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お嬢様で、優しい副会長は女王さま(疑問)1

前話までがなかなか評判が良かったようなので、不安を覚えながらの投稿です。

 カーテンから溢れる光で目が覚めた。

 どうやら天気が良いようだ。しかし、俺の心は晴れ所か曇っている。

 昨日急遽生徒会の庶務に任命された事がよほど精神的にこたえたらしい。

 とは言え、生徒会を辞めると綾先輩から猛烈なアタックを四六時中される。

 どう転んでも俺の生活に支障がきたすのに変わりない。大きなため息を吐いてから時計の針を確認した。いつもより早いが朝食を済ませて向かうとしよう。

 すぐに着替えて、買っておいたコンビニのアンパンを胃の中に収めてから自宅を出た。


「まぶし」


 目の奥辺りが痛くなるほどの日光に思わず腕で影を作る。

 晴れている事は分かっていたけど、空を見上げれば雲一つない晴天だ。出来れば洗濯して干したいが休日ではないため断念せざるを得ない。


「おはよう。廉君」

「おはようございます綾先輩」


 一応念のために言っておくが、時間が経っていつの間にか学校に着いていたとかそう言うのではない。

 家から数百メートル先で綾先輩が待っていた。

 しばらく一緒に歩いたが、やはり指摘したい。


「なんでいるんですか」

「そこに廉君がいるから」


 誤魔化す気はないですかそうですか。


「接触は控えて欲しいんですけど」


 これでは生徒会に入った意味がない。


「私はただ"生徒会長"として"庶務"の廉君と話しているだけだが」


 そうきたかー。

 いや帰ってから、あれ? これもしかして生徒会って名目で綾先輩が動くんじゃね? って思ったよ。


「そうですか」

「話は変わるが弁当をあげよう。今回も愛情込めて作ったぞ」


 弁当はありがたいが、毎日毎日渡されても困る。だからと言って、断って前回のように俺の心を揺さぶるような事をされても困る。


「はぁ……じゃあいただきます。でも、ここでは渡さないでくださいよ。周りに人がいるんで」


 学校に近づくにつれて登校する生徒が増えている。さらに綾先輩がいる事で視線が集まっていた。

 今ここで渡されればまた前回のような事になりかねない。


「安心してくれ。もう鞄に入れておいたから」

「はい!?」


 俺はすぐさま鞄の中身を確認する。

 ……本当にあるよ。どのタイミングで入れられたのかまったく分からない。


「もう着いてしまったか。それでは廉君ここで一旦お別れだ。放課後に生徒会で集まりがあるから忘れないように」


 髪をなびかせ校門をくぐる綾先輩。

 集まりが俺と綾先輩だけではないか確認するために後で雫に聞いておこう。

 閉じた鞄を肩にかけて俺も校門をくぐる。


「おっす廉」


 下駄箱で靴を履き替えていると後ろからトンと肩を叩かれた。もちろん卓也だ。


「おっす。昨日も嫁さんとデートしてたのか?」

「当たり前だ。本当に可愛くて。『寒いから手を繋いでるだけなんだからね! 勘違いしないで!』って、恥ずかしそうにしてる姿がたまらない」


 何を言ってるんだこいつと思っていると思いますが、安心してください。嫁は二次元です。

 って、よく考えなくてもこいつの将来が安心出来ないな。


「お前はいいよな。毎日楽しくて」

「そうか? 普通じゃないか?」


 楽しみ方の内容は抜きにして、自分の普通で過ごす事が出来るのだから現状の俺より数十倍マシだ。

 自然とため息が出る。

 教室の前まで来た俺達。今までの事もありここを開けるのに少し躊躇してしまう。


「入らないのか?」


 俺の心情など知らない卓也が後ろから声をかける。


「先に入ってくれない?」


 と俺が言うと、不思議そうな顔で俺の代わりに扉を開ける。

 卓也の後ろから覗くように顔を出す。

 どうやらいつも通りの教室のようだ。

 俺が胸を撫で下ろしていると、松本先生が教室に入って来た。


「もうそろそろ席に着け」


 すぐさまクラスの皆が席に着く。俺も例外なく同じ行動をとった。


「よし、じゃあ早速だが守谷。前に出てこい」


 突然の名指し。よく分からずに俺は教卓の前まで行く。


「守谷が生徒会の庶務に就任した。これは生徒会長直々の指名だ。みんなも出来れば守谷を支えてくれ」


 クラスがざわめき出す。

 まさかこのタイミングでいうとは思っていなかった。


「ちょっと、どういう事なんですか」

「生徒会に入った事はクラスに伝えなきゃいけない事だ。それに綾直々の推薦でなければ他の奴らは納得しないぞ」


 俺は小声で松本先生に話すと、松本先生も聞こえないように話す。

 確かにただ生徒会に入っただけでは綾先輩を信仰している人々から何かしらアクションが起きる。しかし、綾先輩の推薦とあってはその人達も納得してくれる。


「はい、というわけでみんな拍手」


 みんなから、「頑張って」「羨ましい」など言われながら拍手を受けるこの状況。

 はっきり言おう。すげぇ恥ずかしい!


「ほら、守谷。さっさと戻れ」


 勝手に呼んでおいて、用が済めばお払い箱ですか。

 未だに絶えない拍手を一杯に受けながら俺は机に伏した。

 それから昼休みまで合間の休憩が入るたびにどうして生徒会に入ることになったのかと聞かれ、生徒会長に認められるなんて凄いと賞賛されたりしながら時間を潰される。

 本当はただの綾先輩の私情で半ば強引に入ったと言ったらどんな表情されるのかと興味が湧いたが、間違いなく普通の学校生活にグッバイしなければいけないので、終始受け流していた。


「疲れたー」


 主にみんなからの問いかけに。


「お疲れ様」


 俺の立場を理解しているのか、卓也から労いの言葉がかかる。


「凄いな生徒会だなんて」

「凄いだろ。変わってやるよ」


 切実に。


「いや、遠慮しとく」

「そうですか。よっと」

「どこ行くんだ?」

「飲み物買って来る」


 今朝冷蔵庫からお茶を入れて来るのを忘れてしまい、喉が渇いている。

 急いで財布を持って購買へ駆けた。

 購買にはすぐに着いたがすでに人だかり出来て中々前に進めない。


「あら、廉君」


 後ろから声をかけられ、振り向くと副会長が立っていた。


「副会長!?」

「ふふっ、姫華でいいわよ」


 このお嬢様と言うのかお姫様と言うのか。醸し出される雰囲気で、思わず背筋を伸ばして対応してしまう。


「ひ、姫華先輩は購買に何か用事でも」

「あら、ここが購買なのね。人が一杯いるから何かなーと思って覗きに来てたの」


 購買を利用した事がないのか。余計に二次元のお嬢様のようだ。


「ところで、廉君」

「はい。何でしょう」


 ニコニコ笑う姫華先輩に俺は微笑み返す。


「……綾ちゃんからお弁当を受け取ったのに、何で購買にいるのかしら?」


 伸びてた背筋にぞわりと冷たさが這う。

 笑ってるはずだよねこの人。とてもいい笑顔なのに、全く目が笑っていないんですが。


「こ、これはその。の、飲み物がなくて買いに来ただけです!」


 言い訳じみた言い方になってしまったが本当の事を伝える。

 藍色の瞳にじっと見つめられる事数秒。目から冷たさが消えた。


「そうなの。ごめんなさい、勘違いしちゃって」


 それを見て緊張していた体から力がすっと抜ける。

 気が緩んだ俺を横目に、ほぼ戦場と化している群衆に向かって歩く姫華先輩。


「ちょ、姫華先輩危ないです!」


 我先にとパンを奪い合う群衆の恐ろしさなど知らない姫華先輩が迂闊に混ざればどうなるかなんて分かり切っている。

 ケガをする前に止めなければと俺は手を伸ばす。


「すいませーん。お茶を買いたいのですが」


 そう姫華先輩がお願いをした後の光景に俺は絶句した。

 先ほどまで争うように群がっていた生徒達は騎士団のように整列し、代表者一人がビンテージ物のワインを扱うようにお茶のペットボトルを両手で持っている。

 そして姫華先輩の前で片膝を付き、頭を垂らしながらそれを献上するのだ。


「ありがとうございます」


 感謝の言葉を送り、それを売店のレジに置く。

 おばちゃんも丁寧にお茶を受け取るとレジに金額を打ち出す。

 それに対応して姫華先輩は懐に入れていたピンクの長財布を取り出し、そこから百五十円を置いた。


「どうぞ廉君」


 くるりと回って俺にペットボトルを差し出す。

 一瞬ファンタジーの世界にトリップしてしまったのではと考え込んでいた俺はハッとして、慌てて財布を取り出そうとした。


「お金ならいいわよ。あなたは生徒会の後輩ですもの」


 姫華先輩の優しさが身にしみる。

 ありがたくこのお茶は貰っておこう。


「ありがとうございます」

「「「「チッ」」」」


 姫華先輩の背後でまだ並ぶ騎士達から不穏な音が聞こえた気がするが、気のせいかな。そうに違いない。そうであって。


「あ、そうそう」


 何か思い出した姫華先輩は胸の前で小さく手を合わせる。


「放課後は生徒会室に集まる事は聞いてるかしら?」

「えぇ、綾先輩から聞きました」

「よかった。出来れば授業が終わったらすぐに来てね」

「分かりました」


 俺の返事を聞いた姫華先輩は手を振りながら購買を後にした。

 よかった、綾先輩と二人きりではないんだな、と安堵する。

 俺もさっさと戻って弁当を食べる事にしよう。

 殺気が背中に突き刺さるのを感じながら俺は教室に戻った。

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