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真面目で、常識人の会計さんは俺の女神です(真剣)5

 休日だと言うのに昨日のインパクトが頭の中に残っているせいで絶望しながら俺は起床した。

 出来ればもうあんな目に遭いたくはない。これからは雫の料理は遠慮しよう。

 固い決意と同時に枕元のスマホが振動する。

 誰からだ? と思いながらスマホをくとメールが二件届いていた。

 一番上のメールの名前を見ると「綾先輩」と表示されていた。

 次のメールには「松本先生」となっている。

 また変なメールだろうと、綾先輩のメールを先に開く。


『はやくにげ』


 ……ふぅ。一度落ち着こう。

 今まで「愛してる」だの「私の夫」だの「今日のパンツの色を教えてくれ」だの変なメールが届いてたじゃないか。

 何故か途中で送信された感があるけど気にしないでおこう。さぁ、松本先生のメールをーー


『守谷暇か? 暇だなよし。昨日の事で雫がやる気を出して私の家で料理の勉強をする事になった。味見役は大勢いた方がいいと思うんだ。守谷もそう思うだろ? だから生徒会の活動と言う事でお前も参加しろ。綾を迎えに行ってからお前を迎えに行くから用意しておけ』


 やっべ、逃げなきゃ。

 財布とスマホを持ってすぐに逃げ……ようとしたが、その前に玄関の扉からノック音が。


「もーりーやーくん。でっておーいで」


 遅かった。もう先生はすぐ近くまで来ていたらしい。


「いるんだろ守谷君。先生との約束忘れたの?」


 承諾をしていない時点で約束とは呼ばないんですよ先生。


「おーい守谷君」


 ドンドン! ガチャガチャ!

 必死に開けようとする先生の苛立ちが扉越しから伝わってくる。

 それでも俺は居留守を通す。少しでも反応してしまえば勘付かれてしまう。


「……気配がない。逃げられたか」


 松本先生がそう言った後に足音が聞こえ始め、だんだんと小さくなってやがて消えた。

 もういなくなったのか? 念のために十分ぐらい息をひそめてその場でジッと待ってからゆっくりと息を吐く。


「流石にいなくなったか」


 覗き穴から外を覗くと、向こうから覗く瞳と目があった。


「ひぃ!」


 俺が情けない声を上げると、再び扉を叩かれドアノブを回される。


「やっぱりいるじゃないか。さぁ、先生と一緒に青春の一ページを書き込もうじゃないか」

「嫌です! 絶対その一ページ血だらけで生臭いじゃないですか!」


 無理にでも俺を連れて行こうと何度も開かない扉を連打し、ドアノブをガチャガチャと鳴らしているけど、絶対に開けるか!


「どうかしましたか?」


 扉の向こうから聞き慣れた品の良さそうなご婦人の声がする。


「お騒がせてすいません。私白蘭学園で教師をしています松本杏花と言います」

「あら、そうでしたか。私はここの大家をしている者です。それで守谷君がどうかしたんですか?」

「実は今日生徒会の集まりがあるのですが、守谷君が時間になっても来ないので心配してこうして迎えに来たんです。ただ寝てただけで安心しました」


 生徒会の集まり? どう考えても私情挟まってますよね。


「そうだったんですか。守谷君、ちゃんと行かなきゃダメよ」


 来たばかりの俺にいつも気を使ってくれる優しい大家さんを味方につけるなんて卑怯ですよ! 頭上がらないんですから!


「……しょうがないですね。先生、場所を変わってください」


 大家さんが何かするようだが、予想も出来ずにクエスチョンマークを飛ばしていると、ガチャンと鍵が外れる音がした。


「これで入れますよ」

「すいません、鍵を開けてもらって。守谷ーー」


 扉が開ききる前に窓を開けてフライアウェイ!


「いでっ!」


 窓枠に片足が引っかかり盛大にこけてしまった。


「あら? 守谷君がいないみたいですね」

「しまった!」


 やばい!

 俺はすぐに持ってきた靴を履いて、体力が続くまで走り続けた。


「はぁ、はぁ……まいたか?」


 近くの図書館まで着き、後ろを振り向くが車も人影もない。

 大きく息を吐いて適当な所で腰をかけて、項垂れる。

 この後はどうするか。家に戻っても大家さんがいるから連絡されそうだし。

 かと言って同じ場所にいてはいずれ見つかる。

 仕方ない。財布にダメージがあるが逃げるため早急に駅に向かーー


「あらあら、廉君勉強をしに来たの?」


 唐突な呼びかけに顔をバッと上げる。

 藍色のワンピースを着た姫華先輩が俺を見下ろしていた。


「ひ、姫華先輩……」


 大人っぽくて一瞬誰か気づかなかった。

 私服だけでこんなに変わるのか。


「すごい汗」


 自前のハンカチで俺の汗を拭う。


「あ、姫華……それに、廉も」


 偶然通りかかった小鞠先輩が俺達に気づき、合流。

 前回はスカートだったが今回はショートパンツを穿き、上は可愛らしい猫のキャラがプリントされた半袖シャツを着ている。


「おはようございます。二人はどうしてここに?」

「うーん、私は探し物かしら」

「私も、その、手伝い」


 二人して探し物?


「よければ手伝いますけど」

「あら〜助かるわ。逃げられちゃうかもしれないから」


 探し物って動物なのか。


「綾ちゃんがいれば早く見つけられたんだけど」

「綾先輩に懐いてるんですか?」


 しかし姫華先輩は首を横に振る。


「綾ちゃんがその子好きすぎて、すぐに見つけちゃうの」

「へー、そうなんですか」


 動物とは言え、俺と同じ目に遭っているかと思うと自然と同情してしまう。


「それで、特徴とかないんですか? 猫だったり、犬だったり、耳が尖ってるや丸いだとか」

「大きさは、姫華より、小さくて……私より、大きい」


 え、それって結構大きいよな。

 大型犬並みにでかい動物か。


「他には何かありますか」

「そうねー……可愛いって所かしら」


 そりゃ動物は大概可愛いでしょうね。


「それに優しいわね」

「あと、毛は、黒い」

「ついつい私がいじめちゃうの」

「歳は、私の、一つ下」

「確か三組だったかしら」

「血液型は、O型って、綾から聞いてる」

「苗字が『もりや』なんだけど、知ってるかしら守谷・・廉君」


 なるほどなるほど。聞いても誰の事を指しているのか分からないなー。

 あ、しまった。俺とした事が。この後確か何かしら用事があって、駅に向かわないと行けないじゃないか。

 いやーうっかりしてた。思い出してよかったよ。

 用事を一切思い出せていない気がするけど、気のせいだよね。

 と言うわけで。


「すいません。用事があるので俺はここで」

「まぁまぁ、そんな固い事言うな。走って疲れているだろ? 私の家でお茶でもしよう。飯も出すぞ」


 そう言って俺の隣にどかっと座り、肩に手を回す人物が。


「い、いつから、ここに?」


 震える声で尋ねると松本先生はニンマリとする。


「姫華達から連絡を受けて今さっき到着したばかりだ」


 やっぱりグルだったか。

 二人の顔を見ようとしたが、どちらも明後日の方向を向いて目を合わせようとしない。


「さぁ私の家に行こうじゃないか。雫も首を長くして待っているぞ。車を取りに行ってくるからここで待ってろ……いいな?」


 大丈夫ですよ先生。その顔が怖くて体が動かせません。


「二人共。見張っておけよ」


 車を取りに行った松本先生が視界から消えたのを確認し、体の緊張を解く。


「ごめんなさい廉君。巻き込んでしまって」

「ごめん」


 二人が俺に謝るが、謝るぐらいなら逃してほしい。


「二人は逃げないんですか?」

「……雫ちゃんは悪気はないのよ。食べる人の事思ってるだけで、ちゃんと教えればきっと出来るのよ。だからお友達として協力してあげないと。うんそうよ姫華、お友達は大切にしないと。仮に気絶するとしてもきっとそれが美味しいからよ」


 ああ、うん。そうやって自分に言い聞かせてるんですね。


「私は、別に、逃げる理由が……な……い。雫は大切な、仲間だから、協力……す……する」


 小鞠先輩。無表情で平然と言ってつもりだと思うんですが……膝が震えてますし、半泣きじゃないですか。


「でも、それって俺が参加しなくてもいいですよね」

「そんな事はないわ廉君! 一人でも多くの人がいた方がいいと思うの! その……そう! いっぱい人がいた方が料理って美味しいでしょ?」

「雫は、大切な仲間! 廉にとっても、大切な仲間! だから協力、するべき!」


 伝わってくる……伝わってくるぞ。

 頭数を増やす事で料理を分散させて、少しでも食べる量を減らそうと躍起になってる二人の心の内が。


「おーい、みんな早く乗れ」


 近くで車を止めた先生が車の窓から手を振っている。

 俺は二人に手を掴まれながら車へ乗り込むと、車は松本先生の自宅へと向かう。

 時間を追うごとに先輩達の震える手が俺の手を力強く握った。

 果たして、俺は無事明日の朝日……いや、今日の月を見上げる事が出来るだろうか。

読んでくださり、ありがとうございます。

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