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素直で、ヤンデレな幼馴染は天然です(安堵)3

ダッシュエックス文庫で好評発売中!!

「や、やめるんだ雫。ナマコは……ナマコはもうやめ──うわぁ!」


 全身から汗を拭きだしながら俺はベッドから起き上がった。

 悪夢にうなされていたようだ。

 終始雫がいい笑顔でナマコを頬に叩きつけてくる酷い夢だった。

 ここはどこかと周りを確認。

 カーテンに覆われ、消毒液の匂いが鼻をつくことから保健室だな。

 でもなぜ保健室にいるんだっけ。


「守谷君起きた?」


 カーテンが開けられ、養護教諭の清水先生が俺の様子を見に来た。


「はい。あの、なんで俺はここに?」

「覚えてないの?」


 四時限目の授業が終わって、生徒会室で昼食を食べることになってたからすぐに向かって、それで中で待って……そこからの記憶がない。


「先生も事情は分からないけど、ここに運ばれるまで『卵……サプリ……黄色四号』ってぶつぶつ言ってたんだけど、何か思い当たるかしら」


 卵? サプリ? 黄色四号? 雫じゃん。

 そうだよ雫の弁当食べたんだ。

 生徒会室で皆を待ってたら、先に雫が来たから約束通り弁当を貰って。

 その後すぐに綾先輩が来たんだ。

 それで今朝のことについて聞かれそうだった。

 良い予感がしなかった俺は雫の弁当を一気に平らげて気を失うことを思いついて、すぐさま行動に移したんだ。

 雫は目を輝かせて喜び、綾先輩は青ざめていた。対照的な表情が印象的でよく覚えている。

 雫が料理の腕を上げている可能性もあったが、そんな心配は杞憂に終わり、めでたく俺は意識を手放すことに成功したんだ。


「思い出しました。それで、今何時限目ですか?」

「もう授業は終わって、三十分ぐらい経ってるわよ」


 前回と同じぐらい気絶してたのか。


「そうですか」


 俺はベッドから下りて立ち上がった。


「大丈夫? もう少し休んでいた方が」

「いえ平気です」


 前に体が体験したからか、変な耐性が付いたらしく、今のところ体を動かすことに問題はないようだ。


「すいません、お世話になりました」

「気を付けてね。守谷君は体が弱いようだし、少しでも体調が悪かったらすぐ来てね」


 俺が倒れる原因を知らない清水先生には俺が病弱に見えるらしい。

 あの料理を食べてもこうして行動できるんだから、むしろ丈夫な方だと思う。


「失礼しました」


 俺は保健室を後にし、生徒会室に向かう。

 昼に起こした雫の手料理一気食いという俺の奇行ともとれる行動もあり、俺を気遣って今朝のことを聞きはしないだろう。

 少しズルい方法だが、修羅場になってほしくないからな。

 心の中で言い訳を終えると同時に生徒会室の前で立ち止まった。

 そして一呼吸おいて扉を開ける。


「遅れてすいません」

「廉君心配したぞ!」


 入室と同時に綾先輩が俺に詰め寄って、心配そうに頬や額を執拗に触ってくる。


「体調は大丈夫か? 倒れた時怪我はしていないか?」

「大丈夫ですって。この通り平気──綾先輩。なんで手がどんどん下の方にいってるんですかね?」


 腰辺りで綾先輩の腕を掴み進行を妨害するが、綾先輩も負けじと下へと腕を伸ばそうとしてきた。


「廉君のことだから私達に心配を掛けないように我慢しているかもしれんからな。普段は触れないような場所までまさぐって確かめようかと」

「言葉の表現から綾先輩の欲望を感じるんでやめてください」


 しかし綾先輩はやめる気はないようだ。

 俺の下半身にターゲットを絞って攻めてくる。無論俺はそれを止めるわけで。


「はいはい。そこまで」


 綾先輩との攻防を繰り広げていると、ようやくストッパー役の雫が割って入る。

 ようやく綾先輩が引き下がり胸をなでおろす。


「大丈夫?」

「ああ。雫のおかげで助かった」

「いや、そのことじゃなくて」


 バツが悪そうに否定する雫。

 弁当のことを言っているのだろう。


「……練習したって言ってなかったか?」


 あえて少し遠まわしに言うと、雫は目を泳がせ始める。


「し、したわよ! ちゃんと」

「ちゃんとか? 黄色四号使っただろ?」

「……色が悪かったから」


 だからそれやっちゃうと雫の場合は料理じゃなくて芸術になっちゃうでしょって。


「そもそも味見してないのか?」

「い、いっぱい練習したんだから、味は大丈夫だろうって。多少食材が増えても味は変わらないだろうし」


 その理屈はおかしい。でもここはあえて話を進めよう。


「練習中は味見してたんだな?」

「……してないです」


 この子はなぜこんなにも冒険家なのだろう。


「してないのに俺に食べさせたのか!?」

「わ、私はしてないけど、お父さんが」

「雫の父親はなんて?」

「『おいしい』って言ってくれたよ……紫色の顔で」


 大切な娘のためとはいえ、体張り過ぎでしょお父さん。


「なんで味見しないんだ!」

「そ、それは、そのー」


 汗をかき始めた雫は何度も俺をチラチラ見てからボソッとつぶやく。


「自分で味見せず食べてもらえば、おいしいお弁当の可能性があるじゃない」


 食べる前ならおいしいお弁当の可能性があると。

 なにシュレディンガーの猫みたいなことしてくれてんの!?


「雫。何か言いたいことは?」

「う……ごめんなさい」


 自分の非を認めたのでこれ以上は何も言わない。


「そうだ廉君。お腹がすいているだろ。今朝渡しそびれたお弁当を食べたらどうだ」


「今朝」と言われ一瞬体が反応したが、すぐに平静を装い返事をする。


「いただきます」


 綾先輩はにっこり笑って、生徒会長の席に戻っていく。

 俺達のやり取りを紅茶を飲みながら、副会長の席で眺めていた姫華先輩は満面の笑みを浮かべて俺を見ている。

 俺が苦しんでいることに喜びを覚えているのだろうけど、いつも以上にいい笑顔をしてるな。

 小毬先輩は書記の席にいない。

 来客用のソファに目を向ける。

 水原先輩がソファに座り、肘と膝を付けて頬杖を突きながら対面をジッと眺めていた。

 その対面のソファには小毬先輩が一枚のクッキーを両手で持って齧り、ハムスターのように頬をパンパンにしている。

 そしてその隣には小毬先輩よりも大きいハムスターが幸せそうな顔を浮かべて──


「おいひー」

「はぁ!?」


 よく見れば沙耶未が小毬先輩に倣ってクッキーを齧っている。

 なんで沙耶未がここにいるんだ。

 まさか! 俺を追ってここに!?


「さ、沙耶未。なんで」

「ああ、この子廉の知り合いなのね」


 立ち直った雫が代わりに答える。


「さっき廊下で泣いてたから私が連れて来たんだけど」


 だからなんで理由がちょっとほのぼのしてるの!?


「でも、他校の生徒を入れて大丈夫なのか?」

「それなら大丈夫だ」


 俺の席に弁当箱を置いた綾先輩が続いて説明してくれた。


「松本先生には許可をもらっている」


 それならよかったと言いたいところだけど、本当に大丈夫なんだろうか。

 あの人結構がさつだから。


「本当に大丈夫なのかな。お姉ちゃんだし」


 その辺は妹の雫も心配な様子。


「大丈夫だ。それにちゃんと許可はもらったんだ。後のことは松本先生の責任だ」


 そうではあるんですけど。

 綾先輩がこんなこと言うとは思ってもみなかった。

 ……待てよ。綾先輩が沙耶未を呼んだんだよな? なんで?

 俺関係で修羅場になっているはずなのに。それとも、まさにその修羅場に俺が入ってきたのか!?


「小毬さん。クッキー美味しいですね!」

「……うん」

「あ、舞さん! そのネイル可愛いです!」

「え、そう? ありがとう」

「姫華さん! この紅茶おいしいです!」

「気に入ってくれて嬉しいわ」

「雫ちゃんもこっち来てお茶しようよ」

「うん、ちょっと待ってね」

「綾さんも!」

「分かってるからそう急かすな」


 超馴染んでる。

 これのどこが修羅場というんだ。全員と仲良いじゃねぇか。


「ちょっと、雫いいか?」


 綾先輩と一緒に沙耶未のところに行こうとした雫の肩を掴み止める。

 雫はキョトンとした様子を浮かべた。

 そして俺はもう一人呼ぶことに。

 ジッとソファを眺めていると、目的の水原先輩が俺に気が付いてくれた。

 こちらに呼ぶジェスチャーをすると、水原先輩はキョロキョロしてから自分自身に指を差す。

 俺は頷き、水原先輩は立ち上がって俺達の元にやってくる。


「どうしたの廉?」

「どうしてあたし達が呼ばれたの?」

「この中で(常識人で)信用出来る人だから」


 そう答えると雫は納得した様子。


「し、信用。守谷が私を。そ、そっか。えへへ」


 一方の水原先輩はなぜか上機嫌だ。


「そもそも廉とあの子はどういう関係?」


 雫はそう質問を投げる。聞くのは当たり前か。


「幼馴染です。最後に会ったのは中学一年の時ですけど」

「お、幼馴染!?」


 オーバー気味に驚く水原先輩。そこまで驚くことではないでしょ。


「もしかして、小さい時に『将来お嫁さんにしてね!』『うん!』みたいな約束してて、その約束を果たしに!?」


 なんですかそのアニメや漫画みたいな展開は。

 って、そうだ。この人見た目ギャルのオタクだった。


「そんなんじゃないですよ」


 告白はされたけど。


「……そっか。そうなんだ。よかった」


 落ち着きを取り戻した水原先輩。明後日の方向にいっていた誤解が解けてよかった。


「それで、沙耶未が来てから何かあった?」

「特にはないよ。でも、あの子は危ない」

「雫もなのね」


 二人は真剣な表情で顔を見合わせている。


「あ、危ないって」


 俺はごくりと唾を飲み込み聞く。


「あの子を見ていると……庇護欲が」

「分かる。あたしもお世話しなくちゃ、と思っちゃう」


 危ないってそういう意味かー。

 たしかにあいつはいつも誰かがお世話係になろうとしてたな。

 そしてこの二人は世話するタイプの人間だし、ついつい構ってしまいたくなるのだろう。


「それ以外は特に」

「あたしも」

「そうですか」


 現段階では特に危害はないようだ。


「ねぇねぇ! 廉達もお茶しようよ!」


 沙耶未に呼ばれ、水原先輩と雫がソファに座る。

 俺は庶務の席について、まずは空っぽの胃を満たすことにした。

読んでくださり、ありがとうございます!

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