夏だ! 海だ! ラブコメだ!?(驚愕)4
トイレを済ませ、みんなの元に帰る途中、卓也は俺に話しかけてきた。
「さっきシャワー浴びてきたみたいだったけど、もう泳ぐのは終わりか?」
「違うって。ちょっとコーラが頭からかかっただけだ」
「それってどういう状況だよ」
そう言って眉をハの字に垂らして笑っていた。
「大したことじゃねぇって。それより卓也、飯食ったら趣向を変えて釣りでも──」
「ん? 卓也?」
スレ違った男女四人のグループが、卓也の名前に反応する。
つい、俺達もその場で振り返ってしまった。
髪を茶色に染めた、見るからに陽キャのグループは卓也を見るや否や、こちらに近づいてくる。
「やっぱ、三島卓也だよな! 俺だよ俺! 矢島海斗! 懐かしいな!」
好意的に話しかけてくるグループのリーダーの男。
卓也のことを知っているようだけど、一体……
「卓也、知り合い──」
隣の卓也に視線を向けた俺は、自分の目を疑った。
普段は微笑みを忘れない優男の卓也が、今はひきつった笑みを浮かべ、瞳は微かに揺れている。
俺はこの表情を知っている。
そう、これは中学時代の俺。
周りの人が怖くて仕方がない顔だ。
「ひ、久しぶり。元気してた?」
「元気だったよ! いやーそれにしても、やっぱ間違えたよな」
「そうそう、卒業式の時、ウチらびっくりしたよ。あの三島君がこんなイケメンになっちゃったんだから」
イケメンに……なった?
一体どういうことだ?
「そ、その話は、いいじゃんか」
慌てて話題を止めようとしたが、隣の俺に視線を向けると、矢島はニヤリと笑った。
「なんだ、お前卓也の友人か」
「そうだけど」
少し無愛想に返事をするが、相手はお構いなしで話を始める。
「そっか。もしかしてだけど、こいつがデブで根暗オタクだったこと、知らない?」
矢島はスマホを取り出し、一枚の画像を見せつける。
そこには矢島らしき中学生と、100キロはありそうな太った中学生が弱々しく立っていた。
肩を組んでいるが、太った男子生徒は怯えている様子。
「これ、卓也。全然違うだろ?」
「これが……卓也?」
言われれば、卓也の面影がある。
卓也へ顔を向けると、卓也は顔面蒼白になりながら、俺を見て怯えていた。
「中学の頃は俺達とよく遊んだよな。それなのに、途中から学校来なくなって」
「そしたら、卒業式に激痩せした三島君がいるんだもん。話しかけようと思ったら、すぐに帰っちゃうし。ねぇ、なんでクラス会にこなかったの? 誘ったのに」
「忙しくて、その……」
「まぁまぁ、いいじゃんか。そうだ! 今度夏祭り行くから、一緒に行かね?」
「え……それは」
「行く、よな?」
言葉が出てこない卓也。
我慢ができなくなった俺は一言言ってやろうとしたが、卓也がそれを手で制止させる。
「わ、わかったよ」
「んじゃ、また連絡するわ」
ゲラゲラ笑って去っていく矢島達。
矢島達の態度にはイラついたが、それよりも卓也をどうにかしないと。
こんなにも弱々しい卓也を見るのは初めてで、なんと声をかけていいのか。
「……幻滅したか?」
か細い声だったが、たしかにそう聞こえた。
「なんのことだ?」
「とぼけるなよ。俺の中学時代の写真を見ただろ? 俺はデブで根暗なオタクだった。そのせいで、俺は……」
今にも泣き出しそうな卓也の姿に、胸が苦しくなる。
「ここじゃなんだ。もう少し別のところで話さないか?」
俺はアニキへと連絡を取り、少しだけ卓也と二人で話すことがあると伝えた。
電話の向こうで花田さんの騒ぐ声がしたが、すぐに電話を切り、人の少ない岩礁へと赴く。
ゴツゴツして座り心地は悪そうだが、気にせず座る。
「お前、中学の時、何があった」
「……さっきも言ったけど、俺はデブで根暗なオタクだった。まるで豚みたいだと笑われて、クラスのいじられキャラになってた。ずっと我慢したたけど、ある日、自分の中の何かが壊れて、中学三年の夏休み以降はほとんど学校に行かなくなった」
辛い過去を思い出したのか、溢れ出しそうな涙を拭き取る。
「でも、このままじゃダメだと思って、必死にダイエットして、卒業式に変わった姿をみんなに見せつけた。そして、高校は生まれ変わろうと、誰もいない白蘭学園を受けて、もう中学のことは忘れようと、思ってたのに」
どこかで聞いたことのある話。
そうか……卓也は、俺と同じなんだ。
「なんか、騙しててごめんな」
「なんで謝るんだ?」
「デブだったこと、隠してて」
「それがどうした? もし仮にお前が太ってたとしても、俺はお前と親友になってるよ。どうやら、趣味だけじゃなくて、別のところでも俺とお前は似たもの同士みたいだからな」
「どういう、ことだ?」
俺は自分の中学時代のことを包み隠さず話した。
卓也は驚きつつも、真剣に耳を傾けていた。
「……廉にもそんなことが。俺達って、似たもの同士だな」
「道理で気が合うわけだよ」
互いに顔を見合わせると、思わず吹き出した。
「あーあ、本当に……あの時、廉と出会えてよかったよ」
「入学式前日の時か?」
「そうそう」
入学式の前日、俺は通学ルートを確認するため、白蘭学園に向かって歩いていた。
すると、ぼーっと学校の前で立っていた卓也と会ったんだ。
最初は、変な奴だなーっと思ったけど、背負っていたリュックについてたストラップが、俺の好きなアニメ作品だったから、つい声をかけてしまったのが始まり。
「学校の前で突っ立って見知らぬ奴に、よく話しかけられたよな。しかも第一声が『そのアニメは!? もしかして見てるんですか!?』だもんな」
「いや、結構マイナーだったからつい」
今思えば、中々大胆なことをしたな。
「それじゃあ、もうそろそろ戻ろうか。これ以上はアニキさんに悪いし」
「だな」
「あっ! それと、このことはみんなに内緒な。」
「わかってるって」
俺達は立ち上がり、岩礁を歩いていると、岩陰から、花田さんとばったり合う。
「は、花田さん!?」
しまった! もしかしたら、さっきの会話を聞かれていた可能性が。
誤魔化す内容を考えていると、俺の肩が叩かれる。
「なぁ、廉」
「なんだよ。ちょっと今考え中なんだけど」
「いやな。花田さん、微動だにしてないぞ」
言われてみれば、全く動く気配がない。
「……人気のない、岩礁、……二人っきり……ブバッ!」
鼻から赤い欲望を吐き出しながらその場に倒れる花田さん。
慌てて近寄るが、なんて幸せそうな顔しているんだ。
「なんだ。こんなところにいたのか。話は終わ──おい! 一体どうしたんだ!」
「……一片の悔い、なし! ガクッ」
アニキも駆けつけたところで、花田さんは安らかに眠った。




