淑女で、紳士な二人は生徒会長の両親です(絶望)12
色々遊びすぎました
土曜と日曜と、綾先輩の両親を話してみたが、今回のことで心強い味方が出来たことはとても喜ばしいことだ。
だけど同時に、凶悪な敵が出現したのも事実。
俺と似た境遇を持つ元次さんと、綾先輩にそっくりな明美さん。
あの元次さんとの電話の後から連絡していないが、元次さんは無事に帰れただろうか。
他人の心配をしながら月曜日を迎え、放課後になった今はこうして生徒会室で買った備品を整理している。
「守谷、それ片付けたら目安箱の作製を頼んだぞ」
「……松本先生。一ついいですか?」
「なんだ、言ってみろ」
「どうして俺一人で掃除と備品の整理と目安箱を作ることになってるんですか」
「当たり前だ。他の奴らは仕事をしているんだ」
今日は部活に顔を出している水原先輩を除き、他は自分が受け持つ仕事をこなしていた。
「それはわかってますよ。俺が言いたいのは先生は手伝ってくれないんですか?」
「悪いな守谷。それは三分前に言うべきだったな」
手元のカップ麺の蓋を開けてズズッと麺をすすり始める。
「いやいや。始まってすぐに『掃除手伝ってください』って言ったら先生なんて答えたか覚えてますか」
「『資料に目を通してるからそのあとにな』って言ったな」
「それなら仕方ないと思って掃除しましたけど、備品の整理始めてから『手が空いてるなら手伝ってください』って聞いたら今度は」
「『他の奴らにお茶を準備してるからそのあと』。そう言ってポットでお湯を沸かしてたな」
「またちょっとしてから再度聞いたら」
「ちょうどお湯が沸いたんだったな」
「そして先生はそれを」
「カップ麺に注いだな」
そうですね。おまけにお茶も作らずに!
「手伝う気は一切なかったんですよね」
「そんなことはないぞ。ただ小腹が空いてだな」
小腹が空いてって……あなたが持ってるカップ麺にはデカデカと『BIG!!』と書かれているんですけど。
「それに私が手伝ってしまったらお前の仕事がなくなるだろ」
「手が空いたら綾先輩達にお茶を出そうと思ってたんですよ」
「そうか……ならその時になったらついでに私の分も注いでくれ」
この教師、手伝う気皆無だな!
「整理が終わったんで、目安箱の設置を手伝ってくれるならやります」
「おっと、しまった。私としたことが、匂いが強い豚骨ラーメンを作ってしまった」
は? さっき松本先生が作ったのは醤油ラーメンで──
ちょっと待て。なんでこの人新しいの作り始めてんだよ。
「悪いな守谷」
「何が悪いですか! 何しれっと食べ終えて新しいの作ってるんですか!?」
「いや、魚介系だったから今度は豚骨が食べたくなってな」
あなたの味覚の気分を聞きたいわけじゃないんですよ!
「というわけで、このまま粗末にするのはもったいない。しかしここで食べるとみんなに迷惑をかけてしまうから私は他の所で食べてくる。じゃ、各自任せた」
おっさんみたいに片手を上げてそそくさと逃げる松本先生。
まったく、あの教師は。
「廉、出来た」
小毬先輩が小さな手を振って俺を呼ぶ。
「どんな感じで──わぁ……相変わらず綺麗な字ですね」
ユオンで購入した札には力強くも繊細な『目安箱』と墨で書かれている。
小毬先輩は俺の反応を見て満足そうに鼻から息を吐く。
「会心、の出来。と、言うことで。はい、これ。洗って、きて」
筆と墨の入ったすずりを指差す。
後片付けは庶務の仕事ですか。
「わかりました。洗ってきます」
ここまで綺麗な字で書いてくれたのだから、文句を言わずにちゃっちゃっと取りかかろう。
生徒会室を出て、近場の水道で汚れが残らないように丁寧に洗い、使い捨てのタオルで綺麗に水滴を拭き取る。
そして再び生徒会室に戻って小毬先輩に手渡した。
「ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ目安箱を置いてきますね。たしか生徒会室の前と昇降口ですよね」
「ああ、そこで問題ない。頼んだよ廉君」
目安箱を持って生徒会室を出る。
生徒会室の前にはあらかじめ机が置かれており、その上に箱と小毬先輩が書いた『目安箱』の札をそっと添えた。
曲がっていないかと、少し距離をおいて眺める。
……問題なし!
配置に満足して階段を駆け下りる。
昇降口までついた俺は先ほどと同様に箱と札を机の上に置いて、配置の確認をした。
靴を履き替えている生徒に若干不審がられたので、ほどほどに済ませて生徒会室に戻った。
「目安箱置いてきました」
「ありがとう廉。んーっ……こっちもやっと終わったー」
伸びをしてほっこりしている雫。
相当集中して計算をしていたらしい。
「綾ちゃん。みんなも仕事が終わったし、今日は解散でいいんじゃないかしら?」
みんなの様子を伺い、提案する姫華先輩。
「そうだな。急ぐ必要もないし、今日はここまでにしよう」
生徒会長である綾先輩からの許しも出た。
早速荷物を片付け、帰る準備を始める。
「廉君」
準備をしていると、いつのまにか俺の隣に綾先輩が立っていた。
「どうしたんですか?」
「昨日は母が迷惑をかけたな」
綾先輩もですけど、とはあえて言わない。
「いえ、迷惑なんて……」
「いや、かけた! だからお詫びをさせてほしい」
たしかに色々心臓に悪かったですが、そこまでしてくれなくてもいいのに。
「品を送ろうと思うのだが、廉君はぬいぐるみとコーナータップ、どちらがいい?」
「どっちも遠慮しておきまーす」
元次さんからのアドバイスをもらっておいてよかった。
ストーカーからのプレゼントでもらってはいけないのは、ぬいぐるみとコーナータップらしい。
全部元次さんの経験談。
「廉、明美さんと会ったの?」
親戚の雫もさすがに明美さんとは会っているらしく、すぐに反応を示す。
「まぁ、ちょっとな。色々とすごい人だった。夫の元次さんも大変そうだ」
「……そ、そうね」
あれ? 歯切れが悪いな。
「そろそろ、帰る」
小毬先輩は一足先に生徒会室を出る。それに続き、俺も生徒会室を後にした。
雫の反応が少し引っかかるが、大したことじゃないだろう。
昇降口で靴に履き替え、まっすぐ自宅に向かう。
今日は掃除と買ってきた備品の整理。それから目安箱の設置か。
雑用係が板についてきたな。
「廉……」
唐突に俺の名前を呼ぶ女性の声。
聞き覚えのある懐かしい声に昔の思い出が蘇る。
俺はすぐに振り返った。
夕日に映える茶色のサイドテール。小顔に対し、くりっとした大きな瞳。
年齢よりも少し童顔な彼女は中学の時と何一つ変わらない。
「やっぱり、廉だ」
「さ……沙耶未」
当時のように下の名前で呼ぶと、笑顔だった沙耶未の瞳が潤んだ。
「覚えてて、くれたんだ」
「なんでお前がここに──」
俺の質問よりも先に沙耶未は俺の胸に飛び込む。
「これで廉は……私のもの……」
言葉の意味が分からなかったが、沙耶未が飛び込んできたと同時に、腹部に鋭い痛みが走った……
耐えて守谷!ここで倒れたらあんたの普通の生活が本当に終わっちゃう!ライフ(命)はまだ残ってる。ここで踏ん張るのよ守谷!
次回!「素直で、ヤンデレな幼馴染は天然です(安堵)」
次回もよろしくね!
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ある日を境に、守谷廉の生活は変わった
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