始まりの前。
「大丈夫、だよ?」
ボクを守るように、それぞれの武器を、その身を構える皆に聞こえるように声を出す。
――皆が、大好きな血の繋がらない家族が、命令されただけなのに命懸けで守ってくれる乳母が、乳兄弟だからって言いながら沢山のものから守ってくれる親友が、代々忠誠を誓っていくれている一族が、今は亡き祖国に剣を捧げた騎士達が、弱いボクの代わりに戦っている冒険者の皆が。
此方に、魔法円、魔方陣の中央で祈るように手を組んでいるボクを見つめている。
「ボクはこの為に、この時の為に、生まれてきたんだから」
ボクは此処に、大地に穢れを、死を撒き散らす邪神を封じ込める為に生まれた。
正確には、生まれたその瞬間に、代々決められた儀式によって選ばれて、ボクに適性があるから決まったんだ。
「大丈夫」
今は術式を刻み付けた台座のある神殿に、その台座の中央に在るのだから。
お爺ちゃん、お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、血の繋がらないボクに感情を、愛情を、教えてくれてありがとう。
マーヤ、自分の子供のように愛してくれてありがとう。
リディ、弱虫のボクをいつも助けてくれてありがとう。
バルト、一族の人達も、守ってくれてありがとう。
アイギス、イルデパン、ウィリアムズ、エイリアス、オルカ、国を亡くした、駄目にしたボク達の代わりに多くの国民を守ってくれてありがとう。
ガドさん、ギルさん、グードニアさん、ゲバルテニアさん、ゴドハルトさん、守ることの難しさを、救うことの大切さを教えてくれてありがとう。
「大丈夫、だよ」
薬や儀式の為の術式で、数年前までのボクには感情は無かった。
正確には、奥底に封じられて沸き上がることもなく、また、自分自身で理解することも、感じることもなかったんだ。
「ボクはこの為に生まれてきたんだから」
笑顔で、今のボクは笑顔で皆に言えているだろうか。
――怖い。
邪神封印の儀式を行ってきた代々の王家の生け贄になった先祖達は、こんな気持ちだったのだろうか。
目に少しだけ、ほんの僅かに涙が滲んできた気がする。
見も心も魂すらも、この儀式で捧げて邪神を封じ込める。
全てを、全身全霊を捧げて行う。
今まですらを失う恐怖。
それを気付かれないように目を細める。
「皆に沢山のものを、気持ちを、思い出を貰ったから、ボクは大丈夫だよ」
声が、震える。
――だから。
「――だから、みんな、泣かないで」
皆の笑顔が、ボクは大好きだから。
大丈夫。
大丈夫だから。
少し、ほんの少しだけ、怖いだけだから。
「ボクは、みんなが笑顔なのが、みんなの笑顔が大好きだよ!」
魔力が術式に満ちると、神殿全体に広がるように光が溢れていく。
顔に力を込める。
笑顔。
出来る限りの、心からの笑顔で。
「――これからを、これからも笑顔で生きてね!!」
太夜明けの太陽よりも白い光が、世界を塗り潰した。
のりではじめた。こうかいはしてる。