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真面目で、常識人の会計さんは俺の女神です(真剣)4

 買ったものをアパートに運び、冷蔵庫へと入れる。

 次に夕食と弁当の準備をしておこう。

 内容は……面倒くさいから同じでいいや。

 ちゃっちゃと終わらせてすぐに寝たい。


「もやしと卵に、あと厚切りのハムと……ポテトサラダでも作るか」


 材料を冷蔵庫から取り出し、早速調理に取り掛かる。

 茹でるのに時間がかかるジャガイモは泥だけ綺麗に落として、小さく切り分けてから水の入った鍋にぶち込んで火をつける。

 その間に溶き卵ともやし一緒に混ぜて焼きながらつゆを垂らす。

 ハムは適当に切ってシンプルに塩胡椒で焼く。

 まだジャガイモが少し硬かったから先にキュウリや玉ねぎを切っておく。

 茹で終わったジャガイモを潰して切った野菜と混ぜる。

 その上から塩胡椒とマヨネーズをかけた。

 分量? 適当適当。どうせ食べるのは俺なんだし。

 と言うわけで夕飯&弁当完成。

 先に弁当箱に詰めて、冷ましている間に夕食とするか。

 米は明日の朝起きてから弁当箱に入れるとしよう。

 明日の事を考えながら俺は食事を取る。




 時間は大きく飛んで次の昼休み。

 生徒会室にて一緒に昼食を取ろうとのメールが届いたので、忘れずに布で包んだ弁当箱を掴んで生徒会室に向かった。

 生徒会室には松本先生が先についており、他のメンバーはまだ来ていないようだ。


「守谷か。弁当は持って来たんだろうな」

「もちろんです」


 そして俺は見せつけるように弁当箱を突き出す。


「そうか。……悪いんだが守谷。これで全員分のお茶を買って来てくれないか?」


 そう言って千円札を渡された。


「え、お茶ならそこに」

「あれだと冷ますのに時間がかかるだろ」


 まぁ奢ってくれるんだから別に異議を唱える事などする必要もない。

 弁当箱を机の上に置いて足早に自動販売機へお茶を買いに行く。

 運良く人が並んでいなかったので、スムーズに買う事が出来たが生徒会全員分となるとなかなかの本数になる。

 少し時間はかかったが、生徒会室に無事到着。

 中では綾先輩以外の全員が集まっている。その中で、一人だけ箸を進めている人物が。


「松本先生。なんで先に食べてるんですか?」

「腹が空いて我慢出来なかった」

「子供ですか。はい、お釣りです」


 お釣りを渡し、小さめのお茶のペットボトルをみんなに手で渡す。

 綾先輩の席にもペットボトルを置く。弁当箱はあるので少なくとも一度はここに来ているようだ。

 配り終わったし、さて腹も減ってるし座って飯を食うかー。

 意気揚々と席に着くがすぐに異変に気がついた。

 置いてある弁当が俺のじゃない。

 そう言えば松本先生が食べてた弁当、俺が使ってる弁当箱に似てるような。


「あの、松本先生。それって俺の弁当じゃないですか?」

「ん?あぁ、道理で私好みな男の料理な味付けだ。すまん、どうやらいつの間にか入れ替わっていたらしい。代わりと言っちゃなんだがその弁当を食べてくれ」

「もう、気をつけてよ。廉、私が作ったので悪いけど我慢してね」


 昨日と同じものだから別のものが食べられて俺的には万万歳でいいのだが。

 何の疑問を持たずにピンクの布を解いて弁当箱の蓋を取った。

 おぉ……綺麗な色をしている。卵焼きがこれでもかというぐらいに黄色。

 芸術品と言っても過言はない。


「いただきます」


 俺が卵焼きを口に運ぼうとしたと同時に生徒会室の扉が開く。


「あぁ、廉君ももう来てーー待て廉君! ストップだ!!」


 顔面蒼白で珍しく動揺している綾先輩に驚いて、卵焼きを口に含む。

 何故か俺はその瞬間意識を手放す。


「…………はっ!」


 気がつけばまた白い天井。

 今回は嫌な夢を見ていた気がする。


「も、守谷君。だい、大丈夫?」


 妙によそよそしいと言えばいいのか。心配はしているが昨日よりも若干距離を感じる清水先生の言動。


「ま、まぁ……」

「廉。ほ、本当に大丈夫?」


 雫がそう尋ねてきた。

 今回は生徒会メンバー全員がいる。

 しかし、清水先生と同様に皆心なしかよそよそしい。

 特に松本先生と綾先輩が顕著に現れている。

 松本先生は心から申し訳なさそうに。綾先輩はいつもなら飛びついてもおかしくないはずなのに、視線すら合わせてくれない。


「だ、大丈夫だけど……あ! それよりも授業にーー」

「いや、それなら心配するな」


 俺の体を気遣っているのかそう言う松本先生。


「でももう動けますし、出席しーー」

「その……何だ。もう、授業は終わってるんだ」


 ……はい? 授業が終わってる?

 ははっ、何言ってるんですか。

 と思いながら保健室に備え付けられた時計を確認すると、授業どころかホームルームが終了する時間まで進んでいる。


「嘘やん」

「何で関西弁?」


 水原先輩に軽く突っ込まれたがそんな事どうでもいい。

 一体何が……俺はただ、雫の卵焼きを……卵焼きを……た、食べーー


「うっぷ……」

「清水先生! 早く守谷に袋を!」

「は、はい!」


 慌てて清水先生が黒い袋を俺に渡し、間入れずに俺は胃の中のものを袋へぶちまける。

 ギリギリ間に合った。


「廉君大丈夫か?」

「な、何とか」


 胃の中が空っぽになった事で落ち着き、ようやく気絶した原因を思い出した。

 あの卵焼きだ。

 口に入れた瞬間に卵焼きからしてはいけない生臭さが鼻を通り、噛めば所々弾力があり酸っぱい汁が染み出す。

 口から出そうものなら、胃液と一緒に出てはいけない液体が出るのではないかと錯覚するほどの吐き気。

 それが気絶するまでの数秒間に俺の身に起こった事。


「雫、あれは一体何なんだ」

「えー……その、料理だけど」


 あれが料理? リアルSAN値が減りそうなあれがか?


「すまん守谷。私は知っていたんだ。もしかしたら前よりかは美味くなっていると信じていたんだ。だけど、いざ貰うと怖くて、体が震えて……本当にすまない!」


 本気ガチの謝罪じゃないですか松本先生!


「もう過ぎた事ですし、いいですよ。それよりもさっきから何でみんな距離を取ってるんですか?」


 互いに顔を見合わせおずおずと水原先輩が口を開く。


「今さっき気がついたのよね?」

「そうですよ」

「守谷君。寝てる間に何度も『ごめんなさいごめんなさい』ってうなされながら連呼してたわ。止まったかと思ったら変に笑い出してたりしてたの。お見舞いに来た男の子達もそれを見て急いで帰っちゃうし」


 あー、うん。聞かなければよかった。


「なぁ雫。念のためどうやってあの卵焼きを作ったのか教えてくれないか?」


 俺が無意識に謝ったり、奇妙に笑ったりする料理をどうやったら出来るのかが気になる。


「ふ、普通よ。溶き卵に砂糖と少し醤油を入れて、塩を数振り」


 うんうん。確かに普通だな。


「栄養が偏らないように砕いたサプリメントとか、すり下ろしたニンニク、その他諸々を加えて……あ、たまたまあったスッポンの血も混ぜたんだっけ。ついでに肉の方もーー」

「待て待て待て待て。すでに俺の知ってる卵焼きじゃない」


 そもそも何故スッポンがある。


「け、健康的な料理の方がいいでしょ? だから色々と健康に良さそうなものだったり、栄養がある物を入れたの」


 そうかそうか。確かに健康的な料理が好ましい。

 雫が選んだものは栄養価が高いだろう。

 完璧な料理だ。

 胃が受け付けないという点に目を瞑れば。


「いやいやいやいや。そもそもそんなもん入れてたら色がおかしくなるでしょ」

「え、色が悪くなったら黄色4号とかの着色料で整えるんじゃないの?」


 黄色4号!? そんな添加物の欄に名前が載ってるなー程度にしか認知されてなさそうなものを使ったのか!?


「雫。科目で言うならお前の料理は家庭科じゃない。美術だ」


 よく言うでしょ。芸術は爆発だって。

 現に俺の胃が爆発したし。


「雫。私が一人暮らしを始めてからお母さんに料理を習わなかったのか?」

「習ったよ! でも、何度か教えて貰った後に『雫には刃物は似合わないわ』って言われて包丁触らせてくれなくなったの」


 それは遠回しに料理をするなと言う事なのでは。


「すまない廉君。全面的にこっちが悪い。念のために弁当をもう一個作ってあったから。これで腹を満たしてくれ」

「ありがとうございます」


 結局弁当を頂いてしまった。

 夕飯には大分早いが、空っぽになってしまった胃は食料を欲しているので、その場で蓋を開ける。

 美味しそうなおかずの数々。しかし、中にはトラウマを植え付けられた卵焼きもあった。

 思わず手が止まるが、覚悟を決めて卵焼きに箸を伸ばす。


「べ、別に無理して卵焼きを食べなくてもいいぞ? 廉君の気持ちは理解してるから」

「い、いえ……食べます」


 綾先輩は料理が得意なんだ。だから怖がるな俺。

 震えで掴んだ卵焼きを落とす前に口に運んだ。


「……おいしい……美味しい、です」


 そうだよ。卵焼きは甘くて美味しいんだよ。


「……ただの卵焼きであんなに泣きながら食べてる守谷を見て、何か思う事はないか?」

「料理をちゃんと勉強します」

読んでくださり、ありがとうございます。

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