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青春の汗と、欲望乱れる球技大会(蒼白)5

 昨日は運動して疲れたはずなのに、早朝に目が覚めてしまった。

 このまま二度寝したら起きれる自信がないので、寝ぼけた体を起こすために少し散歩でもするか。

 財布とスマホをポケットに入れ、戸締りをして散歩へ。

 アパートの前では慣れた手つきで竹箒を扱う大家さんが鼻歌交じりに掃除をしていた。


「あら守谷君、今日は早起きね。もう練習に行くの?」

「いえ、ちょっと散歩でも行こうかなって」

「そう。もしコンビニの前を通るならついでに牛乳買ってきてくれる? 切らしちゃって」

「それぐらいならいいですよ」

「ありがとう。お金は後で払うからお願いね」

「わかりました。いってきます」


 気の向くままに足を運ぶ。

 朝はランニングする人が多いが、中々俺と同い年はいないな。

 でも、たまにはこんな風にノープランで雀の鳴き声を聞きながら風に肌を撫でられるのも乙なものだな。


「朝早くこうして一緒に歩くと、まるで熟年夫婦みたいで少し照れるな」

「なーんで綾先輩が隣を歩いてるんですかね?」


 外に出た時点でこんなことが起きるんじゃないかと思ってたけど、現実になっちゃったかー。


「昨日着替えが早めに済んだのでな、正門の陰で君を待ち伏せていたら」


 ちょっと待ってください。何しれっと待ち伏せしてるんですか。


「たまたま君達の話を聞いてな。バスケの練習をしに行くのだろ?」

「それがどうして朝早くに綾先輩が散歩するに繋がるんです」

「たまたまだ」


 たまたま、って。

 まぁ流石に俺の行動を全てを予測出来るとは思ってないけど。


「たまたま君が早くに起きて、散歩に行こうとしてたから私もそうしたんだ」

「待ってください。たまたま"俺"が?」

「私が起こしてあげようと思ったのだが、ちょうど君が出てきたところだったのでな。はぁ、残念だ」


 あっぶねぇ! また前みたいなことされるところだった。


「それは残念でしたね。俺はこの辺で失礼します。散歩の途中なんで」


 肩を落としている綾先輩を方って、足早に立ち去る。

 が、すぐさま綾先輩は俺の隣をキープして歩調を合わせてきた。


「なんでついてくるんですか?」

「言っただろ? 散歩してるだけだ」

「俺についてくる必要はないですよね」

「たまたま道が一緒なんだ」


 この人は意地でも俺についてくるようだ。

 十字路で急に右に曲がるが、騙されることなく俺の横をピッタリ歩く。

 何度も急に曲がるを繰り返すが一秒たりとも離れない。

 こうなったら最後の手段。


「綾先輩は次はどっちに曲がるんですか?」


 T字路がもうすぐの所で尋ねる。


「君はどっちなんだい?」

「俺は……左です」

「奇遇だな私も左だ」


 突き当たりまで来た俺は左ーーに行くと見せかけ、右へ全力疾走。

 後ろを振り向かず、がむしゃらに走った。

 直進ひたすら進んだり、右へ左へと何度も曲がって、背後にいるかもしれない綾先輩からの追跡を振り切る。

 しばらく走り、後ろを振り向くが綾先輩の姿はどこにもない。

 とりあえず息を整えるまでその場で立ち止まる。

 周りには人の気配はないし、おそらく諦めただろう。

 スマホを起動させ時間を確認する。

 もうそろそろ帰った方がいいな。

 帰る前に牛乳を買わないと。

 振り切るため滅茶苦茶に走っていたが、実は目の前にコンビニがある。

 ここに着くよう想定して走ってたんだ。俺って結構計画的だな。

 さて落ち着いたし、さっさと買うか。

 店に入ると、聞き慣れたメロディーが俺を出迎える。

 空調で少し涼しくなっている店内は、走って汗をかいた俺にとってはオアシスに等しい。

 おっと、涼みに来たんじゃない。えーっと牛乳牛乳っと。

 確かこの辺りに……


「牛乳はこの『平成ンまあーいっ! 牛乳』でいいかな?」

「ああ、ありがとうございます。綾せんぱーーい!?」


 なんで綾先輩がここに!?


「なんでここに私がいるのか分からず、不思議そうな顔をしているな。簡単だ。今朝君は大家さんから牛乳を買うように頼まれていた。廉君のことだから忘れずに買いに来ると思っていたよ。すぐにこの付近で一番近いコンビニを探して、来るのを待ってたわけだ」


 綾先輩には俺の行動が手に取るように分かっていたということか。

 そもそも綾先輩を振り切れたことに疑問を持つべきだった。

 この人なら簡単に俺を捕まえることが出来たはずだ。

 そう考えると、何故わざわざ待ち伏せたのだろうか。


「わざわざ待ち伏せなくても綾先輩なら追いついたでしょ」

「否定しない」


 否定しなかった。

 じゃあ俺の走りってなんだったんだ。


「じゃあなんで」

「配慮したからだよ」

「配慮してたならストーキングするのやめませんか?」

「……落ち着いて考えようじゃないか廉君」


 あ、露骨に話を進めた。


「まず、私が追いかける。しかし君は必死になって逃げる。もちろん私は諦めない」


 そこは諦めてくれないですかね。


「そしては私は君を捕まえる。その時の君の状態はどうだ? 走ったことで身体は火照り、荒い息遣いで私を見上げる。さらに汗をかいて弱ってるんだ。そんな廉君を目の前にして、私は自分を抑えるかどうか」


 今「抑え"られる"か」じゃなくて「抑え"る"か」って言いましたよね?

 つまり抑える気すら起こさないかもしれないってことですよね!?


「配慮の方、大変ありがとうございます」


 少ない常識が残っていてくれて本当にありがとう。


「さて廉君。これを買ってもう帰ろうか」

「はい。でもこれ以上は」

「安心したまえ。私ももう帰らないといけないから、ここを出たらすぐにお別れだ」


 それはよかった。


「だからいつものように別れる時にはチューをーー」

「妄想と現実の壁を超えないでくださいね」


 そう言ってそそくさとレジに並ぶ。

 購入後、綾先輩は言った通りに出てすぐに別れることになるのだが、別れる直前になんか目を瞑って唇を突き出してきたので、ついでに買っておいた魚肉のソーセージを押し付けると、満足したように帰っていった。

 綾先輩の唇が触れた部分はちぎって日向ぼっこしていた猫の前に放り投げると、嬉しそうに咥えて走り去っていく。

 残りは帰りながら食べ、アパートの前に着く頃にはなくなっていた。

 アパートの前には誰もいない。

 大家さんの部屋まで行き、ノックをする。


「はーい」


 扉が開き、大家さんが出てくる。


「守谷君。お帰りなさい」

「ただいまです。これ牛乳」

「ありがとう、これ牛乳代。お釣りはお駄賃」


 と言って多めにお金を渡された。


「守谷君お散歩に行ってたのよね?」

「そうですよ」

「なんだか疲れてるように見えるけど、大丈夫?」

「……ちょっと走り込みを」

「練習熱心なのね。でも行く前にシャワーぐらい浴びた方がいいわよ」

「そうします。それじゃあ」


 俺は自分の部屋に戻り、すぐにシャワーを浴びて着替えを済ませる。

 ソーセージも食べた事だし、朝食は簡単なものを作って軽めに食べた。

 食べ終わる頃にはちょうどいい時間となり、鞄を肩にかけ、いざ花村公園へ。

 最寄駅に着き、目的地の切符を買う。


「おーい!」


 振り向くと卓也がニカッと笑っていた。


「おっす廉!」

「卓也? なんでお前がここにいるんだ?」


 以前に興味本位で卓也の家の場所を聞いた覚えがあるが、最寄駅はここじゃないはず。


「ちょっと金の消費を抑えたくて。最寄で行くより、ここで乗った方が安いからさ」


 なるほどな。確かに少し苦労して金が浮くなら俺もそうする。


「あ、もう電車来るぞ!」


 卓也にそう言われて、時刻表と時間を確認。

 あと一分程度来るようだ。

 遠くから踏切の音が聞こえる。


「卓也急げ!」


 俺と場所を交代し、すぐに切符を購入。

 慌てて改札口に通し、ちょうど扉を開いた電車に駆け乗った。


 扉が閉まり、乗れたことに安堵していると「駆け込み乗車は危険ですのでおやめください」とアナウンスで注意を受けてしまった。

 それから二十分程度電車に揺られ、下車する駅に停車

 そこから数分歩いて花村公園に到着した。

読んでくださりありがとうございます。

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