素直で、ヤンデレな幼馴染は天然です(安堵)7
本作はダッシュエックス文庫で発売中!
「いきなり死ねはないだろ」
「うっせぇ! そんな羨ま━━そんな状況になることあるわけねぇだろ!」
「だ、だから、例えばの話だって」
「仮の話だったとしてもそんな経験するやつは卓也だけで良いんだよ」
卓也だけ許すあたりお前も卓也が相当好きなんだな。
「卓也は二次元にしか興味ないからな!」
あ、そっちね。
「どうどう。落ち着けって」
隆志が裕太を落ち着かせる。
「じゃあ、隆志ならどうする」
「そいつをぶっ飛ばす」
俺の質問にノータイムで答える。
お前も結局裕太と同じじゃねぇか。
「剛は?」
「なんとも言えんな。そんなに器用じゃないし」
二人よりはまともに返してくれたが、俺の期待に応える回答ではなかった。
最後の頼みの綱である卓也に託すしかない。
「卓也はどうだ?」
「俺? んー」
腕を組み、考えること数分。
卓也の発言を待っていると、ようやく閉ざしていた口が開く。
「やっぱりまずは二人の性格を考えながらも、今までの会話や行動から最適な選択肢を選ぶべきかな。でも選択肢の中にはフェイクがあるから結局ふたを開けるまで結果はわからないな。ハーレムルートを狙うのも良いと思うけど、俺はやっぱり一人を愛したいな」
「オーケー。お前がギャルゲー基準でこの話を進めてることだけはわかった」
今更だが、四人の中でこの手の相談でもっとも役に立たないのって卓也だよな。
「あれ? てっきり攻略したいキャラがいるけど恥ずかしいから仮の話で相談してるのかと思ってた」
半分アタリで半分ハズレだ。
「そんなことだったら普通に攻略サイト見るっての」
「攻略サイトって、相手は生きてるんだぞ! 攻略方法なんてないんだぞ! 気はたしかか!?」
それはこっちの台詞だよ。色々とお前が怖よ。
「でもその主人公って、なんか自意識過剰というか、偽善者というか」
ようやく落ち着いた裕太が腰を据えて話に混じる。
隆志も賛同しているのか、何度も頷くいた。
「分かる分かる。なんか自分が犠牲になれば良いって感じがする」
「たしかに。なんか言い訳してる感じがするな」
剛も同意見のようだ。
友人ではあるが、この時だけは少し苛立ちを覚えた。
普段のような戯れのような偽の怒りではなく、純粋な不快感。
「そもそも、その主人公ってトラウマが原因で付き合わないらしいけど、実際は大したことじゃないんじゃないか?」
『あなた最低よ! 二度と私に話しかけないで!』
『あいつって、たしか……』『あぁ、噂の』『女の敵よね』『なんであいつ平気な顔してバスケ部にいられんだろうな』
奥底に閉じ込めていた過去の記憶がフラッシュバックし、さらに不快感を募らせる。
「お前らには分からない。あの苦しみは」
「ん? 何か言ったか?」
「え? いや、なんでもない。もうそろそろ授業が始まりそうだな」
思わず口から漏れてしまった言葉をかき消すように誤魔化し、机を綺麗に整える。
訝しげな目で見られたが、俺は気にせず授業の準備に取りかかった。
すぐにチャイムが鳴ると、英語担当先生が教室に入ってくる。
いつものような「HELLO EVERYONE」と英語で挨拶すると、前回の続きから授業が始まった。
板書された単語や文をノートにまとめ、言われたポイントを自分が理解出来る程度にみんな羅列しているのだろうが、俺の意識は授業から離れていた。
水原先輩の言う通りにしてみたが、何も成果は得られず、心の傷を抉っただけ。
良い案がないのなら俺の策を貫くしか方法はない。それが二人にとっても一番良いはずだ。
その後の古典でも心はここにあらず。
黒板の文字は写せど、頭の中には留まらない。
小毬先輩の言葉を借りるなら、丁寧に字を書いていなかった。
そんな状態がホームルームが終わるまで続いていた。
「じゃ、先帰る」
「おう! 後で行くから待ってろよ!」
「バイトなんだから待つも何もないだろ」
帰り際に一応裕太達に挨拶して教室を出る。
「あ、廉!」
後方から俺を呼ぶ声が。
声の主は……雫か。
振り向くと案の定雫がいる。
「今日も生徒会室にくるわよね。その時にちょっと時間ちょうだい」
はなから来る前提で話が進められていく。
しまったな。メールで今日は休むこと伝えてなかった。
昨日今日で色々考えていたせいで普段の連絡を疎かにしてたな。
「昨日の沙耶未について話を━━」
「すまん。今日はバイトがあるから行けないんだ」
「そうなの? それなら事前に知らせてほしかった」
少しムッとしている雫。
「ごめん」
すぐに謝ると、雫は眉をハの字に垂らし、両手で俺の頬を触れる。
「大丈夫? なんか顔色悪いよ」
大胆なのに違和感のない自然な動きをされたせいで驚くのを忘れてしまった。
だからだろうか。頭は冷静のまま口が開く。
「雫。これは少し恥ずかしい」
「え? あっ!」
自分の行動にようやく気づき、頰に触れていた手を素早く引っ込める。
「ごめん!」
「あらら〜、前は恋人じゃないって否定してたのに〜」
「どう思います奥さん?」
「やっぱり付き合ってるんじゃないですか奥様」
少し見覚えのある女子三人組が俺と雫のやり取りをニヤニヤしながら見物している。
えーっと、どこで見たっけ。
そうだ。球技大会で雫を茶化してた人達だ。
前回は聞き方がおっさん臭かったが、今回は近所のおばちゃん臭い。
「ち、ちがっ!」
クラスメイト達に動揺している雫。
しかしそれが一層クラスメイトの茶化しを助長させた。
「でも、仲良いからってあんな心配そうになるのかな〜。手まで添えちゃって。雫さんに彼氏が出来たら尻にしくタイプかと思ってたけど」
「意外と過保護なのね。これは私達がいない所でイチャイチャラブラブチュッチュッしてるのね」
「もしかしたら甘えてるんじゃない? 寝る時は彼氏の腕枕じゃないと眠れなくなってそう」
女子はこういう人の恋話好きだな。
男子達(主に裕太)の異様にこだわりのあるフェチ話よりはマシではあるけど。
「あ、ああ、甘えるとかしないし!」
雫さん。その答え方は自分の首を締めるぞ。
「あ、やっぱり付き合って━━」
「だから、そうじゃなくて」
「慌てちゃって、松本さん可愛い!」
「ほらほら吐いちゃいなよ」
「Aはしたんでしょ」
君達は本当に俺と同い年?
聞き方が古臭いよ。
「……フフッ」
あれ? 雫? おーい雫さん? 女神シズクエル?
その不気味な笑みは何?
「松本さん?」
三人組は雫の異変に気がついたようだが、もう遅い。
俺には見えるぞ。
雫の傍に立つ般若の顔をした幽霊の姿が。
「あ、ヤッバ。やりすぎちゃったかな」
「松本さん。ここは冷静になろうよ」
「そうそう。ほら、恋人の前だよ。笑顔になって━━」
「「バカッ!」」
茶化していたノリでついなのだろうが、その発言はまずい。
慌てて二人が口を抑えるが、さらに雫の怒りが次のステージに上がっているのがひしひしと伝わってくる。
「みんな。たしか以前に数学を教えてほしいって言う言ってたわよね」
「え? あ、テスト前に頼んだと思うけど、もうテストは終わって━━」
「教えてあげる」
「松本さん。テストは━━」
「遠慮しないで」
「いやあの━━」
「嫌と言ってもちゃんと教えてあげるから」
三人に向かって手を伸ばす。
「「「ごめんなさい!」」」
三人は脱兎のごとく逃げていく。
その後ろ姿を目にした雫からフッと般若の霊は消え、怒気が弱まった。
「あとでお灸をすえないと」
「クラスメイトなんだから見逃してやったら?」
「善処する」
それ善処しない人しか使わない言葉だよ。
「欠席の件は了解。私がみんなに伝えておくから」
「サンキュー」
「じゃ、また明日」
雫は生徒会室の方へと去っていく。
欠席することは無事伝えた。さて、次は……
「やぁ、さっき松本さんと話してたみたいだけど」「もしかして、君が庶務の守谷廉?」「松本さんと仲良いんだな」「ちょっと俺達とお話しようか」
この爽やかな笑顔をしているが瞳には嫉妬の炎が灯るこの人達をなんとかしなければ。
「いやー、ちょっと俺は用事があるから……じゃ!」
逃げるが勝ちだ。
「逃がすな! 追え!」
アルバイトの時間に間に合うか? そもそも俺は無事に帰れるのか?
しかしそんなことなどすぐに頭の中から抜けてしまい、全速力で廊下を駆け抜けた。
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