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高校生で、一人暮らししている俺のアルバイト生活(疲弊)6

アルバイト二日目の朝

 朝を知らせる小鳥のさえずり。

 リズミカルな包丁の音と味噌の香りで目が覚める。

 昨日はすぐに寝たからか躊躇する事なく体が起き上がった。

 胸いっぱいに空気を吸い込みながら腕を高く上げて気持ちよく伸びをする。

 そして一気に息を吐き出す。


「廉君起きたか。もう少しで朝ごはんが出来るから座って待ってくれ」

「わざわざご飯作ってくもらって申し訳ないです」


 お言葉に甘えて机の前で胡座をかいて待つ。

 十分後には目の前に日本人らしい和の朝食が並べられる。


「どうぞ召し上がれ」

「いただきます」


 味噌汁を一口。

 うん、いい出汁を使っているのかとても美味しい。

 焼き魚の塩加減も俺の好み。

 ほうれん草のおひたしもきんぴらゴボウも絶品。

 こんなに充実した朝食をとったのはいつぶりだろう。


「味付けは廉君の好みに合うように作ったんだが……」


 そんな心配そうに聞く必要なんてないですよ。全部おいしいんですから。


「おいしいですよ」

「そうか……よかった」


 胸に手を当ててホッとした綾先輩も箸をとって食事を始めた。


「あ、醤油取ってください」

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 冷奴に醤油を垂らし、箸で切って口に運ぶ。

 最近は少し暑くなっているからこう冷えた食べ物が身にしみるんだよな。


「ごちそう様でした」


 皿の上には米粒一つ残す事なく全て胃の中へと収めた。


「いい食べっぷりだったな。朝早くから作った甲斐があるよ」

「綾先輩の料理は美味しいですからね。箸が自然と進んじゃうんですよ」


 準備運動がてらクビを左右に倒して骨を鳴らし、大きく深呼吸をする。

 ……さて、もうそろそろツッコむか。


「なんで綾先輩が朝食作ってるんですか。なんで俺の部屋に入ってるんですか。そもそも俺の家を何故知ってるんですか!?」

「全て愛の力だ!」


 ノータイムでそう答えると思ってましたよ!

 この際住所を突き詰められたのは良しとーー良くはないな。

 でもそれ以上にどうやって中に入ってきたのかが分からなければ、その内布団に侵入されて既成事実をでっちあげられる可能性がある。


「せめてこれだけは教えてください。どうやって入ってきたんですか?」


 頭痛を抱えた頭を手で押さえながら問うと、綾先輩はさらっとこう答える。


「大家さんが開けてくれたぞ?」


 大家さーん!?


「なんで大家さんが綾先輩を」

「廉君の前まで来たのはいいのだが、鍵がかかっていてな。せっかく買ってきた食材がダメになってしまうと困り果てていた所に大家さんが来てな」


 そう言えば大家さんは朝からアパートの周り掃除してるんだっけ。

 でも前回ならまだしも、綾先輩を入れる理由はーー


「『どちら様ですか?』と聞かれたものだから『彼女です!』とちゃんと答えたら快く入れてくれた」

「何平然と嘘言ってるんですか!」


 どうするんだよこれ!? 大家さんに誤解を解かないと。

 でもあの大家さんの感じなら「ふふっ、恥ずかしがらなくてもいいのよ」なんて事を言って微笑むんだろうなー。


「どうした廉君? 悩んでるのか? 不安なのか? 一緒に寝る? そして朝までしっぽりーー」

「結構ですから!」


 それに朝までって一日中って事ですよね。殺す気ですか。


「どうにかして大家さんの誤解を解かないと」

「そうだな。彼女じゃなくて妻だったな!」

「ち・が・い・ま・す! 綾先輩はただの生徒会の仲間って事をです!」

「……確かに"今は"生徒会の仲間だな」


 ちょっと一部分強調して俺の目をまっすぐ見ないでくださいよ。ぶるっちゃいます。


「……歯、磨いてきますね」


 視線に耐えられなくなった俺は口実を作ってその場を離れた。

 一旦落ち着いて考えよう。

 扉を開けて綾先輩の視界を遮るためにその扉を閉める。

 目の前には俺を映す鏡と洗面台に置いてあるコップと真新しい二本の歯ブラシ。

 さて、どうしたものかと歯ブラシに手を伸ばすが違和感に気がついた。

 何故歯ブラシが二本あるだ。そして何故二本とも新しいんだ。

 条件反射で扉を勢いよく開けると、俺の使っていた箸を密閉性に優れていそうな袋に入れながら「しまった!」と言いたげな顔の綾先輩とご対面。

 綾先輩はそのまま袋の封をしてそのまま持ってきた鞄に――


「って、させるかー!」


 間一髪の所で箸を取り返せれた。


「もう強引だな。でもその強引さは私の唇か初めてを奪う時でも見せてほしいな」


 照れながら何を口走ってるんだこの人。


「綾先輩。俺の歯ブラシ返してください」

「……何の事だ?」


 小首を傾げているがそんなので騙される俺じゃない。


「見覚えのない歯ブラシが二本あったんですよ。綾先輩の仕業ですよね」

「あぁ、少し古かったから取り替えておいたんだ」

「それはありがたいですね。でも二本もいらないと思うんですが」

「私が泊まる時に困るだろ?」


 大丈夫困らないですよ。そんな状況にさせませんから。


「何本あろうがあまり気にしないですからそれはいいとして、とりあえず古い方を返してください」

「……私が持っているとは限らないだろ。それに古い方なんて持っている必要はないだろ?」

「窓の隙間を掃除するためのブラシとして使うんですよ」

「廉君の使用済み歯ブラシをそんな事に使うなんてもったいない! 私が大事に保管しなくては」

「つまり持っているんですね俺の歯ブラシ」


 自分が口を滑らせてしまった事に気がついた綾先輩が再度「しまった!」と言いたげな表情を浮かべているけど、最初から分かってましたからね。


「どうしても……だめか?」


 座りながら女の子特有の上目遣いで俺を見上げている。

 確かに女性と付き合おうとは思っていない俺だけど、綾先輩は美人だと思ってるしドキッてする事はあるよ。

 そんな美人な先輩が女の子座りで見上げられながらお願いされれば男として言う事を聞かざるを得ない。

 ただお願いの内容が俺の使用済みをくれと言う事であれば話は別だ。


「いやです」

「お金を払えばくれるのか?」

「あげません」

「……つまりそう言う事か。廉君とは言え男の子だもんな。気乗りしないが私の体で――」

「ノリノリで率先して脱がない!」


 しかもその条件だと俺の歯ブラシが貰えて既成事実も出来るから綾先輩の利益にしかならないですよね。


「やっぱり脱がせたいのか? それとも半分脱げていた方がいいのか? それともニーソだけの方がいいのか? 生憎見ての通りブーサンだったから今日は素足なんだ」

「だから俺の嗜好を探らない!」

「うーん、イマイチ廉君の性癖(趣味)が分からないな。いくら探しても男子高校生のお宝は見当たらなかったし」


 俺が寝ている間に家探ししたなこの人。


「そもそも持ってませんから」

「デジタル派だったのか?」

「………………それよりも他に取ったものを渡してください」

「出来れば今の長い沈黙について話を聞きたいがまた今度にしよう」


 と言って、鞄を中を探る綾先輩。

 ……一応言っておきますけど、これは逃げたとかそう言うんじゃないですから。戦略的撤退だから!


「これで全てだ」


 そう言って机の上に置かれたのは俺が使っていた日用品の数々だった。


「これで全部ですか?」

「……まぁ」


 絶対まだ持ってる。


「全部返してください」

「……しょうがないな」


 そう言って綾先輩は自分が着ていたシャツに手をかけた。


「ストップストップ! 何してるんですか!?」

「だから廉君の私物を返そうと思って」


 どうりでサイズがあってないように見えた。

 綾先輩の方が背が高いし、出るとこ出てるからそのせいである部分はピチピチでおへそがチラチラ見えて目のやり場に困りましたよ。


「もうそれあげますからそのままでお願いします!」

「いいのか!? しかし世の中ギブアンドテイクだ。代わりに私のシャツでいいか?」

「よくないです! 何もいらないんでおとなしくしててくださいお願いします!」


 朝からなんでこんなにも疲れなければならんのだ。

 でもシャツをあげた事でおとなしくはなってくれた。

 これ以上は何も起こらないでほしいと願いたい。

 が、俺に秘められているであろう第六感がまだ終わらないと告げている気がする。

 おそらくそれは綾先輩が妙にそわそわして落ち着かないでいるからだろう。


「な、なぁ廉君」

「何でしょうか」

「私が言うのも何だが、結構騒いでいたはずなのに隣から何も言われないな」

「そうですね」

「もしかしてだけど、隣は空室なのか?」

「それを聞いてどうするつもりですか」


 嫌な予感しかしないけど。


「特に理由はないさ。ただ隣に引っ越せば廉君の生活音が聴く事が出来ーー一人ひとり暮らしに興味があるんだ!」

「本音の九割喋って隠せると思わないでください。あと隣は単純に仕事でいないだけです」


 お金が貯まったら別の所へ行くと言っていた気がするけど。

 申し訳ないが俺が卒業するまで待ってほしいかな。


「それは残念だ……チッ」


 この人本気ガチで隣の部屋狙ってたよ。


「そういえば廉君、今日はバイトはないのか?」

「もちろんありますよ」


 横目で置き時計の針をチラッと確認すると、時刻は八時二十分。

 十時に着けばいいのだからまだゆっくり過ごせる。


「十時からですね」

「十時? ならもう行かなければ遅刻ではないか?」

「え、まだ余裕がーー」

「あの時計なら止まってるぞ」

「え?」


 俺が声を漏らすと同時に枕元から聞き慣れたけたたましい音が鳴り響く。

 あれはバイトに遅れないようにといつも俺が設定しているアラーム音。

 どうやら綾先輩の言っている事は本当の事らしい。

 そしてアラームについて一つ補足しておくと、あの音がなる時間は家を出なければならない時間を知らせている。

 そして俺の現状を整理すると。

 着替えてない。歯を磨いてない。髪はハネ放題。

 つまり時間がヤベェ。


「わああぁぁぁぁ! ちょ! 急がないと滝本さんに怒られる!」

「片付けは私がやっておくからこの部屋の鍵を貸してくれ」

「複製されそうですから嫌です! ってこんな事言ってる場合じゃねえ! 綾先輩このままでいいですから! 申し訳ないですけどすぐに帰ってください!」

「え、ちょっと廉君!?」


 綾先輩の荷物を持たせて部屋から追い出し、扉を閉める。

 そして急いで身支度を始めた。

 時間にして五分。

 身支度を終えて俺は勢いよく扉を開けた。

 そこには綾先輩の姿はなく、流石に帰ってくれたようだ。

 鍵を閉め全速力でアルバイト先へと向かった。

読んでくださりありがとうございます

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