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高校生で、一人暮らししている俺のアルバイト生活(疲弊)1

アルバイト編開始です

 最近物入りだったためお金が心許ないと思った俺はアルバイト先である本屋の店長に少し仕事の時間を増やしてくれないかと頼んだ。

 休日だったらいつも夕方ぐらいからの入りなのだが、朝から入らせてもらっている。

 個人店であるこの店は名の知れた本屋と比べれば少し小さいが、個人店として考えれば充分広いし、品揃えが豊富だ。

 ここで買い物をすると店員割引をしてくれるので何度もお世話になっていたりする。


「れっちゃん頑張ってるね!」


 陳列している俺の横で店長である滝本たきもと翔子しょうこさんが声をかけてきた。


「お金稼がないといけないんで」

「そうかそうか! 正直で結構!」


 ハハッと声を出して笑う滝本さん。

 本当こんなスレンダーな体の何処からそんなガタイの良い男性を彷彿とさせる大きな声が出せるのか不思議でならない。


「売り上げに貢献すれば色つけてあげるから頑張って。私は裏で仕事してるから何かあったら呼んで」


 茶髪の三つ編みポニーテールを揺らしながら裏へとさがる。

 時間を確認すると昼の三時。時間帯的にはお客は少ないはず。

 現に店内には両手で数えられる程度にしかいない。

 入って数ヶ月の俺でも充分こなせるだろう。変なお客が来なければだが。

 まぁ入ってからそんなお客には当たった事がないから自分がヘマをしなければ比較的この店は平和なのだろう。

 万引きもされないし、そういった所は滝本さんの手腕のたわものとしか言いようがない。

 歳的に松本先生と変わらないのに。

 おっと、手を止めてる場合じゃない。さっさと並べないと。


「すいません。ちょっと聞きたいんですが」


 女性の声に反応し振り向くと、そこには黒半袖シャツと太ももを大胆に見せつけるホットパンツを穿いた黒髪美女が立っている。


「何でしょうか?」


 俺はいつものお客対応で尋ねると、凛とした姿勢でそのお客は答えた。


「先輩である女生徒会長に劣情を催して襲ってしまう後輩男子が描かれた18禁本を一緒に探してほしいんだが」

「申し訳ございません。私も貴方も未成年なんで協力出来ません」


 どうやら俺にとって初めての厄介なお客が現れたようだ。


「ちょっとだけ! 廉君がその気になればいいから!」

「それを聞いて俺が『喜んで!』と言うと思いますか?」

「思わないな。しかし0.数パーセントでも可能性があれば私は賭けるぞ!」

「貴方はどっかの主人公ですか」


 暴走モードにギアが入ってる綾先輩は面倒臭いぞ。

 どうする。ここはバイトの先輩達に要請をした方が……いやだめだ。呼んだとしてもややこしくなるだけだ。

 男性の先輩店員に見られればこのシチュエーションに対して舌打ちの嵐だ。

 俺の生活の中で数少ない普通の高校生らしい生活が壊されてしまう。

 それだけは避けたい。

 ここは俺だけで何とかしよう。

 本屋に来たんだ。目的の本を探して渡せば帰ってくれるかもしれない。


「ところで綾先輩。今日は何でここに?」

「ちょっと本を探していてな。何軒かハシゴしていたらたまたま君を見つけてついあんな事を」


 ついでエロ本を一緒に探してくれと猛禽類のような目をした女の先輩に言われる男子高校生徒は何パー存在するだろうか。俺一人だけですか。そうですよね。


「まさかさっき探してほしいって言った本を」

「安心したまえ。そんな年齢制限がかかるようなものじゃない」


 それはよかった。

 ならその本を早急に探して綾先輩には速やかに帰っていただこう。


「なら俺も手伝います」

「いいのか? 別に手伝ってもらうほどじゃ」

「いいんですよ。気にしないでください」


 だから買ったら帰ってください。


「そうか。なら頼もうか」

「で、タイトルは何ですか?」

「この本なのだが」


 メモした紙切れを渡され、内容を確認する。

 えーっと……『年下の彼をおとそう』『心配な人のための婚姻届の書き方』『引き出したい言葉を引き出す催眠術』『これで恋愛成就! 初心者のための既成事実講座』の四冊かー。見つけたくないなー。

 いやもしかしたら俺が何か勘違いしてる可能性が0.数パーあるかもしれない。

 例えば誰かに頼まれたとか。

 俺はその確率に賭ける!


「よければでいいんですけど何でこの四冊を?」

「廉君との明るい未来のためだ」


 笑顔を浮かべながら真剣な目で凝視され何も言えなくなった。

 どうやら0.数パーの可能性すらなかったようです。

 明らかにこの本の内容を俺で実践するつもりだよね。

 なんで本人を目の前にしても動じずにはっきりと言い切れるんだ。

 自信ですか。自信があるんですね。

 たとえ俺にバレていても自分なら無事遂行出来る自信が!


「ち、ちょっと待ってくださいね。今調べてきますから」


 急いでレジカウンター内に戻ってパソコンで在庫を調べる。

 いや、流石に全部あるわけ全部あるのかよー! チクショー!

 どれも在庫ありの文字が表示されている。

 仕方ない。雇ってくれている滝本さんには悪いですが、こちらも人生がかかっているんで在庫がないと綾先輩に伝えよう。


「廉君。さっきの本の話だが」


 ちょうどよく綾先輩が来てくれた。


「綾先輩。本はどうやらないみたいですね」

「そうか……残念だ」


 肩を落として項垂れている。

 どうやら本気でほしいようだ。


「……女性関連の本はどこにあるんだ?」

「え、あっちですけど」


 危機は去ったと安心している最中、不意に聞かれてしまい思わずいつも通り聞かれた事を素直に答えてしまった。


「そうか」


 綾先輩はそのコーナーへと歩き出す。


「あ、綾先輩! 何処に行くんですか!?」

「私は実際に見て確認しないと気が済まないタイプでな。気にせず廉君は仕事に戻ってくれ」


 気にせず仕事ですか……無理に決まってるでしょうが!

 ま、まずい。このままだと自力で本を見つけてしまう。

 慌てて綾先輩の後を追った。


「仕事に戻らなくていいのか?」


 流石に俺の行動を不審に思った綾先輩は眉をひそめる。


「こっちで作業があるんで」

「そうなのか?」


 咄嗟にそれらしい理由をでっち上げるが、まだ納得のいってない様子の綾先輩。

 いつ俺がドジってもおかしくない状況。少し意識をそらさねば。

 視線を動かして何か打開出来るものはないかと探していると、ある本棚が目に留まる。

 棚の中に綾先輩が探していた『年下の彼をおとそう』と『心配な人のための婚姻届の書き方』が並んで一冊ずつ置かれていた。

 この上なく俺に優しくない配置がされているんだが。

 しかし他の二冊と比べればまだ可愛げがある。

 これで婚姻届の書き方の本に催眠術か既成事実の本が並んでみろ。

 俺の意思関係なく強制的に綾先輩と二人三脚で人生を歩むハメになる。

 ってそんな事は今考える事じゃない。兎にも角にもこの二冊を使って話をそらさせよう。


「綾先輩。あれって先輩が探してた本じゃないですか」


 俺がその棚を指差すとつられて綾先輩の顔も動く。


「確かにそうだな。しかし在庫がなかったのでは?」

「俺の見間違いだったみたいです」

「廉君はおっちょこちょいだな」


 綾先輩は目的の本が並ぶ棚へ。

 棚から一冊とると、中身をざっと流し読みし始める。

 なんとか誤魔化せた。

 さて、綾先輩の気がそれている間に他の二冊を隠しにーー

 ふと視線を下に向ける。

 何故俺は気づかなかったんだ。堂々と平積みで置かれている『引き出したい言葉を引き出す催眠術』『これで恋愛成就! 初心者のための既成事実講座』の二冊を。

 幸いにも綾先輩も気づいていないらしく。中身の確認をしている。

 一冊ずつだし今の内に抜けば。


「中々興味深い」


 今だ!

 本に手をかけようとした瞬間だった。

 綾先輩は見ていた本をパタンと閉じてしまい、俺の方を向いたのだ。


「……両手を上げて廉君は何をしているんだ?」

「いやそのー……伸びをしようかなって」

「確かに腰を曲げ伸ばしが多いからな」


 そう言って綾先輩は視線が下に落ちた。

 気づかれたか。


「……ここの店は夜の営み関連の本をわざわざ三列にして積むのか?」

「さ、さぁ? なんででしょうね」


 上ずりながら俺はそう答える。

 咄嗟に隣の本を上に乗っけてなんとか隠せれた。

 が、よりにもよって夜の営み関連の本だったとは。


「まぁ本の配置は店それぞれだ。さて、他の二冊はどうやらないようだし、この二冊を買わせてもらおう。レジを頼む」

「分かりました」


 なんとかあの二冊だけは死守する事は出来た。

 すぐさま綾先輩をカウンターへと連れ、買い求めの本をレジへと通した。


「2200円です」


 綾先輩は財布からちょうどの金額を出して俺に渡す。

 受け取った俺はすぐに本を袋の中に入れて綾先輩へ。


「あ、忘れるとこだった。スマイル一つ」

「それは手軽なファストフード店に言ってください」

「じゃあ、廉君をテイクアウト」

「それは手軽なファストフード店でも言っちゃダメなやつです」

「冗談だ。また時間がある時によらせてもらうよ」


 そう言って綾先輩は退店した。

 ようやく悩みのタネがいなくなった。

 大きくため息を吐く。

 しかしあの配置。意図があるような気がする。なんというか並々ならぬ思いがあって配置したような。

 ……そう言えば、滝本さんがあそこの棚を整理してる時やけに気合が入ってたような。

 もう少しで何かに気付きそうだったが、滝本さんのために俺は考えるのをやめて仕事に戻った。

読んでくださりありがとうございます。

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