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容姿端麗、文武両道な生徒会長は俺のストーカーではない(願望)5

 その後の授業も視線が痛かったが、弁当の件は誤解という事で処理をされ、最初よりかは幾分マシだった。

 しかし、あの弁当の中身のインパクトが頭から離れない俺が授業を一から十まで集中して聞けるわけもなく(いつも集中しているとは言っていない)、モヤモヤしたまま最後の授業は終わっていた。


「廉、一緒に帰らないか?」


 振り返って後ろの俺に話しかける卓也。


「お前部活じゃないのか?」

「あぁ、部活ね……今日は行かない」


 卓也の悟った目を見た俺はそれ以上は深く聞く事は出来なかった。

 こいつもこいつで苦労人なんだな。

 だが、俺もこの後は綾先輩の所に行かなければならない。


「悪い。ちょっと用事で学校にまだ残るんだよ」

「そっか。じゃあしょうがない。じゃあな」


 納得した卓也は立ち上がって俺に手を振る。

 俺も振り返して卓也が教室を出るのを見送り、部活が始まった時間に教室を出た。

 もちろん周りに注意を払い、念の為生徒会室に向かっている事を悟らせないように遠回りをする。

 やはり部活の時間ともあって廊下に人通りは少ない。

 吹奏楽部や料理部などの屋内で行う部活もほとんどは実習棟。つまり、別の校舎で活動をしている。

 この時間にいるのは教室で駄弁る生徒ぐらいだ。

 階段を上がり、壁沿いに曲がる。


「「ん?」」


 曲がり角でたまたまいた綾先輩とバッチリ目があった。


「綾先輩!?」


 まさかここで会うとは思ってもおらず、驚きすぎてよろめいた俺は尻餅をつく。


「廉君大丈夫か!?」


 心配して俺の肩に手を添える綾先輩。

 すぐさま俺は周りを見渡す。

 よかった。誰もいない。


「大丈夫です」


 尻についた埃やゴミを手で払い立ち上がった。


「それで、なぜ君がこんな所に? 部活はしていないはずだろ」


 今の発言に違和感があったような。


「そのー、綾先輩と二人で話しがしたくて。出来ればどこかの教室とかで」


 こんな所で話しているのを通りかかった生徒に見られたらたまったものじゃない。


「そ、そうか! なら生徒指導室だな!」


 俺の手を引っ張り、生徒指導室に連れていかれる。

 というか、何か話をするなら生徒指導室みたいなのやめましょうよ。側から見たら俺が素行の悪い生徒みたいじゃないですか。

 そんな俺の気持ちなど知らない綾先輩は歩き続ける。


「よし、着いたぞ。入れ」


 三度目の生徒指導室。

 大きくため息を吐いてから中へと入り、その後綾先輩が入室。


「綾先輩、話なんですけど」


 ガチャンと音を立てながら鍵がかけられた。


「なんで鍵を?」

「念の為だ」


 確かに人が入ってこられても困る。

 しかし、いざ話そうと思うと緊張するもので、相手から視線を逸らしてしまう。


「それで話しというのはあの、弁当の事で。お礼にしても、流石にこれ以上は申し訳ないので、もう作らなくてもーーって何しとるんですか!?」


 一瞬視線を綾先輩に戻すと何故かシャツ一枚の姿。そして、そのシャツのボタンも何個か綾先輩の手によって外され、ピンク色のブラに包まれた胸元がバッチリと見えていた。


「なんだ? もしかして脱がしたいのか?」

「違います!」

「そうか。君は着たままの方がいいのだな。気付いてやれなくてすまない」

「そんな気遣いもいらないですし、そういう意味じゃない!」


 綾先輩の奇行に声を荒げる。

 一体何がどうなってるんだよ。


「俺はただ話がしたく━━」


 綾先輩の人差し指が突然唇に触れ、咄嗟に口を噤む。


「言わなくても分かってる」


 あ、これは分かっていない人の言い方だ。


「わざわざ私と二人っきりになりたかったんだ。しかもこんな場所で」


 二人っきりとは言いましたけど、ここに連れて来たのはあなたです。


「私も実は……き、君の事があの一件以来、頭から離れないんだ」


 何の話をしているのだろう。


「こんな気持ち、経験がなくてな。最初は戸惑ったが今なら分かる」


 唇に触れていた人差し指は首筋を通って俺の背後に周る。

 そして、もう一方の腕も俺の背中に周った。

 ……ハグだこれ!


「君を好きになってしまったらしい」


 強く抱きしめられ、綾先輩の膨らんだ胸が俺の胸板でむにゅっと押しつぶされ、もう少し前に出せばキスをしてしまうほど近くに綾先輩の顔が。


「ちょっと待ってください! 綾先輩、これは何かのいたずらですか? 流石に悪質過ぎます」


 こんな事ありえない。しかし、綾先輩は右手で俺の顎をクイッとあげる。


「この気持ちは本物だ。このままキスをすれば証明になるだろ」


 少しずつ俺の顔に近づく。

 やばいやばいやばいやばい。これは何かの勘違いだ。


「綾先輩! 誤解! それは誤解なんですよ!」

「キスを5回したいなんて……君は謙虚だな」


 この人何回する気だよ!? って、そんな場合じゃねえ!

 とりあえず今は先延ばしして打開策を。


「一旦待ってください! そもそも俺の事全然知らないじゃないですか。まずは俺の事を知ってから━━」

「一年三組、守谷廉。出席番号は16番。身長165センチ。体重57キロ。血液型はO型。誕生日は9月21日の乙女座。得意科目は理系科目、苦手科目は英語。母と父、そして妹の四人家族だが、現在はこの学校に通うために一人暮らしをしている」


 あ、さっきの違和感が何か分かった。言った覚えのない情報を何故か知ってるんだ。


「私は十分知っていると思うんだ。だから、

 な。いいだろ?」


 いいわけないです。


「待ってください! こんなのおかしいですよ!」

「いいじゃないか。最近は試しに付き合う事なんてざらにあるんだろ? だから私達も試しに子供を作ってみてからどうするか考えればいい」

「絶対それは墓場までいかないといけないじゃないですか!」

「安心してくれ。たとえ試しで産んでも、私は無尽の愛を注ごう」


 だめだこの人。天才なのに頭のネジが飛んでる。


「さぁ、誓いのキスを」


 試しって言ってたのに、この人誓いって言ったよ。

 誰か助けて何でもするから!

 救いの神はいないのかと思った。しかし後数センチの所で扉を開けようとする音が聞こえる。


「あれ? 確か鍵開けていたのにな」


 聞き慣れた声の後にガチャンと音を立てて解錠され、扉が開く。

 

「まったく、誰が鍵を閉めーー」


 松本先生は俺達二人の姿に目を皿にする。

 無理もない。半裸の親戚と、必死に目で助けを訴える生徒が抱き合っていれば誰だってそうなる。

 だけど俺は先生の気持ちなど汲んでいる余裕なんてない。


「せ、先生! なんとかしてください」

「……お邪魔しましたー」


 おい! 完全に不純異性交遊が繰り広げられているだろ。止めろよ!

 こうなったら俺の命を犠牲覚悟で。


「待てよ年増教師!」


 閉まりかけた扉がゆっくりと開く。

 そして目にも留まらぬ速さで俺は綾先輩から解放されたが、今度は松本先生のアイアンクローが俺の頭をガッチリとホールドしていた。


「守谷。今なんて言った?」

「すいませんすいませんでも仕方なかったんですだって先生がたすけてくれなああああぁぁぁぁぁぁ!」


 頭がミシミシと音を立て、激痛が走る。

 いくら助けて欲しいからって、先生の悪口を言うのはやめようとこの時思った。


「まぁ、確かに今回は私が現実逃避をしようとしたのがいけないな。すまん」


 すまないと思ってるなら離しましょうよ。

 早くしないと俺の頭が変形して戻らなくなっちゃう。


「先生。は、なして」


 痛みに耐えて並べた言葉でようやく先生が俺の頭から手を離してくれた。

 もう少し遅かったら何か出てた。断言出来る。


「とりあえず綾は服を着ろ。話はそれからだ」


 大人しく綾先輩は服を着る。俺はこめかみをさする。


「さて、二人は何をしてた?」

「愛を育もうとしてた。やれなかった事に後悔しかない」


 後悔しないでください。


「綾。お前が廉の事が好きだと気づいていたが、まさかここまでとはな。不純異性交遊だろ」

「ここの校則に不純異性交遊についての事は記述されていない。そもそも私のは純粋に廉君が好きなのだから不純ではない」

「……確かに」

「確かにじゃないでしょ。俺襲われかけたんですよ」

「男はむしろ襲われて喜ぶんだろ?」


 何言ってるだこいつみたいな顔をしている松本先生。

 むしろその顔をしたいのは俺なんですが。


「真面目な話。守谷はどうなんだ?」

「どうって、何がですか?」


 俺はさも話の流れが分かっていないようにそう返した。


「綾の事をどう思ってるんだ。親戚目線を無視しても優良物件だ」


 松本先生は綾先輩の後ろに回り込むと、綾先輩の体に触れるか触れないかの距離で手を這わせる。


「見ろこの大きく実った果実。花瓶を思わせるようにすらっとしたくびれと、子を宿すために作られたような大きな桃。これのどこに不満があるんだ!」

「何で、ちょっとエロティックな小説風味なんですか」


 読んだ事ないけど。


「……Dカップ以上あるおっぱいに、引き締まった体。おまけに安産型の尻。こんなエロい体のどこが不満なんだ!」

「言い方の問題じゃねえ! そもそもあんた教師だろ!」


 もしかして綾先輩の血筋はみんな頭のネジを一本飛ばしてるのか? そう思うと俺は自然とため息を吐いた。


「申し訳ないですけど、俺は女性を好きになる事が出来ないんです」

「え……すまん守谷。隠し通そうとしてた事なのに。そうだよな、愛は人それぞれだもんな」


 絶対何か勘違いが起こってる。


「勘違いしないでください。俺中学の時、初めて告白したんです。でもその時中二病まで発症してて、黒歴史を超えてトラウマレベルの告白したんですよ。案の定振られて、このトラウマのせいで告白どころか、好きになる事も出来ないんですよ。まぁ、完全に自業自得なんですけどね」


 俺は過去の境遇を話す。二人は黙って聞いてくれている。


「だから、綾先輩の事は何とも思っていません」


 俺の答えに対して何も言わない二人。しばらく沈黙が周りを包む。


「……そうか。仕方ないな」


 ようやく綾先輩は諦めてーー


「何とかして君に好きになって貰わないとな!」


 いない!?


「え、話聞いてました?」

「聞いてたぞ。だからどうした? 私が好きになっちゃいけない理由になっていない」


 確かにその通りなんですけど、なんか違う。


「松本先生。いや杏花姉さん。これから協力を頼む」

「任せろ。かわいい従姉妹のためだ」


 あれー? 普通ここって引き下がるんじゃないの? なんでサムズアップしてるの?


「むっ、もうこんな時間か。生徒会室に戻らねば」


 颯爽と優雅に扉を開く。


「廉君また明日」


 そう言って生徒会室に戻っていった。

 あえて言おう。どうしてこうなった。


「よかったな守谷。美少女にあんなにも入れ込まれて」

「何でこんな事に。というか松本先生は何でそんな協力的なんですか!?」

「前に言っただろ? 青春を謳歌してもらいたいって」


 言いましたけど、俺を巻き込まないでくれ。


「俺じゃなくても他にいるでしょ。ほら、サッカー部のエースとか。あの人イケメンだし」

「あぁ、先週で通算32回綾に振られたあいつか。望みあるのか?」


 すいません。そこまで振られた時点で望み皆無です。と言うかその先輩どんだけタフなんだ。


「じゃあ、柔道部の主将はどうですか。あの人男らしくて強いですよ」

「ああ、綾の次にな」


 主将の心折れてないですよね?


「じゃあ、野球部のキャプテン!」

「あのホモか? ……あ、やべ。これ内緒だった」


 ……そういえば同じクラスの野球部員が自分の尻をさすっていたような。

 深くは考えちゃダメだ。とりあえずこれから野球部に近づかないでおこう。


「じ、じゃあ……卓也」

「お前友達売るなよ。そもそもあいつは紙しか愛せないだろ」


 紙だけじゃないですー。画面もですー。声優はギリギリアウトらしいですー。


「私が思うに、綾は一人に愛を注ぐタイプだ。例え抜け殻になってようともな」


 え、死んでも愛されるの?


「諦めるんだな。お前があいつの心を盗んだのが悪い」

「どこぞの三世代目の怪盗じゃないんで、すぐにお返ししますよ」

「クーリングオフはないから無理だな」


 盗んだ覚えのないものが手元にあって、しかも捨てれないってただの呪いの品じゃないですか。


「と、茶番はここまでだ」


 本気だったんだけどと思っている俺をよそに松本先生も生徒指導室から離れようとする。


「早くお前も出ろ。鍵が閉められん」


 強めの口調で指示する松本先生。

 先生の親戚のせいで疲れ切っている俺への労りがない事に涙が出そうだ。

 その後、先生とはすぐに別れ、俺は家に帰って食事も取らずに眠りについた。

 布団だけが俺に安らぎを与えてくれた事に気づくと俺は涙をまた流す。

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