ちが伝われば十分よ。
それでも一言くらいは許してもらえるだろう。
許してくれよな。
愛しの
「元気でな」
我が娘よ。
「……うわ、訳あり物件って聞いてたけど、まさか本当にでるなんて……最悪」
だけどその顔はどこかで見たことがある。
とりあえず睨んでみよう。
口パクしてるし……
「うわ! 動いた!?」
もう……最悪……
お金はないし……アルバイトで稼いでその内引っ越そ……
……何これ、フルーツ?
まさかお化けが皿を手に取ってフルーツをその上に置くなんて……
この世は不思議なことだらけって本当だったんだ……
「……美味しい……」
採れたて新鮮だった……
ちゃんとお金払ってるのかな……
「……なんで……涙なんて出るんだろう……」
フルーツなんてかなり前に食べたきりだったっけ……
お父さんが死んでから……
「あっ、そうだ。ちゃんと拝まないと……」
お父さんに今日1日あったことを報告する。
大学での講義。
アルバイト先での出来事。
そして……この間告白されたこと。
「……どうしたらいいのかな……」
お母さんもいなくなって私はついに1人になった。
高校を丁度卒業したタイミングだったから色々難しかったけど……お父さんの弟さん……おじさんがよくしてくれた。
週に一度はお世話になっているし、大学の費用も借りてる。
本当にお世話になってる。
早く独り立ちしなきゃいけないのは分かってるんだけど……
「……じっと見られる生活ってストレスたまると思ってたんだけど」
この視線がねちっこくないというか……優しい視線というか。
どこかで感じたことのある視線なんだけど……
「どこだったかな……」
とりあえず今日もお供え物を。
「ふぃー……今日も一日お疲れ様、私」
大学とアルバイトの両立はかなり難しいけど、この1年でお金は結構溜まった。
勉強も頑張ったおかげで次の年は授業料免除!
引っ越そうかと思ったけど、大学の寮に住むことになった。
だから、この部屋とも今日でお別れ。
「うん? 何か言ってる?」
げ……ん……き……?
あれ、消えちゃった……
何だったんだろう?
おっと、チャイムだ。
誰が来たんだろう?
「やぁ」
「おじさん! どうしたの、急に」
「いや、君が引っ越すと聞いてね。確か……大学の寮だったっけ?」
「うん、そうなの。3月中には引っ越す予定だよ」
「そうか……あぁ、そうだ。今日は君にこれを渡しに来たんだ」
なんだろう?
「アルバム?」
「そう。兄貴の……君のお父さんの昔の写真から死ぬまでの」
「……おじさん」
「俺が持っていてもいいんだけど、枕元に兄貴が出てね」
「お父さんが?」
「そうなんだよ。君にアルバムを渡しておけって言われてね。大人になった兄貴じゃなくて学生の頃の兄貴だったよ」
「……そう、だったんですか」
「慌ただしくてごめんよ。また今度うちにおいでよ。嫁さんもうちの子どもも楽しみにしているからさ」
「はい、また今度お邪魔します」
「それじゃ」
おじさんはそう言って部屋から出ていった。
1人になった部屋の中でパラパラとアルバムをめくる。
「ふふ、お父さんもこんなに可愛い頃があったんだ」
幼稚園の写真から順に順に。
高校の頃だろうか、そこまでめくって私は手が止まった。
「……この……この顔は……!」
私はもういなくなった奇妙な同居人がずっといた部屋の隅に目を向ける。
が、そこには誰もいない。
「……考え過ぎかな……それでも……」
お父さんが私のことが心配でこの1年見守ってくれていたのなら嬉しいかな。
小さい頃に亡くなったってお母さんに聞いた。
会社の帰り、信号無視の車にぶつかられて。
お父さんの近くには潰れたケーキがあったって聞いた。
お母さんは私を育てるためにいっぱいお仕事をしてたみたい。
私も中学を卒業したら働こうと思っていたんだけど、止められた。
だからせめて家のことくらいは、と思って料理から掃除まで頑張った。
でも、仕事のし過ぎでお母さんも倒れた。
そのまま帰らない人に。
……ふふ、お父さんも心配性だな……
「今日だけは、今日だけは泣いてもいいよね」
明日からは泣かないから。
そんな私の頭を優しく撫でてくれたような気がした。
小さい頃に撫でてくれたあの大きな手で。
ここまでお読みくださいましてありがとうございます。
タイトルは某外なる神様の有名なセリフからお借りしました。
部屋を窓
に変えれば、まぁ、色々出ると思います。
内容は……思いついたから書きました。
30分クオリティなのでお察しレベルですが、書きたいから書いたので後悔はしてません。
ジャンルは毎度の如く分からなかったのでその他に。
このジャンルは?
という方はぜひコメント欄に。
それではまたどこかで。