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ギャルで、オタクな女先輩は意外と純情(納得)8

「どうだったんだ?」

「うん、問題なさそう」

「ならいい。早く飯にしよう。さぁて、何味にしようかなー」

「お・ね・え・ちゃ・ん?」


 私はにっこりと笑いながらも、怒りを含ませてお姉ちゃんの顔を覗く。

 引きつった顔をしてから咳をひとつする。


「そうだったな。今日はラーメン以外のものだったな。じゃあ、あそこの店にするか。鯖やトンカツの定食、洋風なものまであるぞ!」

「ご丁寧にラーメンもあるね」


 見逃さずに指摘をすると悔しそうなお姉ちゃん。


「じゃあそこのバイキングは」

「へー、自分でラーメンが作れるんだ」

「くっ、じゃああそこの蕎麦屋ならいいだろ!?」

「つけ麺もダメだよ?」

「ぐぬぬ……なら鉄板焼きだ! 焼きそばまでダメだとは言わせんぞ!」

「うんうん。焼きそばならいいよ……でもお姉ちゃんが必死に隠そうとしてる焼きラーメンはダメ」


 その後のお姉ちゃんが提案するお店を次々と却下。

 わずかな逃げ道も徹底的に潰す。


「なぜだ! なぜそこまでラーメンの有無にこだわる!!」

「その言葉そっくりそのままお姉ちゃんに返すよ」

「いいじゃないか! 別に雫が食べるわけじゃないのに!」

「私、お姉ちゃんがラーメン以外食べてるところ最近見てないから心配なんだよ。どうせ毎食ラーメンなんでしょ。ほら、たまには和食や洋食とか食べないと舌がおかしくなるよ」

「え?」

「え?」


 私何かおかしなこと言った?


「雫が見てないだけでちゃんと食べてるぞ?」

「え、そうなの!?」

「さすがに驚きすぎではないか?」


 正直、毎日三食ラーメンの生活で、ラーメンの汁は飲み物だと言い張ってガブガブ頼んでるイメージがあった。


「本当に?」


 一応念のため聞き返すと、深いため息を吐かれる。


「あのな? さすがに私だって飽きるに決まってるだろ」

「そ、そっか……ごめんねお姉ちゃん」

「いや、気にしなくてもいい」

「それでここ最近は何食べたの?」

「そうだな、和食(醤油)イタリアン(チリトマト)インド料理(カレー)台湾料理(台湾)かな」

「台湾ラーメンって、名古屋料理だよ」

「おっと、つまりは日本がダブってたのか。うっかりしてたな!」

「「あっはっはっはっはっ!」」

「……結局全部ラーメンじゃん!!」

「チッ、バレたか」


 こうなったら意地でもラーメンのないお店にしてやる。


「おい雫、あそこの店なんかは━━」

「お店は私が決めるからお姉ちゃんは大人しくして」


 お姉ちゃんの意見は全部無視。

 ラーメンがなさそうな洋食あたりを探そう。

 っと、ちょうど良さそうなお店が。


「いらっしゃいませ! 二名様でよろしいでしょうか?」

「すいません、その前に一つ聞きたいことが。ここって、ラーメン置いてありますか?」

「はい! 当店豊富なメニューが自慢でして」

「でしたらすいません。また今度にします」

「え?」


 ポカーンと口を開けたままの店員をよそに退店する。

 そして足早に次の店に突入。


「いらっしゃいませ」

「あの、ここってラーメンとか置いてありますか?」

「ラーメン、ですか?」


 店員は申し訳なさそうに答える。


「申し訳ありません。当店は麺類は扱っておりませんので他のお店に━━」

「ここにします! 席に案内してください!」

「は、はい!」


 期待を裏切る返答をしたはずなのに、むしろ喜んでいる私の言動。

 訳もわからず店員は終始首を傾げていた。


「うわ……本当にラーメンないよ」

「私決まったから早くお姉ちゃんも決めてよね」


 残念そうに項垂れるお姉ちゃんに注文を催促。

 しぶしぶ決めたところですぐに注文した。

 この後美味しい料理でお腹を満たすけど、割愛。

 食事を終えた私達は当初の目的である、お母さんへの誕生日プレゼントを何にするかの会議に入る。


「んで、雫は何がいい案あるか?」


 ドリンクバーのコーラをストローですすりながら尋ねられたが、そう簡単に思いつくのであれば、ここまで買い物が長引くことにはなっていないのだけど。


「うーん、お母さんが欲しいものか……」

「母さんが欲しいものが一番愛に決まっているが、別に想いがこもってれば、母さんは喜んでくれそうだけどな」


 ……そっか! 想いがこもってればお母さんも喜んでくれるなら、一番いい手があった!


「ふっふっ、私いいこと思いついちゃった」

「お、その顔はいい案が思いついたんだな?」

「うん。何かものをプレゼントすることになると、どうしても実用的なもの。お母さんが欲しいものになっちゃうけど、消費出来るものにすればいいんだよ!」

「消費? おいおい、まさか洗剤や油でも渡すつもりじゃないだろうな」


 その内容はどちらかというとお歳暮な気がする。


「じゃなくて、作ればいいんだよ! 想いのこもったプレゼントにもなる。つまり料理をプレゼントすればいい!」

「母親の誕生日を命日にしたくなければ即刻やめろ」


 真剣な表情で私を宥めにかかるお姉ちゃん。


「だ、大丈夫だよ。ほら、少し不味いかもしれないけど、想いはこもってるし」

「前提が不味いのもどうかと思うが、それよりもまず守谷が気絶しない料理を作れ。一番お前の料理を食ってるあいつがダメなら、他の奴が食えば最悪死ぬ」

「それは━━」

「言い過ぎか? 本当に?」

「……この話はなかったことにしようか」

「賢明な判断だ」


 結局振り出しに戻ってしまったわけだけど、どうしたらいいものやら。


「プレゼントで思ったんだが、父さんは何を渡すか聞いてるか?」

「お父さんのプレゼント? それなら知ってるよ。たしか花束だって」

「そうか……」


 お姉ちゃんは目を閉じて腕を組み、考えごとを始めた。


「フッ、なら私は花瓶を買えばいいな。母さんのことだから大事に飾るだろうし」

「あ! ズルい!」


 したり顔のお姉ちゃん。これで決まっていないのは私だけになってしまった。どうしよう。


「……あー、そういえば最近、母さんが万年筆が欲しいとか言ってたっけ。それにしたらどうだ?」

「万年筆? でも、結構値段するんじゃ……」

「別に万超えるようなもんじゃなくてもいいんだよ。数千円のもので。母さんだって娘から高価なものを貰いたいわけじゃないんだ。ただ、もらえるだけでいいんだよ」

「そうだね」


 お姉ちゃんの助言で万年筆をプレゼントすることを決めただけど、一つだけ疑問があった。

 お姉ちゃんはなんでプレゼントが決まってないなどと嘘をついていたのだろう。

 そう思いながらお姉ちゃんを見ると、私からソッポを向いてコーラを飲んでいた。


「……ありがとう、お姉ちゃん」

「なんのことだ?」

「何のことだろうね」


 不器用な気遣いだけど、私のために動いてくれるお姉ちゃんを持てて、心から幸せ者だと思いながら麦茶を飲んだ。


「さて、そろそろ出るか。何やかんやで一時間以上居座ったみたいだからな。っと、その前にトイレ」


 と、荷物を置いてお手洗いに行ったお姉ちゃん。

 鞄からスマホを取り出していじっていると、一通のメールが届いた。

 私は送り主を見て息を呑んだ。

 送り主は水原先輩。

 なぜこのタイミングでメールが? しかもメールは一斉送信したようで、送った相手は生徒会メンバー全員。

 もしかしてお付き合いしましたという報告!?

 脳裏でチラつくファミレスでの二人の姿が材料となり、妄想はどんどん膨らんでいった。

 内容も確認せずにあたふたしているわけにもいかず、思い切って内容を読む。


「え……なに、これ?」


 メール内容と添付された画像に私は絶句した。


『生徒会にご連絡! 今からパーティーをするのでみんな参加してね? 来ないとー、庶務君と舞だけで盛り上がっちゃうから。あと~……誰かに喋っちゃいやよ? ”ひ・み・つ”のパーティーだから』


 そのメッセージと共に場所も明記され、最後に張られた画像には縛られた二人の姿。


「嘘……どうしよう」


 お姉ちゃんに相談しないと思ったけど、メール文からしてこの場所に行かない、あるいは誰かに知らせたら

 二人が危ない。

 画像には大勢の人影も写っていた。

 どうしよう、どうしよう。

 この場に行けば、身の安全は保障されない。それにきっと……いや、必ず心に傷を負うことになる。

 でも、二人が傷つくのもやだ。

 どうすればいいの……私は、どうすれば……


「おい、雫。どうした?」


 帰ってきたお姉ちゃんの声で顔を上げる、

 お姉ちゃんは私の顔を覗き込むように目線を合わせていた。

 恐怖心を押し殺して首を横に振る。


「何でもないよ。ちょっと私もお手洗い行ってくる」


 スマホだけを持ってお手洗いに入り、すぐに鍵を閉めて電話をかけた。

 とりあえず廉と水原先輩にかけるけど、やっぱり出ない。

 次に綾ちゃん、姫華先輩と連絡をとってみるけど、二人共電話に出てくれなかった。


「こんな時に……どうして出てくれないの!」


 感情が高ぶり、目頭が熱くなると、ポロポロと涙が流れた。

 誰かと話し合えないことに不安と恐怖でいっぱいになりながら最後の頼みの綱である小毬先輩に電話をかけた。

 ワンコール……ツーコール……スリーコール……

 小毬先輩は出てくれない。

 静かに泣いていた私だったけど、ここまでくると押さえても声が漏れてしまう。


『……雫?』


 小毬先輩の声が聞こえた瞬間、涙がさらに溢れた。


「小毬先輩! 私どうしたらいいんですか! 廉も水原先輩も危ないけど! 私……」

『落ち着いて、雫。私は、ちゃんと、聞くから、落ち着いて」

「……はい」


 落ち着いて話しかけてくれる小毬先輩の言葉で少しずつ冷静になっていく。


『雫も、メール、見たんだね』

「……はい。でも、誰かに知らせたら、二人が危ないんです。でも、向こうには犯人グループがいます。いったら何されるか考えるだけで」

『じゃあ、いくの、やめる?』

「それは絶対に嫌です!」


 私は大声で叫んだ。


「二人共、大切な仲間なんです。助けたいんです」

『なら、助けよう。私も、そっちに向かってる、から。雫は、一人、じゃないから』

「小毬先輩……」


 体は私よりも小さく、たまに子ども扱いされているけれど、こうして私から不安を取り除いてくれる。

 やはり小毬さんはお姉さんなんだと実感した。


『とにかく、今は、現地、集合って、ことで」

「はい」


 小毬先輩のおかげで涙は止まった。

 トイレを出て、鏡を確認。

 まだ少し目が赤いけど、そこまで目立っているようには見えない。

 これなら戻っても大丈夫だろうと、お姉ちゃんのところに戻った。


「ずいぶん長かったな。大きい方だったか?」

「ちょっと! お店で変なこと言わないでよ!」


 幸いお姉ちゃんがふざけてくれたことで、いつもの調子で振る舞えた。


「早くお店出よ」

「そうだな」


 私の返答に対して特に不信感は抱いていないようだ。


「自分の分は自分で払うから」

「いや、今日は奢ってやる。その分母さんのプレゼントにまわせ」


 と言うお姉ちゃんに甘えてここは任せることに。

 お姉ちゃんはレジで精算を済ませ、私達はお店を出た。


「さて、じゃあ早速買いに行くか」

「それなんだけど、もう買うものも決まったし、これ以上お姉ちゃんにおんぶにだっこは嫌だから、ここからは別行動で買わない?」

「それはいいが」

「じゃ、今日はありがとうね。お姉ちゃん」


 私は人の多いところをわざと進み、お姉ちゃんの視界から消す。

 お姉ちゃんの姿が見えなくなったところで、私は走った。

 何度か人にぶつかっては頭を下げて謝罪を繰り返し、バス停まで行った。

 たしか書かれていた場所はこのバスで三十分、そこから歩いて二十分程度の場所にある廃工場。

 人通りの少ないこと。さらにはガラの悪い集団がよくうろうろしているということで、普通の人はまず通りたがらないことを風の噂で聞いていた。

 バスが到着してすぐに私は乗り込み、目的地に着くまで自分がどんな目に遭うかを色々想像した。

 それでも二人を助けたい。

 目的の場所にバスが止まり、降車した私は急いで廃工場に向かった。

読んでくださり、ありがとうございます

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