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容姿端麗、文武両道な生徒会長は俺のストーカーではない(願望)1

 恋は盲目という言葉がある。あまりに好きすぎて常識や理性を失ってしまう人によく使われるだろう。

 かく言う俺も中学でその状態に陥った事がある。さらに加えて中二病まで発症していたのが悪かった。

 初めて告白した相手に「我の眷属にしてやろう!」と意味不明な言葉を口走り、相手は終始戸惑いながら「え、眷属?」と質問され、素に戻り、どもりながら説明をすると、彼女は納得したように手をポンと叩く。

 そして、笑顔で「色々面倒臭いんでお断りします」と言われた。

 これが俺が今まで生きた中での唯一の告白だ。

 思い出しただけで顔から火が出そうなほど恥ずかしい。

 さて、俺が何故こんな事を話しているのか。まず俺の後ろを見てほしい。


「廉くん、ハァハァ」


 電柱の陰に息の荒い女生徒がいますよね?

 俺のストーカーです。


「いいよ、その少し困った表情。そそられる」


 ジュルリと舌舐めずる音と鼻息がここまで聞こえてくるほど興奮していらっしゃる。

 何故こんな事になってしまったのか。

 俺はここ二週間の出来事を頭の中のスクリーンで映し出した。



 猛勉強の末、春から学力の高いここ、私立白蘭びゃくらん学園の生徒として高校生活がスタートした。

 広大な敷地面積を持ち、スポーツに積極的に力を入れているのか色々と完備され、図書室も校舎の中にあるのではなく、独立した建物で存在している。

 本来ならエスカレーター式で中等部から高等部に上がる生徒がほとんどだが、何枠かは高校入試で割かれているためこの充実した設備を目当てで受験する生徒は少なくなく、俺も例外なくその一人……ではない。

 過去と断つため誰も行こうとしない偏差値の高い学校をと探し、たまたま見つけたのがこの学校だった。

 死にものぐるいで勉強し、ようやく掴んだ再出発の切符。

 誰も知り合いがいない事に喜びもあったが、同時に新参者である俺をクラスメイトが受け入れてくれるかと心配になった。

 だが、クラスメイト達は俺や他の入試グループを快く歓迎し、俺は何不自由のない最初の一週間を過ごした。

 クラスの顔と名前もバッチリ覚えたし、話の合う友人も出来て、高校生活のスタートはいい出だしだ。


「よっ、廉」


 校門で偶然会ったのは同じクラスの三島卓也。俺と同じ入試グループであり、第一号の友人だ。


「おう。卓也か」

「なぁ、昨日のアニメ見たか?」


 昨日のアニメという単語だけで何のアニメかは分かった。しかし、それを思い出すとため息が出る。


「ヒロインが死んだ。俺あの子めちゃくちゃ好きだったのに」

「あー、確かに可愛かったよな」


 そんなたわいもない話を繰り広げていると、あっという間に教室の前だ。

 すでに他のクラスメイトが各々の会話に花を咲かしている。


「おい、廉と卓也が来たぞ」


 俺達に気づいた一つの男グループが一斉にこちらを向いた。

 もちろんこいつらは俺が属するグループだ。


「なぁなぁ! お前らは会長派だよな!」

「何言ってるんだ! 小動物のような書記ちゃんだろ!」

「いやいや、あの母性溢れる副会長さん一択だよな!」

「眼鏡っ娘の会計さんだろ! いい加減にしろ!」


 みんなの視線が俺達に注がれる。どうやら派閥争いをしているようだ。

 これが男子高校生特有の盛り上がり方なのだろうけど、俺は単調な声で、


「いや、俺はそうゆうの興味ないし」


 と返すと、みんな冷めた目に変わった。


「でたよ。興味ないとか言って本当は興味ありありなんだよな」


 本当に興味ないんだけど。

 中学の玉砕以来、女子に憧れや恋心を抱いた事がない。女子と話す事はあるが、結局は友人に届くか届かないか程度の繋がり。そのためこう言った話はどうも絡みづらい。


「と言うか、何で急にそんな話が」

「そう言えば、今日全校集会じゃなかったか?」

「あぁ、なるほどね」


 全校集会。つまり、生徒会からの話があるのか。


「卓也はどうなんだ?」

「俺?」


 俺から卓也に質問がシフトチェンジする。

 卓也は顎に手を当てて考えているが、俺には考える素振りをしているだけで考えてはいないと思った。何故なら


「俺は三次元に興味ないから」


 二次元にしか興味ないから。


「そう言えば、そんなだったなお前」

「マジでもったいねぇよ。お前見た目いいのに」

「そんな事ねぇよ」


 実際そんな事ある。

 俺も最初は卓也はリア充、それもトップに属する奴だと思っていた。

 しかし、話してみるとそんな事全然なく、むしろ容易に想像できる一般的なリア充だとは微塵にも思っていない。

 入学当初はクラスの女子から質問攻めや、誘いがあったが、卓也は嫁(紙)、妹(画面)、姉(架空)に早く会いたいから早く帰ると言って帰ってしまっていた。

 もちろんクラスメイトはそういう人物だと認識した事で卓也は諦めたが、何も知らない他クラスは本質を知るたび、絶望した表情をする。


「お前ら、もうそろそろ全校集会だから体育館に向かえよ」


 教室に入ってきた担任の先生が聞こえるように声を出した。

 いつの間にか移動する時間までたっていたらしい。

 皆口を揃えて「はーい」と答えると体育館シューズを持って体育館へ歩く。


「そんで、本当の所はどうなんだ?」


 卓也が肩を並べて尋ねてくる。


「本当も何も、実際に興味ないし」

「じゃあ、もし仮に会長さんに告白されたら断るのか?」

「断るよ」


 そもそもそんな可能性なんてないに等しい。


「筋金入りだな」

「お互い様に」


 ぞろぞろと生徒の波が流れる体育館に入った俺達は指定された場所にクラスで固まり、全校集会が始まるのを待った。


「えー、静かに」


 教師が制止させようとするが、ざわつきは未だに残る。

 仕方なしと思ったのかそのまま進行していく。


「それでは今から全校集会を行います。まずは生徒会から連絡です」


 途端に、ざわついていた体育館は静まり、舞台袖から現れた漆黒の長髪をなびかせる絶世の美少女に皆釘付けになった。


「皆、おはよう。二年生徒会長の東雲しののめあやだ」


 大きく、キリッとした目で集まった生徒を見渡す会長。


「一年の皆は高校生活に慣れただろうか。知っての通りこの学園は勉学はもちろんだが、部活や図書館などの施設が整っている。少ない高校生活だ。存分に青春を謳歌してくれたまえ」


 その後も会長の話は続くが、誰一人として雑音を加える事はなかった。



「今日も会長さんは素敵だったね」

「俺会長さんにだったら命捧げられる」


 会長の後の先生の話などなかったかのように周りからは会長の話で持ちきりだ。

 まぁ、確かに会長の噂は入学して一ヶ月でもよく耳に入る。

 容姿端麗、文武両道。責任感もあって世話好きで、この学校の男よりも男らしい。非の打ち所がない完璧人間。

 男女分け隔てなく人気があるのも頷ける。


「やっぱり会長は人徳があるからか、みんな聞き入ってたな」

「確かに、あんな美人の話を聞かない人なんてそうそういないよな」


 と自分で言ったものの、実際俺は聞き三割、考え事七割程度だったけど。

 話の内容? 聞いてたからって、少しでも覚えているとは限らない。

 何を考えてたかって? そんなの早く帰りたいと延々に呟いてただけに決まってるでしょ。


「話変わるけど、廉は部活入ったのか?」

「いや、入ってない」


 これと言って打ち込みたい事などない俺に時間を割いてまで部活をしようという気力もなく、多くのクラスメイトが部活に励んでいる中、俺は図書室に籠るか、直帰するかの二択の生活をしている。


「なら俺と同じ部活に入ってくれよ。参加したい時に参加出来るし、個人的にも過ごしやすくなる」

「確かアニメ研究会だったよな? 興味はあるけど、入ろうとは思わないな」


 俺の答えに肩を落とす。


「そうか。出来ればいて欲しかったんだけどな。俺がいると空気が悪くなるらしくて」


 心の底から入部したいと思って入ったのに、容姿の所為もあって茶化しにきたと勘違いされ、挙句の果てに数少ない女子部員を無自覚に虜にしてしまって、さらに男子部員達から敵視されるシーンが一瞬で頭の中に浮かんだ。


「もう退部しようかな」

「一回考え直して、それでもダメなら退部すれば」

「そうするか」


 納得した卓也と俺は教室に入り、自分の机の上に教科書を並べる。

 しかし、全校集会の時点で帰りたいと心の中で連呼していた俺が、まともに聞ける心持ちのはずもなく、朝一番の授業だが、瞼が重くなっていく。

 起きなければ先生に怒られてしまう。辛いが必死に起きなければ、


「ーーい、廉。起きろ」


 前方から誰かのかすれたような声が聞こえる。


「俺は知らないからな」


 いつの間に目の前が暗くなっている。停電でも起きたのか?


「守谷!!」


 女性にしては少し野太い声が俺の耳穴に反響し、俺はようやく眠っていた事に気がついた。

 右隣にはクラスメイトではなく、鬼の形相で俺を見下ろす数学の担任であり、このクラスの担任、松本先生がいた。


「よほど私の授業がつまらないようだな」

「えっと」


 暑くもないのに、背中がジンワリと汗をかく。

 何か言おうにも、少しでも眠っていた脳が良い言い訳を弾きだす事など出来るわけがなかった。


「お、怒りすぎると、シワが増えますよ。せ、先生若いんですから、気をつけないとーー」

「大きなお世話だ!」


 垂直に落とされた手刀が脳天に落とされ、頭を押さえて俺は机に伏す。

 さらに追撃とばかりに俺にさらなる罰が下される。


「帰りに私の所に来い。いいか、必ずだ」


 つかつかと黒板の前に立つと止まっていた授業が進む。


「御愁傷様」


 と言って両手を合わせる卓也。

 元々俺が悪いので、責める事は出来ないが、少しばかりイラッとした。

 まだ授業はある。その間に松本先生が忘れてくれる事を祈ろう。



 授業が全て終わり、俺は直ぐに帰ろうとした。

 この言い方をすると、まだ帰れていないのか? と思うだろう。

 その通り。

 じゃあ、何をしているのかだって?

 松本先生に首根っこ掴まれて絶賛引きずられ中です。

 HRが終わり、直ぐさま退散しようと後ろの扉を開けた。

 そしたら目の前に松本先生がいた。

 さっきまで教卓にいた先生が今俺の目の前にいる。

 もうこれよく分からないな。と思いながら次の瞬間には首根っこを掴まれていた。


「守谷。先生との約束を忘れちゃダメだろ?」


 なんでこの先生は片手で俺を引ずれるのだろう。

 確かに背は小さめで、体重も軽い方だが、だからと言って女性が片手で引きずれるとは思えない。

 プロポーションの良い細い体の何処にそんな力があるのか。

 あと、先生。階段でも引きずるのやめてください。お尻が痛いです。


「着いたぞ。早く立て」


 ようやく解放され、大人しく立ち上がる。そこは生徒会室の真ん前だった。


「あの、なんでここに?」

「そんなの決まってるだろ。罰として仕事を手伝ってもらうためだ」


 先生が扉を開く。

 俺は一瞬校長室ではないのかと思ってしまった。

 部屋の中は立派な机が真ん前にドンと置かれ生徒会長の札が添えられている。それを対照軸に同じような机が垂直に二つずつ置かれ、それぞれ役職の札が添えられている。

 壁には何かの絵画や表彰状。棚には高そうな花瓶と、ティーセットがあった。


「おや、松本先生。何か用事ですか?」


 生徒会長の机に座っていた女生徒が立ち上がり、俺と先生を出迎えた。

 その顔を忘れるはずもない。

 東雲先輩。生徒会長その人だった。


「この生徒がどうしても生徒会長様の役に立ちたいと涙ながらに懇願してな。この後、確か力仕事があっただろ。ちょうどいいから連れて行け」


 懇願した描写、俺の記憶に存在しないんですけど。


「そうですか。ですが結構。私一人で十分ですから」


 生徒会長はそう言って断った。このままいけば解放されるのでは?


「そう言うな。こいつもやる気なんだから」


 微塵もないです。


「ふむ……では、手伝ってもらおう」


 俺に向かってそう言う生徒会長。これで、俺の時間が消えるのは確定か。


「それじゃあ、私は職員室に戻る。何かあったら呼んでくれ」


 それだけ言い残して松本先生は生徒会室を出て行く。

 これが俺と生徒会長のファーストコンタクトになった。

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