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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第80話 未来無双

 

 第80話 未来無双


 視点 神の視点   ※文法の視点名です。

 場所 クイーン王国 ナナクサ村

 日時 2033年 4月4日 午後 6時02分



 凪紗南未来様以外にとっては、それは不思議な光景だった。

 左右二つに分けた白雪が太陽の光に輝いたような銀の髪が特徴的な女性 未来様の腕部から指先まで少しも動いていない。そう、未来様以外の方には見えただろう。


 実際は未来様が危険種動物の中を歩く度に邪魔になった危険種動物を目にも止まらない腕の動きで日本刀 夢幻むげんを振り、屠っていた。

 まるでそれは未来様の通行の邪魔にならないように、勝手に危険種動物達の首や腹部、足、腕が分解しているように見えた。

 血の道は真っ直ぐ続き、未来様の邪魔をする障害物はいなくなった。

 未来様が握り締めている日本刀 夢幻には”血が一滴も着いていなかった”。それだけではなく、着ている華やかな着物にも、白いアルビノの肌にも、返り血の一滴もない…………。

 日本刀の振り上げと返しに起こる刀風だけで未来様は倒していた。


 その未来様の戦闘シーンを黒猫 リルは馬車内でこう、感じていた。りりすスクールの子ども達がりりすにお願いして買ってもらったドラ〇エシリーズの強くなったパーティーのスライム狩りのようだ、と。ちなみに黒猫 リルはフ〇ーラ派、リルのご主人様 りりすはビア〇カ派である。


 黒猫 リル「にゃん、にゃーん、にゃん(世の中、理不尽な存在がいるにゃん。リルは理不尽な存在代表 りりす第二皇女様の庇護の下、美味しいお魚と安全な寝床でニート生活にゃん)。にゃーん、にゃん(りりす第二皇女様の生活レベルも正式な皇女様として日本に向かい入れられれば、遙かに向上にゃん!)! にゃーん、にゃん! にゃー、にゃん(万歳 りりす様、りりす様! に栄光を、りりす様に永遠の勝利を)」


 メイヤ「不安なのは解ります。でも、暴れないで私の肩の上ぇー。猫、空気読めない」


 今日も黒猫 リルは言葉の通じない人間に気まぐれキャットと誤解されるのであった。


 一方、聖女 アイシャ・ローラント様は未来様の剣技を参考にしようと目だけは未来様の動きに集中し、羊飼い達にあっち行けとの意で手を振っていた。


 アイシャ「雌豚の方々、戦闘の邪魔です。馬車に乗って下さい」


 羊飼いのロリ少女1「あ、あのー、あのー、羊――――」


 アイシャ「――――載せなさい。雌豚達が馬車で窮屈するのは少しの間だけです。未来様は強いですから瞬殺です」


 労働基準法に確実に抵触している工場長のどんよりとした瞳より尚、暗き朱い瞳が未だ、馬車に羊を載せるべく、もたついている羊飼いを見る。

 見るのと同時についでに聖剣 ローラントで馬車に近づこうとしていたスモールゴブリンの心臓部を突く。スモールゴブリンはばたりと仰向けに倒れて絶命する。

 その哀れな姿を見届けることなく、聖女? アイシャ様はまた、淡々と羊飼い達に指示を送る。決して感情を荒げない作業のような声の掛け方で。


 アイシャ「雌豚さん達、ロリ体型なんだから一人で羊を持ち上げないで、二人~三人で行きなさい」


 羊飼いのロリ少女1「雌豚って言ったよ、やっぱり」


 羊飼いのロリ少女2「そ、そんな。きっと、愛称よ」


 羊飼いのロリ少女3「うん、うん、あたしもそんな気がしてきた」


 そんな羊飼いのロリ少女達のありがたい希望的観測をアイシャ様は全然、理解していない。

 アイシャ様の脳内記憶は全て、愛する小学生のような体型のイヴ皇女様に関することに使われている。よって、アイシャ様は義務を果たしたとばかりに未来様の戦闘見学とついでに馬車に近づく、危険種動物狩りを再開させる。


 未来様はベルトコンベアーに載っている出荷製品の最終チェックをしているかのような淡々とした美しい基本という名の王道を極めた刀の技のみで、危険種動物達を紙切れのように処断してゆく。

 それはまさに古来より静寂な美とされた日本の大和撫子と、己の理想と民の理想を体現しようと凜々しく闘う戦女神の両方の魅力を兼ね備えた死の舞。


 危険種動物の群れは未来様の姿を見るだけで……あるモノは震え、あるモノはせっかく食べた村人の身体を嘔吐し、あるモノは失禁し、あるモノは脱糞し、あるモノは発狂の叫びを上げた。

 しかし、未来様は止まらない。銀色の鋭い殺気を帯びた両眼は危険種動物をただ、未来様が片想いをしていたお兄様 勇者である凪紗南春明様の娘 凪紗南イヴ皇女様の国土を荒らす害虫としか、認識していない。


 故に、もう、危険種動物の群れのラストエピソードは決まっている。


 ミニマムウッドマンが粉々に未来様によって加工される。自分がただの木材になってゆくことにすら、ミニマムウッドマンは気づかなかった……。

 スモールゴブリンの長い鼻を未来様は躊躇なく、切り落とした。スモールゴブリンが自分の鼻を押さえようと右腕を1㎜程、動かした時には緑肌の頭部は消えていた……。


 成人男性を3人分、積み上げた身長と同じ巨体のパワーヘイドベアが未来様の背後から突進しようとした。だが、後10mで突然、パワーヘイドベアの巨体を支えていた4本の脚が切断されて、巨体はコントロール不能に陥り、民家の石壁に突っ込んで脳漿を撒き散らしながら絶命した。それを成した未来様の才に溢れた刀の捌きの返しは、夜の闇に隠れて大空を飛ぶ数匹のワイルドウィング、ソニックバートの両翼を根元から切断した。当然、3階ほどの民家と同じ高度にあった数匹のワイルドウィング、ソニックバードは空を掴む翼を失ったのだから……落下して絶命した。その間に自分のみに起こったことが理解できずに……ただ、頭を振り、混乱することしか、数匹のワイルドウィング、ソニックバードにはできなかった。


 コルティール鹿が未来様の横から突撃しようとするが……到達する前にコルティール鹿が脚の筋肉を動かしていた瞬間に行動を予測していた未来様の日本刀 夢幻の空気を払った一撃により、吹き飛ばされた。吹き飛ばされたコルティール鹿はチャームポイントである雄々しい二本の角を民家の屋根に突き刺し、突き刺した衝撃で首の骨が折れて絶命した。


 未来「すまないな、愚か者の為に。だがな、我々、人間も生きなければならん。死ぬ為に産まれてきたわけではない。幸福を享受し、誰かを慈しむ為に産まれて来た。その為に殺そう。ただ、ただ、刀を振るう」


 未来様の両足が爆発的な白いSOULの輝きに染まる。

 染まった際の爆風と土埃により、未来様の周囲 10mの危険種動物達は全く身動きがとれなくなり、ただ、弱々しく鳴くしかなかった。

 頬を叩く風に踊るツインテールを手で払った後、未来様は日本刀 夢幻を構える。

 構えた五本の指先の白い肌が赤く充血する。


 未来「速度を上げるぞ。これで終わりだ。次の人生の幸福をお前達の神に祈れ。凪紗南流 瞬陣斬」


 そして、未来様の姿はあまりに速すぎて影さえ確認できない一陣の風のようになった。


 危険種動物達の肉がぐちゃりと裂かれ、断末魔の悲鳴を上げる場所になんとなく、未来様はいるんだなと村人達は他の危険種動物達と戦いながら、イヴ女王様の叔母の強さに興奮した。

 ここ、第二防衛ラインに集まった人間は村の力自慢ばかりだった。自然、勇者様の妹であり、日本の英雄であり、天皇代理様でもある凪紗南未来様に憧れる者ばかりであった。


 *


 やがて、地の底から唸るような断末魔の悲鳴が数百度、数えるのも馬鹿らしいくらいに重なり合った戦場の敵残存勢力は残すところ、直接、村人達が対峙している危険種動物 数体のみとなった。

 その鬼神の如き、未来様の強さに危険種動物と対峙しながら、村人達は口々に感想を述べる。


 若い男性村人1「あれがLevel15000オーバーの人間を越えた人間の戦い。いや、戦いにすらなっていない。圧倒的すぎる……」


 若い男性村人1はスモールゴブリンと剣を合わせながら、そう呟いた。その瞬間、剣が軽くなった。


 スモールゴブリンの胴体から上が綺麗さっぱり、地面に落ちていた。


 若い女性村人1「未来様の凪紗南流ってあれ、暗殺剣に転用できるよ。……あんなに素早くては誰にも気づかれない……」


 偶然にも凪紗南流の本質に気づいた若い女性村人1を目掛けて、スモールゴブリンが剣の突きを放つ。だが、その剣の刃は折れて……スモールゴブリンの首は吹き飛んだ。


 そのような現象が村人達の対峙している危険種動物達に起こった。


 まもなく、危険種動物の群れは大方、凪紗南未来様の活躍により、全滅に追い込むことに成功した。


 *


 戦の嵐が吹き抜けた村は危険種動物の猛攻を受けてほぼ、廃墟と化していた。復興には時間がかかるだろうと未来様はナナクサ村を見まわす。

 ある家屋の井戸の底にはスモールゴブリンの死体が浮かび、血の水になっていた。おそらく、気味が悪いのでこの井戸は使われなくなるだろう。

 数々の家屋の石壁が何処かしら、穴が開き、随分と風通しがよくなっている。迅速な修繕の為に多くの職人を招く必要があるだろう。

 そんなことを未来様は思案しつつ、危険種動物達の死体や、村人の死体を踏まないように気をつけながら歩いていた。


 未来「一番の問題は……ナナクサ村の中にこうも容易く、危険種動物の侵入を許したことにある」


 危険種動物の侵入を防ぐ結界を張るアイリーンクリスタルはここ、ナナクサ村にも存在している。

 当然、クイーン王城にあるアイリーンクリスタルと同じように、インストールされたノエシス情報により、その情報者のlevelより2倍以下のlevelの危険種動物は近寄れなくなる。

 その効果がもう、この村にはないことを危険種動物の侵入は物語っていた。通常ならば、村長がすぐにイヴ女王様の下に知らせるのが通例だ。

 未来様は苦虫を噛んだような渋い表情を浮かべた。


 未来「遅らせたな……、イヴの心労を考えて。馬鹿者……」


 その未来様の独り言を聞いた未来様に代表して挨拶を述べる為に歩を進めてきたウィル・ブランが未来様にアイリーンクリスタルの真相を伝える。


 ウィル「俺は村長に抗議したんだが、それは優しさとは違うと」


 そう、困惑した顔で述べる大男の腰は若干、未来様の前では低くなっていた。


 未来「それでこのザマか。ここの村にナリスがいるから、とイヴが個人的に顔を出しすぎたな。いや……皇女の優しさが毒にも、薬にもなる。今更、詮無きことか」


 夜空を見上げて、「無事でいるはずだ。頼む、りりす」と呟いた後、未来様は仕方ない私のノエシス情報をアイリーンクリスタルに組み込むか。……他にも同じ村や街、施設があるかもしれん。それは後回しか。まずはここのクリスタルをイヴに事後報告で、と考えを纏めた。


 ウィルとその後を追ってきたウィルの妻 ナリス・ブランに未来様は視線を向ける。


 未来「あれは死んだ義妹に喜んで欲しくて、背伸びをする。そんな危なっかしいところを料理人として館に来るお前達の娘 メイシェ・ブランには注意深く、見てもらいたい。だが、同級の友としての視線で頼む」


 ウィル「その優しさを厳しさだけではなく、イヴ女王様に見せた方がよろしいのでは?」


 ナリス「そうですよ、きっと、リン様もお空の上でそう思っています。私のドジ 30回分をチップにしたっていいですよ」


 未来「………私がいなくなる前に、イヴの頂点としての気構えを完璧にしなければならない」


 ウィル「縁起が悪いですよ……」


 未来「すまん。しかし、まだ、世界は新しい形を求めて鳴動を繰りかえしている。そういうことも覚悟せねばな」


 そう言うと、未来様はしばらく、聖女 アイシャ様が未来様に次の方針を尋ねるまで黙った。







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