淑女で、紳士な二人は生徒会長の両親です(絶望)6
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吐き気と戦いながら人の波を縫い、体調に合わせばがら歩調を変える。
トイレの道順を示した札を目にするが、厚意(?)でもらったものをトイレに流すことなんて出来るわけもない。
なんとかしてエスカレーター下に着いた。人も少ないし、ここでならゆっくりと落ち着ける。
すぐに自動販売機に小銭を投入し、よく選ばれると有名な緑茶のボタンを押す。
音を立ててペットボトルが取出し口に落下。待ってましたとばかりに緑茶を掴み、蓋を開けてそれを呷る。
緑茶の苦味が口の中の甘さを洗い流す。
先ほどまでの気持ち悪さが嘘のように引き、自然と吐息を漏らした。
ベンチに座り、しばらく壁に身を預けていると、ポケットから振動が伝わってくる。
原因のスマホを取り出し、通話をタッチした。
「もしもし」
『もしもし廉? 今どこにいるの? もうこっちは食べ終わって廉待ちなんだけど』
少し説教口調ではあるが、心配も含まれた雫の声が耳の中で反響する。
思っていたよりも結構時間が経っていたんだな。
「悪い。もうそっちに戻るから」
『了か――ちょっと待ってね。どうしたんですか?』
スマホの向こうで何か話し合いがされているようだ。
『廉は今どこにいるの?』
「俺? えーっと……」
近くの地図を見ながらこと細かく居場所を伝えると、また向こうで話し合いが始まる。
『今から二回のゲームセンターで少し遊ぶことになったから、廉はそのまま二階に上がってゲームセンターの前で待ってて』
「分かった」
通話が切れ、エスカレーターで二階へ。
二階に上がると、目の前には以前に遊んだゲームセンターがけたたましいBGMで俺を出迎えていた。
「あれ、廉君じゃないかしら?」
「そうみたいですね」
俺とは違うルートで来たみんなと数十分ぶりに合流を果たす。
「調子はどうだ廉君?」
「だいぶ落ち着きました」
「そ、そうなんだ。よ、よかったよかった! うん、本当に、よかった」
……なんだ? この二人の反応は?
綾先輩は妙にツヤツヤしてるけど、水原先輩は全然目を合わせてくれない。
……そういえばみんなクレープを食べ終えたんだよな。じゃあ、俺が口を付けた個所は一体どうな――これ以上考えてはいけなさそうなんで思考をシャットアウトする。
「はいはい、みんなさんここで立ち止まるのも迷惑ですから、早速遊びましょう」
雫の号令でゲームセンターへ。
「どうしますか?」
耳がおかしくなりそうなほどの音量。いつもよりも声を張って尋ねてみる。
「大勢でゲームセンターと言えば……あれ!」
水原先輩が指差すものに俺は苦笑いを浮かべてしまった。
それは男子禁制であり、女子と同伴でなければ入ることすら出来ず、一部の男子は生涯使うことはない。否! 使いたくても使うことを許されない! 女友達や彼女のいない男共をあざ笑うかのような存在!
ゲームセンターといえば必ずと言っていいほど置いてあるプリクラ!
まさかあのプリクラで遊ぶんですか!?
「わぁ、プリクラ! 舞さん、あれプリクラよね!? 私プリクラ初めてなの!」
目を輝かせる姫華先輩。
他の人達も使ったことがないからか興味津々のようだ。
俺はどうなのかって? 使ったことあるわけないだろ! いや別に女友達がいなくてプリクラ撮ったことがないとかじゃないから。単純に興味なかっただけだから!
というか、これまずいよな。
だってこの流れからすると……
「じゃあみんなで撮ろうよ!」
そうなりますよね!
「いいですねプリクラ! みんなで楽しんできてください!」
「さらっと自分を抜いてるわよね?」
雫の指摘に明後日の方向に視線を逸らす。
「ほ、ほら! 荷物番必要だろ?」
「荷物なんてないでしょ?」
そんなことないぞ! みんな気づいてないだけで、きっとプリクラ撮る時に邪魔になるものあるから!
「荷物……ああ、たしかに廉は生徒会のお荷物かもしれないけど、そんなに自虐的にならなくてもいいのに」
小毬先輩の言葉の刃が俺の心を的確に切りつける。
さらっと……さらっと言われた。生徒会のお荷物って、さらっと……
荷物に気づいてなかったのは俺の方だった……
「こら小毬!」
「ごめん、冗談」
本当に冗談ですか? 信じていいんですか?
「廉君も元気出してプリクラを撮ろう!」
「そうですねプリクラを――いやいや、俺撮りませんからね!」
危うく誘導されそうだった。
「そんなにみんなで撮るのが嫌なのか?」
「まぁ、男がプリクラってのも恥ずかしいし」
「そうか……ならばこれならどうだ? 舞、小毬、姫華、雫がプリクラを撮る。次に私と廉君で撮るんだ」
「俺の話聞いてましたか?」
そもそも綾先輩と二人きりの時点で論外です。
「綾ちゃん、廉君。早くプリクラ取りましょうよ!」
さっきからウキウキの姫華先輩。プリクラ撮るのをどんだけ楽しみにしてるんだ。
「いやだから、俺は抜きで――」
「廉君……」
俺のジッと見つめながら姫華先輩が呟く。
「撮る……わよね?」
「……はい」
「よかったー。一人だけいないのは寂しいもの」
女王の要望には「はい」か「YES」で答えろと言わんばかり冷たい目に俺は従うことしか出来なかった。
「それと綾ちゃん」
「な、なんだ姫華」
「……これ以上お預けは嫌だから、綾ちゃんも、駄々、こねないでね?」
「は、はひ」
おいおい嘘だろ。あの綾先輩まで怯えてるよ。
「それじゃあみんな。プリクラにレッツゴー!」
無邪気な笑顔でプリクラに向かう姫華先輩の後ろ姿を呆然と眺める。
「……綾先輩」
「廉君。姫華の言うこと聞くんだ。これは君を心配してのことだ」
綾先輩は引きつった表情を浮かべながら姫華先輩の後を追う。
「姫華って、あんなにも要望を押し通す奴だっけ?」
「普段は、違う。でも、わがままになったら、たまに、あんな風に、なる。誰も、止められない」
「……もし姫華のわがままが断られたら?」
「怖くて考えたこともありませんよ」
他の三人もプリクラへと歩く。
俺も後に続いた。
「舞さん、これはどうやってやるのかしら?」
「まずお金を入れて――」
プリクラ中では水原先輩に教わりながら、姫華先輩が操作を行っている。
「よし、ほらみんな並んで並んで!」
水原先輩に引っ張られ、恥ずかしい思いを我慢して俺も混ざることに。
機械のアナウンスが画面に映るポーズを指示するが、とてもじゃないが男の俺がするものではない。
「ちょっと守谷! 学校の集合写真じゃないんだからさ」
「と言われても」
「次はちゃんとポーズとってよね」
次のポーズが画面に映し出され、アナウンスが指示を出す。
頬に人差し指を突き刺している。
俺は恥ずかしさを押し殺し、引きつった笑みでそのポーズをした。
それが何度も続き、撮影を終える頃には男のプライドがボロボロになっていた。
「はい、こんな感じで落書き出来るから」
「まぁ! そんなことも出来るの!?」
水原先輩からペンを受け取り、姫華先輩は落書きを始める。
「出来た! 綾ちゃんはどうする?」
「そうだな……」
悩んでいるようにみせかけ、ペンを迷わせることなく俺と綾先輩を丸で囲む。
「廉君。私と付き合って何ヶ月?」
「出会って三ヶ月です」
ちゃんと伝えたのに綾先輩が書き間違えてたので、俺の番で修正した。
「後は印刷されたのが出るのを受け取るだけ」
外の取り出し口からプリントされたシールが落ちてくる。
「はい、姫華」
「わぁー、綺麗ねー」
色々なスタンプと可愛らしい文体で書かれた「白蘭学園生徒会役員!」。
「じゃあこれ、廉君の分」
「え、はい」
手渡されるシールをマジマジと眺める。
恥かしくはあったが、こういう風に目に見えた思い出になるのは悪くないな。
「いい出来だ。後でスマホに貼っておこう」
「絶対にやめてください!」
やっぱり残すべきじゃないな。
「よし、どんどん遊ぶわよ!」
やる気に満ち溢れている水原先輩。
その後は色々なゲームで遊び、ウィンドーショッピングなどして楽しい時間を過ごした。
気が付けば十六時を過ぎようとしていた。




