第0話:進藤 菜々の場合
ナンパ師のくせして純粋です。
でも時々凄い外道にもなります、だってナンパ師だから。
女の子はいっぱい出てきます、だってナンパ師の物語だから。
男の子はあんまり出ません、だってナンパ師の物語だから。
修羅場は嫌いです、でもあるかも知れません。
だってナンパ師の物語だから!!
これに心底納得出来ない方は、読まれない方が宜しいかと思います。
突然だが、自己紹介。
私の名前は、『進藤 菜々』。
東京都在住の23歳プロアルバイター……と言えば聞こえこそは良いが、結局の所はただのフリーターでしかない。
しかも、在住と言う割に私には現住所が無いのだ。
親元を離れ上京した頃には、確かに住所もあり、安定した収入を得てもいたが、それはもう数年前の話。
今は、この数年で出来た知り合いの部屋を転々として寝床を得る、言わば根無し草。
別に不自由も無いので不満も無い。
それに、知り合いは皆同い年か年下の女性だけ。
私からすれば、普通に一人暮らしをするよりも遥かに恵まれた環境という訳だ。
言っておくが、ヒモという訳じゃない。
一晩一宿の礼を尽くすだけの礼義も持ち合わせているし、長い日数世話になればその分の生活費もちゃんとに渡している。
それに、今更ではあるが……。
私は、生物学的、或いは世間一般的理論から見た場合、確実に『女性』と分類される性別なのだ。
これ等全てから導き出すに、私は、ヒモではないのだ。絶対!
「ねぇ菜々ぁ〜?」
「なに?」
時間は午前七時。
私はここ数日世話になっている子、『高杉 広海』へと視線を向けた。
私より三つ年下で今年二十歳になったばかりの子で、数年前、ちょっとした事で知り合ってからというもの、妹の様に可愛がっていたりする。
「お腹空いた。朝ご飯!」
肩にかかる程度の長さに切り揃えた傷みなど知らないだろう黒い髪を揺らし、二十歳にしては幼い顔を更に幼くするかの様に頬を膨らませている。
その様子に、私も小さく笑みを浮かべ、持っていたフライパンとオタマをこれでもかと見せ付けた。
「分かってる。だから今から作るから、少し待っててよ?」
「何作るの?」
ベッドの上で小さく首を傾げる姿は、どちらかと言えば子犬の印象だ。
私は冷蔵庫を開けて、中にある食材を物色していく。
卵、豚のバラ肉、玉葱、キャベツ、マヨネーズ、黒コショウ……だけ?
確か味噌がまだ少し残ってた筈……とここまで思い出して首を振った。
そう言えば、昨日の晩御飯で味噌汁を作るのに使ったんだった。
ま、戸棚の中に焼肉のタレがあるから、何とかなるかな。
「ねぇ〜、何作るのぉ〜?」
「ん? 豚バラ肉の卵とじ」
「……ナニソレ、オイシイノ?」
「露骨に疑うの止めない?」
片言だけでは足りないのか、折角の可愛い顔を苦虫でも噛んだ様に顰めている広海。
苦笑しながらも私は豚バラ肉の入ったパックと卵、そして玉葱とキャベツを取り出した。
フライパンにはすでに油を敷いて火にかけてある。
この間に、キャベツを少量千切りして、玉葱を繊維にそって切っておく。
そして、卵を、黒いネズミ男のスマイルがプリントされた女の子用の小さなお茶碗に割り入れ、箸で溶き始める。
フライパンから白い煙が僅かに立ち上った辺りで、豚バラと玉葱を投げ入れる。
途端に肉の焼ける香ばしい匂いがワンルーム用の小さいキッチンに充満した。
「焼肉?」
「朝からそれは重いってば」
溜息混じりに返しながら、焼肉のタレをフライパンに少しだけ注ぐ。
量は目分量。そんな細かいトコまでは面倒見切れない。うん。
「あぁ〜……美味しそうな匂い……ぁ、涎出ちゃった」
「…………アンタホントに二十歳なの? お姉さん心配だわ」
「失礼な! 一月に成人式終えたばかりです!」
「精神年齢は成人してないでしょ、アンタは」
会話の合間に火が通ったブタマネギ(豚バラ&玉葱)を小さい皿に移し、水でサッと残ったタレを洗い流す。
そしてすぐさま火にかけ、油を敷く。元から熱いフライパン、溶き卵を落として、ある程度待つ。
「オムレツ?」
「ケチャップ無いけど?」
「買ってくる?」
「誰が?」
「菜々」
「……焦がさないで完成させられるなら行くけど?」
「ごめんなさい、冗談です。だから本当に出掛けようとしないで……」
ベッドの上で土下座をする広海。
横目に一度だけ見て、これ見よがしに溜息。
「あぅぅぅ……」
「いい加減料理の一つは覚えなさいよ? 嫁の貰い手無くなるわよ?」
「そしたら菜々に貰って貰うから良いや」
「あらら、それは嬉しい限りだわ。イジメ甲斐のある妹が手に入るのは魅力的だしねぇ」
「い、イジメ!?」
何だか驚いてるのは放っておいて、キャベツの千切りを卵の真ん中に置き、その上にブタマネギを置く。
「あぁ! 焼肉がぁぁぁぁぁぁ!!」
「違うってば!」
そして、卵で包む様にしてやり、皿に盛る。
使った器具を洗うのは後。私だってお腹は減っているのだ。
「ご飯盛って。ほら早く」
どうにも私は料理が好きらしくて、ついつい料理を始めると周りがあまり目に入らなくなるきらいがある。
お茶碗に白いご飯。
そして作りたての卵とじ。
「いただきまーす!」
「いただきます」
見た目こそは質素だけど、味は全然問題無し!
これなら普通にお店で出ても食べれるかも知れないわ。
「あ、広海。私今日は一日バイトだから、鍵閉めておいてくれて良いから」
「ん、りょーはぁい」
……飲み込んでから喋りなさいよ、精神年齢小学生……
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