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お嬢様で、優しい副会長は女王さま(疑問)3

「はぁ~……ひどい目にあった」


 上手く投げられたとは言え、何度も畳に打ち付けられ体中が痛い。


「あらあら、かわいそうに」

「誰のせいですか。誰の」


 言葉とは裏腹に笑ってるぞこの人。


「チッ、折角目の前で廉君の生着替えが。柔道部員達の壁で全く見えなかった」


 こっちはこっちでまたおかしな事を言ってるし。この後もこんな調子では俺の身が持たない。


「次は野球部だけど、廉は大丈夫?」


 数少ない常識人の雫の気遣いが身にしみる。


「大丈夫。ありがとうな」


 俺がお礼を言うと少し頬を赤く染めてソッポを向かれた。


「あ! 危ない!」


 ちょうど俺達がグランドに着いた時、そんな声が上がった。

 何事と思い周りを見回すと野球部員達が皆こちらを向いて慌てている。


「そこの男子避けろ!」


 どうやら俺に向かって言っているようだ。

 自分に危機が迫っている事に実感を持っていない俺はふと、空を見上げた。

 白い球体が落っこちてきている。

 ファールボールか、と呑気な事を俺は考えていた。そして次に思ったのは、ああ、避けられんな。

 諦めていると人影が突如現れ、そのまま落ちてくるボールを見事にキャッチした。


「大丈夫かい?」


 颯爽と華麗に参上したのは爽やかな好青年。野球部キャプテン、犬井いぬい健太けんた先輩だ。


「あ、ありがとうございます」

「いえいえ。怪我がなくてよかった」


 かいている汗でさえ爽やかな笑顔を際立てるエッセンスでしかなく、行動までもイケメンと女子にモテる事が決められているような人物だな。


「廉君大丈夫か!?」


 横から綾先輩の手がにゅっと出てきたかと思えば、次の瞬間には俺の顔は胸に埋められていた。

 そして仕切りに頭を撫でられる。


「怖い思いをしたな。私に甘えてもーー」

「廉、怪我はないみたいね!」


 これ以上の綾先輩の本性を晒すわけにはいかない雫がすぐに俺をかっさらう。


「うん、まぁ。改めて犬井先輩ありがとうございます」

「いいよ。大した事じゃないから。それよりも君が新しく生徒会に入った守谷廉君だね。僕、君に会いたかったんだよ」


 それって、憧れの綾先輩の隣にいる虫に忠告するためとか?


「あぁ、身構えないで。単純に君に興味があるだけだから」

「そうですか」


 ここ最近敵意が多く向けられていたためか、どうしてもそういう風に勘ぐってしまう。

 でもこの人は本心のようだ。


「犬井先輩。よければですが見学してもいいですか」


 生徒会長モードの綾先輩が丁寧に許可を取ろうとする。しかし、犬井先輩のリアクションがない。


「あの、犬井先輩。見学してもいいですか?」

「もちろんだとも! さ、ここでは見づらいだろうからベンチまで行こう!」


 俺が再度聞くと犬井先輩は快く引き受けてくれた。さっき反応しなかったのは聞こえなかったからなのか。

 些細な事に疑問を抱きながらグランド近くのベンチへと案内された。

 犬井先輩には座ってもいいと言われたが、流石に部外者である俺達が座るわけにもいかない。

 心遣いだけ受け取り、立って練習風景を伺う。

 監督の怒声に声を張り上げて答える部員達。そして隅っこでトスバッティングをする部員達もいる。

 漫画でしか見た事がない光景がそこにあった。


「やっぱり気合入ってますね」

「それはそうだよ。甲子園に向けて頑張ってたり、次のレギュラーの座を狙ってるんだから」


 俺の斜め後ろで一緒に犬井先輩も見ているが、あなたは練習しなくていいのだろうか。


「所で守谷君。君、中々いい体をしているね」

「そうですか?」


 特にこれといって運動しているわけではないんだけどな。


「うんうん、下半身とか」


 あれ、なんだろう? 何かを忘れているような。


「特に、お尻とか」


 よし思い出した。松本先生が前にこの人の事について口を滑らせていたな。


「守谷君。この後暇なら僕と一緒に遊びにいかないかい?」


 どうしよう。綾先輩と同じ視線が俺の背中に。

 さらに臀部辺りに何か気配が。


「おっと犬井先輩? この手はなんですかね?」


 パシッと乾いた音が鳴り、振り向く。

 背後にいた犬井先輩の右手をがっちりと綾先輩が掴んでいた。


「やだなー。ただのスキンシップじゃないか」

「スキンシップでお尻を触るんですかあなたは」


 両者互いに笑顔で火花を散らす。


「前から思っていたけど、君邪魔なんだよね。僕のお気に入りの子がみんな君になびくんだもん」


 お気に入りの子って女子の事ですよね。そうですよね!


「それは個人の自由ですよ。私は特に頼んだわけでも、ましてや指示したわけでもありません」


 珍しく綾先輩と対立する人物に会え、本来なら興味を持つのだが、何分話の内容が内容なのでこれ以上関わりたくはない。


「はい、会長も犬井先輩もそこまでです」


 仲介役として雫が割って入る。


「会長、もうそろそろ時間です」


 キリッとした目つきでそう言うと綾先輩は頷く。


「では犬井先輩。今日は見学させていただきありがとうございました」


 綾先輩の一礼に続き他のメンバーもお辞儀をする。俺は遅れて頭を下げた。


「また来てもいいよ。特に、廉君」


 いやー、出来れば遠慮したい。

 俺に向けられる犬井先輩の視線を遮り、綾先輩がもう一度礼をしてから俺達はグラウンドを後にした。


「まったく、犬井先輩が廉君を狙うとは思っていたが。廉君のお尻は私のものだと言うのに」

「違います」

「……もしかして『お尻だけじゃないですよ、俺の全てが綾先輩のものです』という事を察してほしいんだな!」

「違うに決まってるでしょうが!」


 早く終わらせよう。そして、俺の安息の地であるアパートに帰ろう。


「綾ちゃん。次はどうするの?」

「そうだな。ここは文系の部活に顔を出しにーー」

「見つけたぞ、東雲綾!」


 次の目的地を相談していた綾先輩と姫華先輩の話を遮って立ち塞がるユニフォーム姿のサッカー部員。

 確か野球部の近くでサッカー部が練習してるんだっけ。


「ここで会ったが百年目! 今度こそお前からゴールを奪う!」


 以前に勝負して負けたのか、メラメラと闘志を燃やしている。


「さぁ! 東雲綾! 俺と付き合え!」


 はい、分かってましたよこの展開。だってこの人サッカー部エースの真島まじまかける先輩じゃないですか。

 前に松本先生と話した事完全に思い出してるからこの人の事についても、もちろん覚えてる。


「いやだ」


 バッサリと言葉の袈裟斬りを受け、膝から崩れ落ちる。

 その横を綾先輩達はツカツカと歩き去っていく。同情からではないがなんとなくこの先輩を放っておけない。


「あの、大丈夫ですか?」

「あぁ、気にするな」


 立ち上がって膝についた砂を払う真島先輩。


「あの、なんでそんなに執拗に綾先輩に告白するんですか? 前にも何度かしてるみたいですけど」


 この質問に意図などない。単純に告白の原動力が気になった。


「そ、それはだな」


 何故かソワソワしだした。

 言いたくないのか? いや、これはどちらかと言うと何か待っている?


「真島君」


 綾先輩と先に行ったはずの姫華先輩が戻ってきている。


「あ、あぁ」


 プルプルと震えだした真島先輩。まるで子犬のようだった。


「真島君。あなたはいつになったら綾ちゃんへの告白を止めてくれるのかな?」


 笑顔だが、目の奥はギラついている。


「いや、その」

「跪きなさい」


 何言ってるんだこの人。


「はい」


 何素直に聞き入れてんだこの人。

 また両膝と両手を地面につける真島先輩の頭に姫華先輩は片足を乗せた。


「って、何やってんですか!?」

「何って、子豚ちゃんの躾よ?」


 当然の如く言われても俺の理解は追いつかない。


「あ、あぁ! 姫華さん!」


 喜んでるよこの人。


「あら、子豚ちゃんが気安く私の名前を呼ばないでくれる?」


 ゲシッと頭を踏み直すと、さらに真島先輩は興奮していく。


「じ、女王様!」


 目の前で行われるSMプレイに呆然とするが、そんな事をしている場合ではない。

 こんな場面を見られたら生徒会の評判が。


「あぁ、今日も女王様が躾をしていらっしゃる」「俺も躾されたい」「姫華お姉様、素敵」


 羨望の眼差しが集まっている。どうやらこの風景は日常茶飯事らしい。


「今日はこのぐらいにしてあげる。さ、廉君。綾ちゃんが待ってるわ」


 満足した姫華先輩が歩きだし、俺は真島先輩を一瞥してからその後を追う。

 ……真島先輩。あんな放送コードに引っかかりそうな顔をしていたけど大丈夫かな?

 そんな心配事をしていると、俺と姫華先輩は部室棟の近くまでやって来ていた。

 すぐ近くで待機していた三人を見つけ、すぐに合流。


「ここって部室棟ですよね」

「あぁ、主に文系のな」


 掛けられている札を見ながら何処を視察しようかと悩んでいる綾先輩。


「来たのはいいが、何処に行くべきか」

「運動部と違って、活動は、少ない」


 二階まで見たが運が悪いらしく無人が多い。いたとしても活動をしているよりかは時間を潰しているよう。


「もしかしたら教室を借りてるんじゃないですか?」

「その可能性もあるわね。綾ちゃん、一度戻った方がいいんじゃない?」


 俺と雫の意見に綾先輩は首を縦に振る。


「そうだな。一度校舎に戻るとしよう」


 来た道を戻るため階段を下りていると、上ってくる男子生徒と鉢合わせになった。通れるように片側に寄って道を譲る。


「ん、廉?」


 通り過ぎざまに男子生徒は俺を呼ぶ。

 よく見なくても卓也だった。


「おぉ、卓也」


 片手を上げて軽く挨拶をすると、涙を溜めながら、俺の手を握る。


「よかった! お前がいてくれてよかった!」


 まだ出会ってから一ヵ月近くだが、普段の卓也とは明らかに違う。


「頼む! 俺と一緒に部室来てくれないか」

「部室って、アニメ研究会のか?」


 力強く頷く卓也。


「あそこにいるの辛いんだよ」


 そう言えば前にもアニメ研究会に関して相談を受けたっけ。


「前にも言ったが、一度考え直してもダメなら退部すればいいんじゃないのか」

「確かに居心地は悪いかもしれないけど、共通の話が出来て好きなんだよ」


 確かにクラスでアニメ関係を心置き無く話せるのは俺ぐらいだな。と言っても知識量は明らかに卓也の方が上なんだけど。


「廉、その人は?」


 あぁ、そうだ。今は生徒会と一緒に行動してるんだった。


「俺と同じクラスの三島卓也」


 俺と一緒にいる生徒会メンバーに気づき、軽く会釈をする卓也。

 過剰な反応所か平然としているあたり、俺と同じく綾先輩達にさほど興味を示していない。

 まさに類は友を呼ぶ。


「やぁ、三島君」

「あ、生徒会長さん」

「先日は世話になった」


 そう言えば卓也と綾先輩は伝言とは言え一度だけ面と向かって話してるんだっけ。先日と言うのもおそらくその事だろう。


「君はアニメ研究会に所属しているのかな?」

「はい、今日も実際に集まったりしてます」

「綾先輩。もしかしてですけど」


 次に綾先輩が口にする言葉は。


「よし、アニメ研究会を視察するぞ」


 ですよねー。

 まぁ、知り合いがいる分気が楽ではあるけど、今の卓也の扱いを目の当たりにした時俺はどんな反応をすれば良いのだろうか。


「三島君。案内してくれないか」

「は、はい! こっちです」


 目に見えて嬉しそうな卓也の姿に生徒会の立場的にも友人としても断る事は出来ない。

 黙って卓也の後を追った。

感想などありましたから気軽に書いてください。

次回からコメディー作品ではありますが、シリアス展開に突入します。コメディーを期待している方々に申し訳ないです。(ただし生徒会長は平常運転)

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