お嬢様で、優しい副会長は女王さま(疑問)7
白蘭学園の最寄駅から3駅先まで電車に揺られ、改札口を出るとビルやマンションなど高層の建物が首を動かさなくても3、4軒目に入った。
改札口が地上ではなく、高所に設けられている事もあり、落下防止を含めた手すりから覗けば忙しなく交差点を行き交う車や人の波の流れが手に取るように分かる。
「こっち。ついてきて」
ここまできてしまったんだ、大人しく水原先輩の後ろをついて行くしない。
「どこに行くんですか?」
「あそこ」
指差す先には大型のショッピングモールがドンと構えていた。
「少し歩くけどいいわよね」
目には見えるが少し遠くにある。
歩いて数分程度かかりそうだ。だが、日頃から歩いて通学している俺にとっては気にならない程度の距離。
「いいですよ」
俺の返事を聞くとショッピングモールへと足を向けて歩く水原先輩。
俺も習って後を追う。
信号機などで中々思う通りに進まなかったが、なんとか目的地にはついた。
やはり近くで見るとかなりでかい。
「それで、ここで何するんですか?」
入店してすぐに質問を投げると、人差し指を頰に当てて水原先輩はしばし考え込む。
「まずは服が見たいかな。男子の意見とか聞きたいし」
ど定番の服ですか。しかし服装にこだわりのない俺に意見を聞くべきではない。
シンプルの代名詞と言っていいほどに遊び心のない服を多く持っているからな。
「さ、行こ行こ」
駆け足でエスカレータに乗る水原先輩。
俺もエスカレータに乗って前を向くが、すぐに顔を背けた。
少し揺れれば下着が見えそうなほど短いスカート。目のやり場に困る。
ふと視線を感じ、後ろを見ると、何人かの男性がスマホを操作したり、鞄の中を探しながらチラチラとこちらを気にしていた。
正確にはスカートの中を覗こうとしていた。
下手な演技に思わずため息を吐きながら。さっと水原先輩に近づいていやらしい視線を遮る。
再度後ろを振り向いてみると、野郎どもは視線をそらす。
「ちょっと、何急に近づいてんのよ。もしかして、お尻でも触る気?」
「違いますよ」
ジト目で睨まれるが俺は即答して視線をそらす。
「冗談よ。そんなすぐに答えなくてもいいじゃない。……がとう」
最後の方は何を言ったのか聞き取れない。
何と言ったのか聞き返そうと思ったが、その前に二階についた水原先輩はぴょんとエスカレータから降りた。
まぁ、無理して聞く必要もないでしょ。
俺も同じくエスカレータを降りて、二人で服屋へと向かった。
「あ、これ可愛い!」
何かお気に入りの服を見つけたのか駆け足で俺から離れる。
見るからに今時の女子高生の水原先輩だ。
ズボンではなくパンツと言ったり、聞いた事もない横文字の服の名称を日常茶飯事で使っているに違いない。
そんな彼女がどんな服を選ぶのか。
「ねぇ! これ可愛くない?」
広げて見せられた服を俺はまじまじと観察した。
ピンクを基調としたTシャツにど真ん中にはウィンクした可愛らしい熊……そしてその周りを囲むように達筆な字で書かれた"野生爆発"の四文字。
はっきり言おう。ダサい!
ダサすぎる! え、女子高生はこんなのを可愛いって着るの? いや待て、俺はファッションには疎い。もしかしたらこれが今の流行りで大ヒットしてるのでは?
などと必死に自分を納得させようとしたが、水原先輩が服を引っ張り出してきたワゴンの中が視界に入った。
在庫処分のポップが貼られ、乱雑に置かれて絡み合っている服は半額以上値下げされている。しかも7、8割がその熊のTシャツの色違い。
ワゴンの隙間から愛らしい熊ちゃんが「俺を、買え!!」と訴えかけている。俺にはそう感じ取れた。
「どう? 可愛いよね!」
そんなキラキラした目で期待されては「ダサいですよ先輩」なんて言えるかよ!
「か、可愛いですね」
「だよねだよね! そう思うよね!」
意外な光景を目の当たりにして頭が痛い。
絶望的なファッションセンス。もしこれがいつも通りならば、普段の服装は一体……
「じゃ、これ買ってこ」
と言いながらそのTシャツの色違いが次々と手にかかっていく。
最終的にその熊ちゃんTシャツを網羅してしまった。
先輩正気ですか。
「後は……」
まだ続けるのか!? 出来ればこれ以上のものを発掘しないでくれ。
「えーと」
おもむろにスマホを取り出して何かを調べ始めた。
十中八九服なのだろうが。
そして求めていた情報が手に入ったのか、ツカツカと歩きながら目配りする。
「あ、すいません!」
近くて服を畳んでいた店員にスマホの画面を見せて何処にあるのかと聞く。
店員は笑顔で水原先輩と俺をその商品がある棚に促し、一礼してから作業に戻った。
「あってよかった」
そう言ってブラウス、だったかな? それを手に取って体に当てがい、サイズを確認する。
よかった、普通の服も買うんだ。
でも、Tシャツを買っていた時に見せた太陽のような笑顔ではなく、今は安堵した表情だった。
その後もスマホ片手に服を探した水原先輩に付き合う事一時間。
品定めを終えた水原先輩と一緒にレジカウンターに向かう。
次々にレジにはその服の値段が表示されるが、悲しい事かな。カラーバリエーションが豊富だった動物戦隊クマチャンジャーが集まってようやくブラウス一枚の値段になる。
別にブラウスが高いわけじゃない、クマチャンジャーが八割引されたのだ。
「何ぼーっと突っ立ってんのよ」
会計を済ませた水原先輩が紙袋を一袋持って戻ってきた。
「別になんでもないです」
そう言って俺は手を前に出す。
どうせ、荷物待ちのために連れてこられたんだ。命令される前に行動した方が色々言われなくて済む。
「……何してんの?」
水原先輩は不思議そうな顔をして俺の横を通り過ぎる。
あれ? 荷物持ちじゃ。
すでに店を出た水原先輩の元に駆け寄る。
「あの、俺荷物持ちじゃ」
振り返って、小首を傾げられた。
「なんで? 買い物に付き合ってもらってるんだし、守谷が荷物持ちはおかしいでしょ」
と、当たり前のように言う。いや、ある意味当たり前の事なんだけど。
「……他の人から見たら女に荷物持たせて、男が何も持ってないって、体裁が悪いんで持たせてください」
「そう? じゃ、お願い」
水原先輩から紙袋を受け取る。
何故だろうか。宮本先輩と諸星先輩に会うのは嫌だし、関わりたくない。もちろん水原先輩からメールが来た時は同じ気持ちを抱いた。
でも、こうして遊んでいると悪い人ではないんじゃないかと思えてしまう。
いや、弱みを握られてはいるんだけど。
「ほらほら。次はゲーセン。時間はあまりないんだから」
駆け足でゲームコーナーに向かって行く姿に少し温かい気持ちになりながら、後に続く。
特有のゲームのBGMが入り混じった音が聞こえると、無意識に心が踊った。
ゲームコーナーに着き、多種のゲーム機が目に映る。
格ゲーやガンシューティング、定番のUFOキャチャーがずらりと並び、奥にはメダルゲームの数々が設置されていた。
「守谷行くよ!」
水原先輩も気持ちが昂ぶっているようで、声が大きくなっている。
真っ先にUFOキャチャーが並ぶ一角に足を踏み入れ品定めを始めた。
何を取ろうか迷っているのか、はたまた取りやすいものを探しているのか、いくつも観察している。
俺は決まるまで待っていようと思ったが、近くにあったUFOキャチャーの景品が目にとまった。
深夜アニメの美少女キャラがフィギュアとなっている。
確かこのキャラは卓也が好きだったキャラだよな。
そう言えば以前、この手のゲームが得意と言ったらあいつ、教室で懇願してきたな。
もしかして、これが取りたかったのか?
暇だしやるか。と遊び程度に考え、フィギュアの配置を確認する。
サイズギリギリに二本の棒があり、その棒の橋渡しとなっている景品。
挑戦者に易々と景品を獲得してなるものかと、棒には滑り止めがつけられていた。
まぁ、攻略方法は知っている。
一発で取ろうとするのではなく、少しずつ動かして取る。
百円玉を投入するとかかっていたBGMが変化。それに伴って手元のボタンが光りだす。
右矢印のボタンを押して開いた時に右アームが箱をギリギリ掴める位置まで動かす。
次に斜めから見て奥行きを確認し、上矢印のボタンを押して箱の一番手前を狙う。
理想通りの動きで箱を掴み上昇していく。もちろん一発で取るつもりもないので、動いてくれれば及第てーー
「ん?」
手前が動くまでは計画通り。しかし、思いの外箱が回転し、そのまま取り出し口にシュート。
取り出して景品をまじまじと眺める。
店側に対して一言。……なんかごめん。
罪悪感から余分に投入しようとは思ったが、それでは情けをかけているようなので、お金は渡すがこちらも真剣に取り組もう。
別の台で再度硬貨を投下する。
「……俺は悪くねぇ」
景品を取り出し口から出しながらそう呟く。
最初の百円玉投入。アーム動かす。箱掴む。箱浮かす。イレギュラーな動きをする。取り出し口にシュート。なんだこれ。
そして俺のバカ。何故同じ景品の台でやった。
幸いにも、何故か個数に制限をかけられていないかったため、店側から何か言われたりしないだろう。
一つは卓也に渡せばいいが、問題はもう一つ。
そもそもこの作品を視聴した事がない俺が持ってても意味がない。
……視線を感じる。
横に目をやると水原先輩がじーっと俺を見つめていた。
美少女ものフィギュアを持っているんだ。キモいや何か言葉が投げられる違いない。
と思ったが、ずっと黙って見ている。
それに視線の先はどうやら俺ではないよう。
箱を左に動かしてみた。視線が左に動く。
右にずらす。視線は追いかける。
上げてみた。口がポカンと開いた。
俺の顔の横に近づける。俺と目があって赤面した。
「……先輩。これーー」
「し、知らないわ! ラブコメだけど時には感動するアニメのヒロインキャラで。明るいキャラけど実は親がいない事に寂しいと感じてるとか。キャラ投票で一位とか。私のお気に入りとか、全然知らないから!」
お、おぉう。現実世界でここまで嘘が下手くそな人っているんだ。
しかも最後に関しては情報じゃなくて主観なんですが。
「……いります?」
「……うん」
そこは素直なんですね。
近くにご自由にお取りくださいと書かれた札と一緒にビニール袋が置いてあったので、一枚貰って景品を入れる。
それを水原先輩に渡し、俺はもう一つを鞄にしまう。
少し箱が小さいのと、使っている鞄が大きめという事もあり、すんなりと収まった。
しばらく沈黙が続くと辛抱しきれなかったのか、水原先輩の口が開く。
「の、喉渇いたわね。フードコーナーに行かない?」
確かに喉も渇いたし、小腹も空いた。その提案には賛成。
「そうですね」
そう返して水原先輩と一緒にゲームコーナーを後にし、フードコーナーに寄って空いてる席を探した。
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