強くて、男気溢れるアニキは俺のアニキ(尊敬)1
「というわけなんで、アニキ一緒に行きませんか?」
「急にファミレスに呼び出されただけでなにも聞かされてないからな」
金色の髪をワシャワシャとかきながら鋭い三白眼を向ける高身長の男性。
しかし怒ってるわけではなく、ただ突然のことで困惑しているところで、彼が見た目に反して優しいことが容易にうかがえる。
「そうでした」
今度はしっかりと事情を話す。
「四日後にみんなで海に行くんですけど、アニキも一緒に行きませんか?」
「色々と言いたいことはあるが、とりあえずお前まで俺をアニキと呼ぶのはやめてくれないか?」
と言ってため息を漏らすアニキ、もとい飛鷹さん。
あの日飛鷹さんから連絡先を受け取った俺は次の日にすぐに連絡し、色々な相談を受けてもらっていた。
「でも周りの人達みんなアニキって呼んでましたよね? 前だって通りがかった幼稚園ぐらい子からも『アニキお兄ちゃん』って呼ばれてましたし」
「あいつらが勝手に言い始めて、子供たちにまでうつったんだよ。ったく」
再びため息を吐くが、やはり苛立ちを見せるわけではない。
「でもしょうがないですよ。生き様がアニキって呼びたくなりますもん」
「だからってな、お前までアニキって呼ぶ理由には━━」
「やっぱ、ダメですか?」
ジッとアニキを見つめると、アニキは言葉を詰まらせて長い表情を浮かべ、観念した様子で肩を落とす。
「もう好きに呼べ」
「ありがとうございますアニキ! それで話は戻りますが、一緒に海に行きませんか?」
「まぁ……上の妹に下の妹を任せればなんとか」
アニキをしたって『アニキ』と呼ぶ人はたくさんいるが、実際アニキは三人兄妹の『兄貴』なのだ。
上の妹さんは高校生で、下の妹さんは小学一年生と聞いている。
たしかに高校生の妹さんなら下の妹さんの面倒を見るのに問題はない。
ないんだけど……
「だけど万が一何かあったらどうする。俺がいなくても二人は大丈夫なのか? いやお袋もいるんだから問題は……」
基本表情は乏しい方のアニキなのだが、家族が関わってくると感情が表に出てしまうほど家族大事なお兄ちゃんだった。
「やっぱり妹達が心配だ! せっかくの誘いなんだが━━」
「アニキ、また妹さんに怒られますよ」
「それがどうした。兄貴が妹の心配することは当たり前だろ」
家族を大切にしているアニキだからこそ似合うセリフ。やっぱりかっこいいですね。
カップ持った手がマナーモードみたいにブルブル震えてコーヒーをこぼしていなければ。
「心配なのはわかりますけど、たまにはアニキにも羽を伸ばしてもらいたいはずですよ。普段から家族のために、周りの人のために動いてるんですから」
「だけどな」
その時、アニキのスマホから着信音が鳴り響く。
「もしもし? ああ……今ファミレスだ……いや、あいつじゃない。前に話した守谷だ」
微かに女性らしき声が聞こえる。
話してる感じからすると、上の妹さんだろう。
なら好都合。
「アニキ、一度妹さんに聞いてみてくださいよ。遊びに出かけていいかって」
「は? いや、俺は別に━━ああ、悪いこっちの話だ。守谷から遊びに誘われててな……え? どこにって、海だけど。まぁ、いかないけど。え、なんでいかないのか? それはお前達のことが心配で━━ち、ちょっと待て! なんで俺が遊び行くことになってるんだ!? 一泊二日なんだぞ? その間家のことはどうするんだ? ……ま、待ってくれ! は、話し合おう! な!? だから、嫌いとか言わないでくれ! なぁ! 実里! ……え、千佳が代わりたい? ……おぉ! 千佳! お兄ちゃんだぞー。それでどうしたんだ? ……『わたしたちのせいであそびにいってくれないおにいちゃんなんてだいきらい』?」
下の妹さんの言葉がよほどきいたらしく、虚空を見つめるアニキの目に生気が抜け、スマホがテーブルの上に落ちた。
『おーい、バカにいー。聞こえるー? おーい!』
スマホから応答を待つ声が聞こえるが、アニキはそれに応えられる精神状態ではない。
『守谷さんでもいいから応答お願いしまーす』
とのことなので仕方なく俺がスマホに耳を当てた。
「はじめまして、守谷廉です」
『あなたが守谷さんですか。はじめましておそらく可愛い妹の容赦ない一言で轟沈してるであろう宮口飛鷹の上の妹で、宮口実里でーす』
スマホの向こうから随分とのんびりしているというか間延びしたといえばいいのか、締まりのない声が聞こえる。
『話はバカにいから聞きました。是非連れてっちゃってください』
「誘った身ですけど、いいんですか?」
『構いません。母子家庭ってこともあって随分とバカにいには私達とお母さんのために苦労かけましたから。たまには自分だけのために遊びに行ってほしいんですよ。なんで、私達のことは気にしないでください』
「わ、わかりました」
『んじゃ、今後ともバカにいのことをよろしくお願いします』
そこで電話が切れた。
スマホはアニキの目の前に置き、改めてアニキに視線を向ける。
ようやく立ち直ったのか、少し考えるような様子を見せていた。
「誘った俺が言うのもなんですが、行く気がないなら行かなくてもいいですから」
「いや、行こう。考えてみれば、誰かに誘われて遊びに行くなんて何年もしてなかったしな。それに遊びに行けばあいつらも少しは安心するだろうし」
結局遊びに行くのも家族に心配させないためなんですね。
「じゃあ、姫華先輩に伝えておきますね」
さっそく姫華先輩にメールでアニキの参加を知らせる。
すぐに姫華先輩から「了解〜」と返信がやってきた。
「アニキが来てくれてよかったです。あ、後でやめたとか言いませんよね?」
「男に二言はない。ちなみに何人行く予定なんだ?」
「そうですね……」
水原先輩は花田さんを誘うと言っていたし、沙耶未も誘うつもりだったが、それは雫がしてくれるらしい。
そしてアニキと会うよりも前にメールで卓也の参加も決まっている。
「アニキ含めて十人ですかね」
「結構な人数だな。まぁ、俺は保護者枠になるだろうがな」
「否定はできませんね……さて、前置きは済みましたので、本題に入りましょうか」
「……ん? どういうことだ? 俺を呼び出したのは、海に誘うためだと思ってたんだが」
間違いではないんですけど、こっからが本題なんです。
神妙な面持ちで肘をテーブルに置いて両手を絡ませる。
「どうすれば綾先輩から貞操を守れると思いますか?」
「やっぱり不参加にしてもらっていいか?」
「男に二言はないんですよね?」
と、俺が返したところでアニキは苦い顔で手を額に当てた。
ちなみにアニキに色々相談していると言ったが、あれは綾先輩関係がほとんど━━訂正しよう。全部綾先輩関係だ。
つまり、元次さんと同じく綾先輩の事情を知った俺の協力者なのだ。
「相談にのるとか言ってお前に連絡先教えたことを今さらながら後悔してるよ」
「でもなんやかんやでちゃんと聞いてくれますよね」
「約束したからな」
律儀な人だな。
でもそれがアニキのいいところなんだけどね。
「だが何度も言ってるが、俺と東雲はあの日しか会ってないから、その時の印象しかないぞ。仲間思いのいい奴だと思っていたが、まさかストーカーだったとは」
「ストーカー気質がなければただの良い美少女ですからあの人」
「ストーカーにもそんな評価できる守谷のそういうところ尊敬したくなるよ」
「ありがとうございます。でもそのストーカー気質のせいで常に俺の人生ベリーハードなんですよ! 選択誤ったら大人の階段を登るどころか父親の自覚をさせられるんですよ!!」
「わかったわかった。だから落ち着け」
アニキになだめられ、少し興奮してしまった自分を落ち着かせる。
「とりあえず東雲に関しての情報がほしい。最近東雲と何かあったか?」
「……言わないとだめですか?」
「無理にとは言わないが、まともな対策やアドバイスが期待できなくなるぞ」
奥歯で苦虫を噛み潰し、仕方なく昨日のことを話し始める。
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