辛く、苦しい夏休みの課題事情(幕間)2
〜南条姫華の場合〜
「さ、今度は私が教えてあげ━━」
「チェンジで」
「え? どうしたの廉く━━」
「チェンジで」
「れ━━」
「チェンジで」
「あらあら、廉君は先にご褒美が欲しいのね。なら子豚ちゃん達が喜ぶとっておきのご褒美をあげないと」
「ご褒美なくてもちゃんと出来る偉い子なんでその鞄から手を引き抜いてくださいお願いします」
なんとか土下座で許してくれたところで、課題を進める。
「あら、結構出来てるじゃない」
「まぁ、前のテスト勉強で頑張ったおかげですね」
「だったら、また身につくようにゲーム感覚で」
「今真面目に課題やってるんでゲームは一切なしで」
「残念ね」
テスト勉強での出来事を忘れていない俺はすぐさまに提案を却下し、課題に取り組む。
俺の反応が面白くないのか、姫華先輩はつまらなさそうな顔をする。
だが俺は無視して手を動かす。
順調に課題を消化していくが、とうとう手が止まってしまった。
気は進まないが、姫華先輩に聞くことに。
「姫華先輩、ここなんですけど」
「どれかしら」
内容を確認しようと覗き込んだことで、隣に座っていた姫華先輩と体が密着する。
「あ、あの」
「ん? どうかした?」
「近いです」
「あら、本当ね。廉君の可愛い顔がこんなにも近くに」
「え、ちょっ」
今までにない姫華のいじり方に戸惑っていると、頬に手を添えられた。
「こうしてみるとまつ毛が長いのね。それに前よりも少し焼けたかしら? 男の子らしいわ」
「あの、姫華先輩?」
年上のお姉さん特有の余裕のある表情で、優しく頬を撫でる。
まったく意図が読めず、恥ずかしさで視線を逸らす。
そしてその瞬間、血の気が引いた。
「むぅ……」
可愛らしく頬を膨らませ妬ましそうに見つめる水原先輩はまだいい。
問題は忙しなくシャーペンを動かしながら、無表情で俺達を凝視する綾先輩だ。
しかもぶつぶつと呟く姿が、より俺の不安を煽った。
「姫華先輩、あの、もう離れ━━」
「あら、目やにがついてるわよ」
優しく指で目頭を拭う姫華先輩の微笑みに、悪戯好きな悪魔が宿っていた。
結果:課題は少し進んだが、常にベタベタされたため、綾先輩の番が怖くなった。
〜佐竹沙耶未の場合〜
「ふぉうはふひはほひへふほ!」
「口の中のもの飲み込んでから話しなさい」
次の日の午前。
綾先輩がいないとのことなので、俺一人で課題を進めようと思っていたのに、何故か他校の生徒であるはずの沙耶未が生徒会室に居座り、お菓子を頬張っていた。
「雫から事情は聞いてるよ! 課題が終わってないんだって? ならウチの番だよ!」
「まずなんでお前がいるんだよ」
「遊びに来た!」
あ、うん。君ってそういうタイプだったね。
「なら勝手にしてろ。俺は一人でやる」
「えー、つまんなーい!」
「ほら、期間限定販売の菓子やるから」
「わーい!」
お菓子を渡すと大人しく向かいのソファで食べ始める沙耶未。
いつのまにか沙耶未の隣で御相伴にあずかってる小毬先輩にも触れずに課題に手をつける。
今日は現代文をやっているが、ほとんど選択肢の読解問題。
できれば適当に選んで終わらせたいけど、六択の中から正答を選べる確率は低い。
もしそれが松本先生目に入ったらと思うと、怖くて挑戦できない。
「お菓子、なくなっちゃった」
目の前にお菓子がなくなったことにしょんぼりとしている沙耶未。
お菓子好きとして放っておけない小毬先輩が自前のチョコを差し出す。
「これ、あげる」
「いいの!? ありがとう小毬さん!」
箱に入ったチョコ玉を食べようと、開封した沙耶未が声を上げた。
「あっ、金のデビル!」
どうやらもらった箱に景品がもらえる金のデビルが印字されていたらしい。
「え、すごい。私、当たった、こと、ない」
景品が欲しいのか、今度は小毬がしょんぼりする。
「じゃあ、これ小毬さんにあげます」
すると沙耶未は躊躇わずにその金のデビルを差し出した。
「いい、の?」
「はい! ウチ何度も当たってるんで」
小毬先輩の瞳は輝きだし、それを受け取る。
そのやりとりを見ていた俺はあることを思い出した。
そして持っていた鉛筆にボールペンで数字を書く。
「沙耶未」
「なに?」
「俺がいいっていうまで鉛筆を転がしてくれ」
「お安い御用だよ!」
言われた通りに鉛筆を転がし、俺はそれを問題の回答欄に書いていく。
「よし、もういいぞ。おかげで現代文が終わった」
「ちょっと廉!」
俺の背後に立っている雫が腰に手を当て、俺の問題集を睨んでいた。
「私もわからない時はそれやっちゃう時あるけど、全部それはまずいでしょ。全部不正解だったらお姉ちゃんに大目玉をくらうことになるよ」
叱りながらも心配してくれる雫。
しかし当の本人である俺はそんな心配はひとかけらもなかった。
「そんなに言うなら雫とさの回答と照らし合わせてみろよ。ほとんど一緒だぞ。もし二割間違ってたら飯奢ってやるよ」
「別にそこまで要求するつもりはないけど」
俺の問題集を持ち、自分の席に座ると、自分の回答と照らし合わせる。
結果:現代文が終わったし、全問正解だった。沙耶未の豪運恐るべし。
〜東雲綾の場合〜
予想通り密室で襲われたし、食われかけたので割愛。
とにかくもう課題が終わった俺に恐れるものはない。
潰される心配もない。
「さて、守谷も課題を終わらせたことだし、これで計画を進められるな」
そう言って松本先生はホワイトボードを引っ張り出し、デカデカと文字を書き込む。
「四日後、姫華の家が所有する別荘を使って、泊まりで海に行くぞ!」
宿泊場所の提供者である姫華先輩以外は目を丸くしている。
「急すぎない?」
「計画としては夏休みが始まる前から練っていた。今日まで黙っていてたのはサプライズだと思ってくれ」
「海行くの!? やった! やっぱり夏休みといえば海は外せないよね!」
上機嫌の水原先輩。
他の人達も楽しみの様子。
「他に誘いたい人がいれば誘っても構わないわよ。部屋はたくさんあるから」
「誰でもいいんですか?」
「まぁ、私達と顔を合わせたことのある奴ならいいぞ」
となると、当然卓也を誘う。
できれば、あの人も誘いたいな。
「前日までには人数を確定させたいから、それまでに伝えてくれ。それじゃあ、今日はここまで。解散だ」
解散してすぐに俺は二人にメールを送った。
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