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青春の汗と、欲望乱れる球技大会(蒼白)15

『午前の部が終了しました。午後の部は十三時三十五分からの開始です』


 や、やっと抜け出せれた。さっさと卓也達と合流しよう。

 スマホで連絡をとる。


『もしもし。応援は済んだか?』


 2コール目で卓也と電話が繋がった。


「ああ。卓也、今どこにいる?」

『今は教室で待機してる。裕太達もいるぞ』


 クラスメイトの騒ぎ声がこちらまで漏れている。

 そして調子にのっている裕太と便乗している隆志、ため息混じりに二人を抑える剛の声も聞こえる。


「俺もそっちに行くから待っててくれ」

『了解』


 通話を切って足早ではあるが慎重に教室へ。

 廊下からは多くの生徒の声が耳に入るが、一際騒がしい教室があった。

 その教室の扉を開けると、自分達の試合の様子を話しているのか、胸を張って武勇伝の如く話す裕太の姿が嫌でも目に入る。


「そこで──お、廉!」


 うわぁ、会話の途中で声かけてきやがった。

 みんなの視線が一気に俺へ突き刺さる。

 そしてわっと俺の周りに詰め寄ってきた。


「決勝にいったんだってね! 頑張って!」「廉頑張れよ!」


 俺達のことを自分のことのように喜ばれ、気恥ずかしい。

 ……だけど、


「運が良ければ一位いけるんじゃないか?」「うんうん! でも二位で充分じゃない?」「それもそうだよな」


 まるで勝つことが出来ないような物言いに心が締め付けられる。


「おいおい、あんまり廉に詰め寄るな。散れ散れ! これから大事なミーティングがあるんだ」

「調子のんなよ裕太」「どうせ三島君と守谷君に頼りっきりでしょ」「そうだそうだ」

「うっせぇ!」


 笑い声と共にみんなが散り散りとなる。


「大丈夫か?」


 俺の変化に気付いたのか卓也が声をかける。


「大丈夫だ」

「まったく……俺達がかなわない言い方しやがって。俺達だって結構やれるのにな」


 裕太がフォローしてくれるが客観的に見れば、クラスメイト達の反応は正しい。


「でも、相手って……二組」

「全員バスケ部員のチームだな」


 隆志の言葉に補足を加える剛。

 そう、相手は全員経験者。しかもその内三人は中学から続けている実力者。

 勝つのは難しい。


「あ、あー腹減ったな! メシにしようぜ!」


 空気が重くなるのを感じ取った裕太が無理にテンションを上げて提案してきた。

 ここで暗くなってもしょうがないな。


「そうだな。じゃなきゃ生徒会長からの差し入れが無駄になる」


 生徒会室を出る前に綾先輩から渡されていた包みに入った重箱を机の上に置く。


「おぉ! 二日連続であの生徒会長の手りょ――」

「バカッ! 声が大きい!」


 慌てて両手で祐太の口と鼻を塞ぎ、周囲を確認する。

 クラスメイト達は各々の会話に夢中でこちらの声に気づいていないようだ。よかったよかった。


「ゔー! ゔううううぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


 もうそろそろ離してやらないと死ぬな。


「ぶっふぁ!」

「すまん咄嗟だったからつい。わざとじゃない」

「的確に空気を遮断させといてわざとじゃないはありえないだろ!」


 そんなことするわけないだろ。

 こいつをこのままにしてると調子のって口を滑らしそうだな……とか思って、わざとしたわけないじゃないか。


「廉もやり過ぎだけど、裕太もあんまり声に出さない方がいいぞ。ここで生徒会長の手料理を貰ってることばれると殺されるんじゃないか?」


 と言ってはいるが、表情を見る限りちょっとした冗談なのだろう。俺にとっては冗談じゃないんだよ。


「それは言い過ぎだろ。流石に殺されるとか」


 ……お前がそれを言うのか祐太。

 俺の記憶では綾先輩から二度目の弁当を貰った日の昼休み、真っ先に逃げ道を塞いだのはお前だよな?


「なんだよその目は」

「別に……ほらさっさと食うぞ」


 綾先輩の弁当箱を広げ、別で持参してきた弁当を取り出す。

 といってもこれは俺が作ったわけでもなく、朝早くから大家さんが作ってくれた弁当だ。

 綾先輩は俺が弁当を持っているのをなぜか知っていたらしく、ご丁寧に揚げ物ものを避けつつ五人で分ければ大家さんの弁当を含めても軽く食べられる量に調整されていた。

 すぐに一緒に入っていた割り箸でおかずをつつき始める俺達。


「それでどうするんだ? さっきも言ったけど相手は全員バスケ部だ。運動神経の良い卓也を含めても対等なプレー出来るのが二人はきついどころか絶望だぞ」


 ある程度食事が進んでから弱音を吐く剛。

 弱音を吐きたい気持ちも分かる。だからといって諦めたら絶対勝てない。


「決勝に進んではいるけど、こっちはバスケ部がいないチームだ。相手が格下だと余裕かましてる間に点取ればもしかしたら勝てる」

「結局それって向こうの気分次第ってことじゃないのか?」


 不安そうに尋ねる隆志。

 まぁ簡単に隆志の言えばそうだな。


「どちらにしろ次で最後だ。全力を出すしかない。体力配分は間違えるなよ。御馳走さま、ちょっと練習してくる」

「はやっ! もう少しゆっくり食おうぜ。時間があるんだし」


 俺に分かりやすいように佑太が時計に視線を移す。

 それでも俺は行くのを止めない。


「少しでもボールに触っときたい。お前らはゆっくりでいいぞ」


 体育館シューズを持って体育館に向かう。

 試合に支障が出ないように残りの二十分は軽くドリブルやシュートでも――


「次の試合の相手って、たしか三組だったよな」


 道の先で相手チームである二組が自動販売機の前で俺達の話しているところに出くわし、思わず近くの柱に隠れて様子を窺う。


「バスケ部でもないのにそこそこやるみたいだぞ」

「三島だろ? あと守谷って奴」

「でもその二人だけだろ? メガネの奴なんて全然」

弘斗ひろとはどう思う?」


 メンバーの注目が一人に集まるが、鼻で笑い飛ばす。


「ハッ! 結局俺達の勝ちでしょ。かるーくやっても勝てるって」

「それもそうだな!」


 続けざまに大笑いする二組のチームは飲み終わった缶をゴミ箱に放り投げて体育館の方へ歩いて行く。

 相手は俺達なんか眼中にないようだ俺はしばらくその場に動けないままでいた。


「でさ……あれ、廉? こんなところで何してんだ?」


 思っていたよりも時間が過ぎていたようで後から来た祐太達に追いつかれていた。


「練習してたんじゃないのか?」

「ちょっと、ぼーっとしてた」


 おもむろにポケットの中のスマホを取り出して時間を確認。

 もう試合開始十分前。体育館に向かわないとな。


「よし、行くか」


 さっきの会話は一旦忘れて裕太達と一緒に体育館へ向かった。

 体育館には観戦や応援に来た生徒で壁が形成され始めていた。

 予選を敗退したことで暇が出来たからか、午前よりも観戦者の数が多い。


「一組対四組の三位決定戦を行います。選手の人はコート内に集まってください」


 体育委員の指示で三位決定戦の参加するクラスが呼ばれる。

 俺達はこの後の試合だ。ここは気合を入れたいところ。

 しかし、さっきの会話が頭の中に染み付いて離れない。


「……廉、何かあったんだろ」


 前触れもなく卓也が尋ねてきた。いや、尋ねてきたというよりかは断定しているようだった。


「やっぱわかるか」

「なんとなくだけどな」


 コート内で向かい合う一組と四組を見つめながら一つ息を吐く。


「みんな連れて外に来てくれ」


 それだけ言い残して来たばかりの体育館から離れた。

 すぐに卓也達も体育館を離れ、俺の元にやってくる。


「どうしたんだよ。試合見ないのかよ」


 少し退屈そうな裕太をよそに俺は話を始める。


「単刀直入に言う。俺達が思ってる以上に二組(あいつら)に舐められてるぞ」


 みんなの眉間に一瞬シワが寄るのを確認し、俺が聞いた会話の内容を全て伝える。


「……とこんな感じの会話をしてた。お前らはどう思う?」


 質問するが誰も答えない。


「実力差がありすぎて惨敗するかもしれない。でも、試合をする前からまるで勝ちが決まっているような態度。『余裕かましてる間に点取る』って自分で言っといてなんだけど、流石にムカついてる」


 俺の本心を伝えると、卓也の口元が動く。


「たしかにな。手を抜いても勝てる相手だと思われていい気持ちはしない」

「昼休みの時、弱音吐いちまったけど、勝てないとは思ってねぇ」

「俺だってそうだ」


 隆志、剛と続く。あとは裕太だけだ。


「俺、こん中で一番下手だ。でもそんなこと言われて黙ってられるか! というかこの展開むしろいいんじゃね? 勝てば番狂わせってやつだろ! サイコーにかっこいいじゃねえか! 間違いなくモテる!」


 相変わらずバカだ。

 だけどそれでいい。それがいい。


「なら気合い入れるか!」


 俺が手を前に出す。

 ……が、誰も反応しない。不思議な子を見るような目を俺に向けている。


「無視すんなよ! 俺の手に重ねろよ!」

「廉って、こういう熱血漫画みたいな展開好きなのか?」

「うっせぇ!」


 裕太達は呆れながらも手を重ねる。


「いいか、絶対勝つぞ!」

「お──」

「えい!」

「え、えい?」

「かつ──え、お、おー」


 ……よし! 心が一つになったな! あとは試合に臨むだけだ!


「……やり直すか?」


 やめてくれ卓也。みんなに促しておいて全然息が合わなくてリトライとか恥ずかしいだけだ。

読んでくださり、ありがとうございます。

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