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容姿端麗、文武両道な生徒会長は俺のストーカーではない(願望)6

 この日を境に綾先輩は執拗に俺と関わろうと近づいてきた。

 次の日。行き道で。


「やぁ、廉君」


 また次の日。昨日よりも50メートル手前で。


「奇遇だね。一緒に学校に行かないか?」


 またまた次の日。一昨日よりも100メートル手前で。


「廉君」


 次の日、次の日、次の日……。

 白昼堂々とメリーさんをやられているが、幸いまだ家までたどり着いてはいない。

 え、話を聞くと土日も学校に行ってる事になるから嘘だって?

 土日は買い物とかするだろ。つまりそういう事だ。

 背後から付きまとわれたり、いつの間にか鞄の中に弁当が入っていたりするのは当たり前。

 いつこれらがグレードアップするのかヒヤヒヤしている。

 と、こんなが感じが現状の経緯。プロローグと言えばいいのだろうか。

 俺を気遣ってか、迷惑な噂が出ないように立ち回っているようだが、朝の登校に一緒にいるだけで俺へのヘイトが溜まっている事に綾先輩は気がついていない様子なのがタチが悪い。


「おーい、大丈夫かー」


 机に突っ伏した俺に、ふざけ半分なのか間延びした聞き方をする卓也。

 まだ四時限目が終わったばかりだというのに一日の疲労匹敵するほど重たくなった体をゆっくりと起こす。


「大丈夫じゃない」

「そうか。ならいい知らせだがあるぞ」


 いい知らせ? どうせアニメ関係だろう。しかし、どんな事でも気が紛れるならなんだっていい。


「全校生徒憧れの生徒会長がさっき呼んでたぞ。よかったな」


 あぁ、俺の疲労はまだ募るのか。


「一体いつ来たんだ」

「さっきだ。目立つと廉に悪いからってこっそり俺にな」


 俺に伝えるための人選を見る限り、友人関係まで把握しているようだ。


「どこに来てほしいって?」

「生徒会室」


 敵の庭か。一人で行くには少々不用心だな。ここはオトモ。もとい卓也を連れて行こう。適当に理由を言えばついて来てくれるはずだ。


「卓也も一緒に来てくれないか? 生徒会室に一人は少しきつい」


 よし、友人を大事にする卓也ならこれでついて来てくれるはずだ……と思っていたが、卓也は申し訳なさそうにしている。まさか……


「あー、悪い。流石に行けない。会長さんが浮かない顔で廉と二人で話したいって言ってたから、部外者の俺も行くのは忍びない」


 断られてしまった。一人で行くしかない。


「わ、わかった」


 俺は渋々生徒会室に向かう。

 しまった。先手を打たれていた。

 卓也の性格と俺の行動を先読みしてわざと暗い表情をしたに違いない。

 もしかしたら本当に何か重要な話が? とも思ったが生徒会室の前まで来てみると、中から上機嫌な綾先輩の鼻歌が聞こえてきたためそんな考えは消し飛んだ。

 ここはやはり静かに扉から離れるべきだ。中から綾先輩の鼻歌以外が聞こえないという事は十中八九、中は綾先輩一人。何をされるか分からない。

 大丈夫。これは逃げではない。戦略的撤退だ。

 そう、ゆっくりと音を立てずに方向転換してーー


「むっ、廉君の気配!」

「え?」


 思わず口から声が漏れてしまった。

 急いで戦略的撤退をしようとするが、それよりも先に生徒会室の扉が豪快に開かれ、ニュッと出てきた腕が俺の首根っこを捉える。


「やっぱり廉君だ。来ているなら遠慮せず入ればいいではないか」


 だから遠慮せず去ろうとしたんですけど。

 エスケ──戦略的撤退には失敗したが、中に入らなければどうって事ない。


「あ、綾先輩。話があるって聞いたんですけど」

「まぁまぁ。まずは入りたまえ」


 いや、そこあなたのテリトリーじゃないですか。

 流石に狩人がいると分かってるのに入りたいとは思わないんですけど。


「こ、ここで大丈夫です」

「人に聞かれたくないんだ」


 もう入るしかないらしく、俺は警戒して入室した。

 案の定他のメンバーがいない。


「それで話は」

「まぁまぁ。座りたまえ」


 来客用に備えていたソファに俺を座らせる。


「それで、話──」

「まぁまぁ。これでも食べたまえ」


 目の前の机に重箱を置かれ、広げられる。明らかに一人で食べる量ではない。


「いや、話を──」

「まぁまぁ。アーンしたまえ」

「その言い回しすれば全部が全部通ると思わないでください!」


 箸で摘んだ卵焼きを俺の口元に運ぶ。


「話があるんじゃないんですか?」

「ないが」


 この人とうとう建前を捨てたよ。


「なら、俺は戻ります」


 立ち上がろうとした。しかし遮るように綾先輩が声を発した。


「折角作ったのに」


 俺の体は固まる。


「ただ、廉君と一緒にご飯が食べたい一心で朝早く起きてこしらえたのに。残念だ。これ、一人では些か量が多いな」


 呟いているが明らかに俺に聞かせるように言っている。

 こんな事で、俺の決心がゆら、揺らいで、なん、か。


「あーもう。わかりました! 食べますよ」


 諦めて重箱と向かい合う。さっさと食べ終えてしまおうと箸を探すがどこにもない。


「箸はどこですか?」

「あーん」

「いや、箸を──」

「あーん」


 くっそ。この人いい笑顔で箸を突きつけてくる。それが答えですか。

 俺は箸の先端にある卵焼きを頬張る。


「どうだ?」

「おいしいです」


 素直に感想を言った。本当においしいのだからしょうがない。


「そうか。なら私もいただこう」


 同じ箸でハンバーグを取って口に含む。

 ですよねー。箸が一膳しかないんですもの。そうなりますよねー。

 ……あの、ちょっと。箸ねぶり過ぎじゃありませんか?


「綾先輩?」


 俺の声でようやく箸を口から離す。一瞬だけ透明な糸によって口と橋渡しした箸で別のおかずを掴む。そして、


「はい、あーん」


 まさかのあーんを続行。

 別に潔癖症ではない。コップで飲み回す事も気にならない。でも、これは潔癖症云々の話ではないでしょ。

 これ以上思い通りにさせないようになるべく箸が口に触れないようにおかずを奪おうと試みる。

 が、綾先輩は口をつけたと同時に箸を突っ込んできた。

 いきなり口に物が入ったんだ。当然むせる。


「ちょ、綾先輩。ゲホッ!」

「す、すまない!」


 綾先輩は自前の水筒を取り出し、生徒会室に常備している紙コップにお茶を注ぐ。

 俺はそれを受け取り一気にあおった。

 苦しかったがこれは絶好のチャンス。


「はぁ。やっぱり、二人で一つの箸を使い続けるのは少し無茶ですよ。俺は手でいいですから」


 今なら多少罪悪感があるだろう。このタイミングでこの提案。完璧だ。


「だが、流石に手では少し行儀も悪いだろ。それに、衛生的に少し悩ましいな」


 飽くまで引き下がろうとはしない。

 しかし、さっきの事もあり、強く出る事が出来ないと言った所だろう。

 ならここはさらに押す。


「でも、さっきみたいにタイミング間違って箸を突っ込まれるのは」

「確かに」


 よし! いける! このまま押し切れば。

 俺は勝ちを確信した。しかし、困惑していた綾先輩の口元が僅かにつり上がったのを見逃さなかった。


「いい方法がある。これなら箸が一本あれば二人同時に食べる事が出来る」

「いや、同時は無理ですよ。やっぱりここは俺が手づかみで」


 右手をおかずに伸ばすと綾先輩はその手を掴んで止める。


「なら、実践してやろう」


 箸でソーセージを一本掴み、口に咥えた。

 交互に使うのかと思いきや、噛むそぶりもしないでただ咥えたまま俺の両肩を掴む。

 それはもうがっちりと……がっちり掴まれて動けないんですけど。


「あの、綾先輩?」

「ほのはははへればふはりへはべられる(このままたべればふたりでたべられる)」


 やばい。この人の目、空腹の動物が目の前の獲物を狩る時の目と同じだ。


「綾先輩! ストップ!」


 グイグイ顔を近づけられ避けるため後ろに反らすが、進行を止めない綾先輩。

 結果俺に覆いかぶさり、押し倒したような構図が出来上がっていた。

 もうなりふり構っていられない俺は助けを呼ぶ。


「誰か──」


 だが口を開いた瞬間ソーセージを突っ込まれ、目と鼻の先には綾先輩の大きな瞳が迫っていた。

 咄嗟に口を閉じたためまだ唇は触れていない。しかし、ソーセージの長さは心許なかった。

 声を出せばソーセージではなく今度はマウストゥマウスで塞がれる。かと言ってこのままでは……

 俺が思考を巡らせている最中、綾先輩の口元が少し動いた。

 少しずつ……少しずつ……ソーセージを食べて行く。あえて一気に食べずに、焦らすように過程を楽しんでいた。

 このままでは本当にキ、キスをしてしまう!

 押し退けようにも腕の稼働範囲内で触れるのは胸元より下。緊急事態でも触るのは躊躇いがある。

 そもそも俺が力で綾先輩に勝てる自信もない。情けない事に。

 そんなこんなと考えている内に気がつけばソーセージは最初よりも半分近く短くなっていた。

 もう待ちきれないのか綾先輩の頰は上気し、瞳は潤んでいる。息遣いも荒い。

 いいよな、いいよな! と強く訴える瞳が俺の中の焦燥感をより一層駆り立てる。

 頼む! 誰か!


「はぁ、生徒会室に筆箱を忘れるなんて、最あ──」


 自分の失態に小言を零しながら目の前にいる俺と綾先輩の姿に硬直する雫。

 しかし、綾先輩は一瞥しただけでまたソーセージをかじる。


「って、何やってるの!?」


 俺と綾先輩の間に割って入った雫のおかげで、ソーセージが口から離れた。


「廉、大丈夫!?」


 心配して俺を揺らす雫。

 綾先輩の従姉妹で、しかも松本先生の妹だから頭のネジが数本外れていると思ったけど、違った。

 雫はただの女神様だった。


「綾ちゃん! これはどういう事なの!?」


 咥えていたソーセージを指で押して口に含む綾先輩。


「いや、箸がないから仕方なくこんな事になってしまって。そしたら思いのほか気分が高揚してしまってな」


 予想外の返答だったらしく、雫はポカーンと口を開けて呆然とする。

 無理もないよな。


「綾ちゃん、廉が好きなの?」

「そうだが?」


 即答された。

 普通の男ならここで素直に喜ぶか、ドキドキするか、照れて顔を赤くするかなのだろうけど、素直に怖いし、別の意味でドキドキするし、顔は青くする事なら出来る。

 だってあの後だぞ。仕方ないでしょ。


「なんでこんな事」

「押してダメなら押し倒そうと思った」


 引きましょうよ。さらに押すって、それただの強行突破。


「好きだからってそんなことしちゃダメ! 廉、あなたはもう教室に戻りなさい。ちょっと綾ちゃんと話しするから」


 言われるまでもなく俺もここから早く出て行きたかった。

 縦に何度も首を振り、すぐに生徒会室を出る。

 雫と綾先輩がその後何の話をしたのか分からないが、教室に着いた俺は疲労感から残りの時間を夢の中に過ごし、次の授業の先生に起こされるまで夢の中にいた。

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