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容姿端麗、文武両道な生徒会長は俺のストーカーではない(願望)3

「守谷、ちょっといいか?」


 予定もないのでホームルームが終わってすぐに帰ろうとした所で松本先生が俺を呼び止めた。


「はい、なんですか?」

「いや、ここではちょっと話しづらい。生徒指導室まで来てほしい」


 松本先生の物腰から察するに、俺の生活態度についてではないはず。

 一体なんだろうか。


「分かりました」


 松本先生についていく形で俺は生徒会室まで足を運ぶ。

 運が良かったのか、そもそもこの学校に素行が悪い生徒がいないのか、生徒指導室は誰もいない。

 聞かれたくない話をするのにぴったりな場所だ。


「そこに座ってくれ」


 俺は椅子に座り、机を挟んで対面に松本先生が座る。

 しかし、一向に話を切り出そうとしない。


「あの、話って」

「あ、あぁ。話、な。まぁ、そのー……昨日、綾が倒れた以外に何かあったのか?」

「いえ、ありませんでしたけど。何故です?」

「綾から昨日メールが来てな。お前の事を根掘り葉掘り聞いてくるもんだから」


 もしかして、何か俺は気に触ることでもしたのか? いや、確かに無理やり保健室に連れて行ったけど。しかし、それに関してはお礼もされたしな。


「多分、綾はお前を気に入ったと思うんだ。そこで相談なんだが……守谷、お前生徒会に入らないか?」

「お、俺が!?」


 生徒会など俺にとっては一生関わりのないものだと決めつけていた事もあり、少し大袈裟に驚いてしまった。


「ここの生徒会の構成は生徒会長に委ねられている。私が口添えすれば綾もお前を生徒会に入れてくれるはずだ。なぁ、どうだ?」

「そんな事言われても。俺は入る気なんてないですよ」


 俺の返答に松本先生は目に見えて落ち込んでいる。


「お前が入れば、少しは綾も変わると思ったんだけど。そうだよな」

「すいません」

「気にするな。時間を取らせてすまなかった。話はそれだけだ。守谷は帰ってーー」


 ピンポンパンポーンと昼に聞いた音が鳴る。

 こんな時間に呼び出しという事は先生に対してか?


『一年三組、守谷廉君。生徒会室まで来なさい。一年三組、守谷廉君。生徒会室まで来なさい』


 また俺なのか!?

 振り返って皿になった目で先生を見るが、同じく目を皿にしている先生は全く知らないらしく、首をせわしなく横に振っている。


「な、なんのようなんですかね」

「さ、さぁ。しかも綾直々の呼び出しなんて」


 呼び出されてしまったものは仕方がない。

 生徒会室に行かなければ、生徒会長が待ちぼうけを食らってしまう。


「生徒会室に行ってきます」

「私もついて行こう。少し気になる」


 松本先生と共に生徒会室に向かう。


「本当に昨日は何もなかったんだよな?」

「そのはずなんですけど」


 本日二度目の生徒会室の訪問。

 二度目と松本先生が付き添いという事もあり、すんなりと扉を叩く。


「守谷れーー」

「待っていたぞ!」


 声を発してすぐに扉を開き、中から生徒会長のご登場。


「おや、松本先生も一緒でしたか」

「あ、あぁ。た、たまたま一緒になって」


 松本先生が戸惑っているだと!?


「生徒会長。また、呼び出しがあったんですけど」

「今日の弁当箱をどうするか言ってなかったのでな。教室に行くと騒がれると思って、放送で呼び出してしまった。申し訳ない」

「いえ、別にそれはいいんです。弁当箱は俺が洗って返しますから。後、弁当ごちそうさまでした。毎日食べたいくらい美味しかったです」


 一瞬にして顔が真っ赤になった生徒会長は俯いてしまった。

 まだ本調子ではないのか?


「ありがとう」


 微かに声を発すると、顔を上げていつもの調子を取り戻す。


「わざわざ足を運んでもらってすまないな」

「いえ、俺もお礼言いたかったんで。じゃあ、俺はこれで」

「ま、待て!」


 回れ右をしようとしたが生徒会長の突発的な声で制止した。


「廉君は生徒会に興味がないか?」


 その言葉に俺の体はビクッとなる。

 ほんの十分前にしたばかりの話がまさか生徒会長本人からされるとは思わなかった。


「生徒会は女ばかりだ。昨日みたいに男手が必要な時に君がいてくれれば非常に助かるのだが」


 いや、生徒会長さん。不調だったのに俺以上に働いてたじゃないですか。


「綾。その話だが、もう私がした」


 ここでようやく松本先生が話に混ざる。


「もしかして!」


 キラキラ期待した眼差しに松本先生は結果を伝えるのを躊躇っていた。

 あんな目をされてしまえばそうなるのも無理はない。

 だから、ここは俺が言うべきだ。


「すいません。断らせていただきました」

「え……」


 笑顔が一変して曇る生徒会長。


「ど、どうしてだ? 生徒会は皆進んでやりたいと言うんだぞ?」


 それは生徒会長への憧れや好意から側にいたいと思う生徒なのだろう。

 しかし、俺にとって生徒会長はただの生徒会長なだけで、憧れや好意はない。

 受けない理由がないが、その逆もない。

 強いて言うなら、生徒会に入れば変に注目されてしまう。


「そう言うの興味がなくて。すいません生徒会長」


 今度こそ退室しようとした。しかし、またしても俺の動きは止まった。

 突発的な声ではなく、とても小さな抵抗。

 クイクイッと袖を弱々しく引っ張られた。

 振り返ると俯いている生徒会長が。


「あの、生徒会長。離してもらえると嬉しいんですけど」

「……ぁや、だ」

「へ?」


 素っ頓狂な声が出てしまった。


「生徒会長は役職だ。私の名前は東雲綾だ。だから綾と呼べ」


 急に何故そんな事を言うのか分からない。しかし、生徒会長の表情を見ていると、呼ばなければ罪悪感で押し潰れそうだ。


「わ、分かりました。せーーあ、綾先輩」

「……よろしい」


 パッと手を話を後ろに振り向いた綾先輩。


「用件は済んだ。もう帰ってもいいぞ」

「は、はい」


 扉に向かって歩き、松本先生と一緒に部屋を出た。

 ようやく解放されたが、十分そこらでかなりの疲労感がある。


「松本先生。俺もう帰りますね」


 しかし返事がない。代わりにブツブツと呟く声が聞こえる。


「綾ってあんなに女らしかったっけ。私と引けを取らないほど男らしかったのに。いつの間にあんなスキルを」


 何か聞いてはいけないような気がしたので、松本先生の体を揺すった。


「先生! 俺もう帰りますよ?」

「うぇっ!? ……あぁ、気をつけてな」


 この後、俺はすぐに家路につく。

 生徒会とのこんな風に関わることなんてもうないだろう。貴重な体験が出来たと浅はかな考えをしていた。

 だけど、これで終わらない事をこの時の俺はまだ知らない。



 翌日。いつものように俺は学校に向かっていた。

 ようやく見慣れた景色や人。たまにおじいちゃん、おばあちゃんが挨拶をしてくるので、俺は返事をする。

 そんな道中、見慣れない女生徒が立っていた。

 漆黒と表現したくなる長い髪を風になびかせ、顔の前まで来た髪を手で耳にかける。

 一つ一つの動作が額縁に入った絵のように様になっていた。

 しばしボーッとしていた俺の存在に気がついた女生徒は俺に近寄ってくる。


「廉君。おはよう」

「お、おはようございます」


 綾先輩だった。

 こっち方面に住んでいるのか? いや、それなら一回ぐらい見かけてもおかしくないはず。


「どうした? 早くしないと遅刻するぞ」

「え、あ、そ、そそそうですね」


 笑顔の綾先輩。俺はどうしていいのか分からず、詰まらせながら答える。


「そうだ! 弁当箱返しますね」

「わざわざ洗ってもらって、すまないな」


 弁当箱を渡して一緒に学校に向かう。

 しばらく会話のない時間が続き、とりあえず場をつなぐため話を放る。


「綾先輩はこっちの方に住んでるんですね。一ヶ月住んでるのに会った事がないからびっくりしました」

「当然だ。反対の道なんだからな」


 ……あれ、今聞き間違いかな? 反対って……あぁ、反対。俺が通る道の反対車線側に家があるんですね。そうですよね!


「そうなんですか……あ、もう学校に着きましたね!」


 実際は学校が少し見えてきただけだが、この時点で様々な視線が俺に突き刺さってる。

 これ以上綾先輩といると夜道に気を付けなければいけない。

 だから俺は走っーーろうとした。走ろうとしたんだよ!

 でも何でかな。肩掴まれて動けないの。


「まぁ、待ちたまえ。これを先に渡しておく」


 そう言ってピンク色の布で包んだ弁当箱を渡してきた。


「おっと、急がねば。私は先に行っている。廉君はゆっくりと来るがいい」


 時間を確認し、小走りで去っていった綾先輩。

 最後の最後でとんでもない爆弾置いてかれた。

 うん、きっと大丈夫だ。周りにはクラスの連中はいなかったはず。

 俺は一度後ろを振り向き、すぐに前に戻す。

 クラスメイトが血涙流してたら誰だって驚いちゃうよね。

 だから、俺が反射的に逃げるのは不思議じゃない。


「待て!! 今お前生徒会長から何もらったんだ!!」「中身見せろ! 守谷!!」「俺達にもその幸せ分けやがれ!!」


 何故俺がこんな事に。


「俺の話を聞いてくれ!」


 俺がそう言うも、聞く耳など持ってくれない。

 必死に逃げ、なんとか学校内でまく事が出来たが、すぐに教室には向かえない。

 松本先生が教室に来る時間まで俺は何処かの傭兵の如く、適当な空き教室で身を潜めるしか。


「ん? あなた」


 たまたま通りがかった女子生徒が俺の存在に気がついた。

 急いで逃げないと。


「待ちなさい! 昨日あったでしょ?」


 いやいや、俺昨日は人の大群にすし詰めにされて押し寿司になりそうだった中、誰に会ったかなんて覚えてるはずーー


「って、松本さん?」


 もちろんこの松本さんは松本先生ではなく、松本先生の妹、松本雫の事だ。

 対面した時と同じように眼鏡をクイッと上げる。


「お姉ちゃんも松本だから別の呼び方でお願い」

「えーっと、じゃあ。松本妹?」

「はっ倒すわよ」


 松本先生と同じ鋭い目つき。やっぱり怖い。


「すいません。じゃあ、雫さん」

「同級生にさん付けは少しむず痒い。雫って呼び捨てで」


 要求が多いな。


「雫」

「よろしい。それで廉はこんな所で何をしてるの? もうすぐ授業始まるわよ」


 そっちも呼び捨てなんですね。


「いや、少し諸事情で」

「もしかして、綾ちゃんが原因?」


 一発で原因を言い当てられ、正直に体が反応してしまう。


「図星ね」

「どうして分かったんだ?」

「学校中があなたと綾ちゃんの関係で話が持ちきりなの知らないの?」


 え、学校中なの? やだ怖い。


「気をつけたほうがいいわよ。一年前に綾ちゃんと恋人だって嘘ついた人が翌日に悟りを開いちゃったから」


 ごめん、それは冗談抜きで怖い。

 右手の時計を確認すると雫は踵を返す。


「まぁ、多分そこまでいかないと思うけど頑張って。あと、もうお姉ちゃんも教室にいる頃だと思うから」


 俺の思考が全て読まれているのか、俺にそう言い残して彼女は何処かに去った。

 何処かと言っても教室だろうけど。


「俺も教室に戻るか」


 俺は荷物を持って教室に向かう。この鞄の中にある弁当箱と言う名の爆弾に頭を悩ませながら。

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