表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
89/139

第78話 慈愛の雨

 

 第78話 慈愛の雨


 視点 神の視点   ※文法の視点名です。

 場所 クイーン王国 ナナクサ村

 日時 2033年 4月4日 午後 5時57分



 咲良「わきまえろ。新羅家当主 新羅咲良。拳、最強」

 

 そう宣言した新羅咲良の黒い革手袋はセトの鮮血で染まり、今もセトの臓器や肉片から流れてできた血の海にその血は垂れて同化してゆく。

 盗賊達にとっては恐ろしいことに盗賊王の右腕を瞬殺したベレー帽を被った緑髪のロリ少女は今にも眠気に負けそうな欠伸をしている。

 そんな睡眠しそうな系ロリ少女 咲良の凶暴な拳の威力を想像したのか、盗賊達は自分達が恐怖のあまり、自らが落としてしまった宝箱の存在をすっかり忘れて我先に逃げようとした。

 

 盗賊1「冗談じゃない! 盗賊王の2番目に強い竜変身した竜族のフェリスタさんと3番目に強いセトさんを瞬殺したんだぞ! 俺らが束になっても適わない!」

 

 盗賊2「こんな時化た村の物なんてたかが知れている。命が在っての物種だ。ずらかろう」

 

 盗賊3「ああ、そうだ。ずらかろう。もう、充分、殺した。これでも、この国の女王 イヴ様の精神的なダメージに繋がるはず。盗賊王のお遣いも済ませたことになる」

 

 盗賊4「盗賊王も無茶なこと言うはずがない! 新羅家の当主と闘えなんて……」

 

 盗賊達は口々に自分の弱さと卑怯さを口にして、ナナクサ村の外れへと駆け出そうとする。

 慌てて駆け出す約600名の盗賊の群れを咲良は追いかけようとしなかった。それに対して駄菓子屋の娘 ナノナや漁師の息子 クッキア、ナナクサ村所属地方騎士隊長 ロジャーは疑問に思った。ロジャーがその疑問を、目を擦りたくても黒い革手袋が血で汚れているので擦れずにどうしよう? と首を傾げている咲良にぶつける。

 

 ロジャー「どうして、逃がしちゃうんですか! 咲良様! うぉーえぇええー」

 

 ロジャーはすぐにお菓子の空袋に胃の内容物を再び、吐き始める。実に4袋目だ。相当、咲良のバーベル持ちダッシュが堪えたようだ。

 咲良はロジャーの問いには答えず、息を切らせて逃げてゆく盗賊の群れの上空を指差す。

 咲良の指を頼りにその指指す上空へとロジャー、ナノナ、クッキアが目線を向ける。3人共に上空のあり得ない光景に目を見張った。

 

 凄いイケメンが上空から地上を目指して降りてくる。

 黒い髪を強風に晒して、アイロンの効果がビシッと出ていていて、しわが少ない身を預けている大空と同じく夜色のモーニングコートを身につけた男性――――両世界を救った勇者パーティーの一人 雨雲英が左眼眼帯の異様さには似合わない人の良さそうな笑顔を浮かべてこちらを黒い色彩の右眼で眺めている。

 その優しげな右眼の視線とは裏腹に左右2本ずつ帯剣、帯刀した武器のうち、左腰に帯刀している銀縁の鞘を片手で握り締め、右手は銀縁の柄を握り締めている。

 銀縁はイヴ女王様と同じく神秘的な銀色の輝きに満ちている。その銀縁の美しくも鋭い姿が英の手によって解き放たれる。

 凄いイケメンが上空から地上の”何処へ斬りつけようか?”と狙いを定めた。

 

 英「逃がしませんよ、何人も。雨雲五月雨あまぐもさみだれ流 天ノ太刀あまのたち 波動式」

 

 雨雲英は容赦なく、上空 14000mから竜族の盗賊の頭部中心へと日本刀 銀縁の刃先を当てた。白銀の刃先は豆腐のようにするっーと竜族の盗賊の頭部中心へと侵入していき……喉頭を半分に斬り、気管、上大静脈、大動脈弓、心臓、横隔膜、肝臓、胃、横行結腸、回腸、膀胱の順に切断した。

 

 右半分、左半分になった竜族の盗賊が絶命し、地面に血飛沫を飛ばしながら倒れたと同時に英の振るった一撃の剣風とそこに込められたSOULによって、莫大な破壊力を帯びた強風が生じた。

 その益荒男の如き風は盗賊の群れの金切り声さえも無にする咆哮を上げながら、次々と盗賊の身体を破壊してゆく。

 もはや、誰の者かも解らない臓器や血、肉片が交じり合い、透明一色だった風にどす黒い朱色が加わる。

 ただ、絶望一色の悲鳴だけが盗賊の群れにできる最期の反抗だった。

 

 約600名のうち、400名が心臓や首の血管、脳をやられて即死した。

 残りの200名のうち、180名が腕や脚などを切断し、このまま、輸血をしなければ……死んでしまうだろう。いや、その前にHPが0になって180名の盗賊は心臓を押さえながら、心臓をハンマーで打ち付けられる痛みに数秒間、苦しみ……そして、泡を吹いて絶命した。

 残りの20名は英の技の爆心地から遠かった為、腕や脚の一部分だけの欠損に留まったが、欠損した時の痛みに耐えきれずに……白眼を向いて天を仰いで倒れていた……。

 

 圧倒的なLevelの差を見せつけるつもりはなかったのに、見せつけてしまった両世界を救った英雄の一人 雨雲英は日本刀 銀縁に付着した血液をモーニングコートの裏ポケットに入れていたファクトリー製油塗紙で拭う。

 血に染まった油塗紙を盗賊の群れの死体が生みだした血の泉へと投げ捨てる。

 はらはらと……舞うように血染めの油塗紙はお空の旅を楽しみ、地獄へと入国した。きっと、英の代わりに地獄に墜ちた盗賊達の末路を見学してくれることだろう。

 

 たった今、盗賊の群れに裁きを加えた人物はそうとは思えない爽やかな微笑みを浮かべて、振り向きざまに咲良、クッキア、ナノナ、ロジャーへと謝罪をする。

 

 英「やぁ、皆さん、すいません。ごめん、咲良君、全て倒すつもりだったのだけど」

 

 咲良「OK。眠い、好都合。面倒なる前、殺す」

 

 咲良的には非常に眠かったので……残りがまな板のお魚状態になるのは大歓迎だった。

 早速、気絶している盗賊の一人の心臓部位を足で踏みつぶし、破壊する。

 うっ、と低く唸っただけでその盗賊は地獄へと旅立つ。

 

 ロジャー「じゅ、充分ですぅーよ。あはっはははは! いやぁー、助かりました。さすが、慈愛の雨 雨雲英様」

 

 ロジャーはやっと、ゲロ地獄から復帰して快調な喉で英を賞賛する。微妙に腰が低くなっているのをクッキア少年とナノナ少女はダサいと思ったが……英雄 雨雲英にそういう態度に出てしまうのは仕方が無いとも思った。

 両世界の子ども達が憧れ、子ども達のみんなが雨雲英の娘 ららと替われるモノならば替わりたいと願うほど、雨雲英は理想のお父様像だった。

 

 定規を背中に入れたような背のぴんとした英の姿を見ると、ナノナは自然と独り言を口にしていた。

 

 ナノナ「あんなお父様、私……ほしいなぁ……」

 

 その言葉に対して英は片手間に日本刀 銀縁で盗賊を始末しながら、ナノナの言葉に応える。

 

 英「それは光栄ですが、君のお父様はこの世でたった一人であり、今まで君を護ってきたでしょ?」

 

 ナノナ「はい」

 

 英「それじゃあ、大事にしないとね。お父様がいる。君がいる。その両方が君とお父様にとっての幸福なんですから」

 

 ナノナ「はい」

 

 ナノナのほんのり赤くなった頬を鈍感ショタ少年 クッキアは勘づいて少しむっとした。男の嫉妬は見苦しいものだが、クッキアが嫉妬したところでただ、可愛さが上がるだけだった。男としては不名誉かもれない。

 

 英「君と、そこの男の子君は大丈夫でしたか? 怪我はありませんか?」

 

 ナノナとクッキアを英は心配していた。自分の娘と丁度、同じくらいの年頃の子になるとどうしても、自分の娘の姿と重ねて見てしまうのだ。

 ナノナとクッキアは素早く、憧れの英雄の言葉に反応する。

 

 ナノナ「怪我はありませんでした」 クッキア「怪我はないです」

 

 英「そうですか。それは良かったです」

 

 ナノナとクッキアにそう、言葉を優しく掛けた後、英は盗賊達の死体に混じって、自分が駆け付ける前に死んでいた村人達の中に自分の娘 ららと同じ年頃のアリス族の少女を見つけた。その少女は無惨にも両足を切断されて死んでいた。きっと、この傷ではHP0にされたことで起こる心臓発作に違いない。

 少女の一時の眠りを目覚めさせないように静かにしゃがみ、眼を瞑り死んでいるアリス族の少女の黒髪を撫でた。

 

 英「よく頑張ったね。大丈夫。僕の親友の娘さんが転生神とお友達だから転生神がどんな人物か、よく知っています。君の転生宮での生活は怖くないよ。もう、こんな怖いことはないんですよ…………」

 

 ロジャー「あ、その子は………」

 

 英「知っているんですか?」

 

 ロジャー「ええ……。俺にも4歳の娘 キミーがいるんですけど……そのキミーによくおやつ時に出来たてのパンを食べさせてくれたパン屋の娘 8歳になるグレノちゃんです。可哀相に…………何故、この子が……」

 

 悲痛な表情を浮かべる中年の男性 ロジャーの声は渋みを増していた。

 ロジャーの薄黒い影が揺れる。

 啜り泣くロジャーの声が聞こえた。

 

 その声にどうしたの? と思ってロジャーと英のところへと寄ってきたナノナとクッキアが立ち止まり、

 ナノナ「え……」  クッキア「あ……」

 と間抜けな声を上げる。

 

 グレノ・ファティカはナノナとクッキアの同学年の同じクラスの子だった。

 グレノは男の子に混じって遊ぶのが大好きでよく、夕方までクッキア達、男の子に混じってボール遊びをしたり、かくれんぼをしたり、競争をしたり、と様々な思いつく限りの遊びをした。

 そして、疲労感の代わりに充実感を手に入れた身体でグレノは駄菓子を買いに駄菓子屋に行き、そこで店番をしているナノナとガールズトークをするのが日課だった。

 

 二人はこれまでも、病気に負けて死んでしまった友達、危険種動物の喰われてしまった友達、崖から落ちて死んでしまった友達、グレノのように盗賊に殺された友達など、原因は様々だが…………多くの友達を見送ってきた。しかし、命の重さはみんな、同じ価値で二人にとってオンリーワンだった……。

 だからこそ、クッキアとナノナは涙をぽろぽろと零した。

 

 クッキア「お空に行ってしまったんだね……。まだ、一緒に遊びたかったのに……」

 

 ナノナ「いつでも……いつでも……グレノちゃんが大好きな美味だ棒 コンソメ味を用意して待ってる……待ってるから化けてでも……」

 

 子どもの涙はいつも純粋だ。だからこそ、英雄として何度も敵、味方を問わずに人の死に向き合ってきた英にもそれが人の死を初体験したように重く響く。

 

 しかし、その響きに悲壮感を覚えている暇はなかった。

 

 ナノナ「そうだ……。”イヴ女王様なら、グレノちゃんを治せるかな?”」

 

 クッキア「そうだね! 頼んでみようよ……。イヴ女王様は勇者様の娘様なんだ! きっと、”グレノちゃんを治してくれるよ”」

 

 悲壮の中にイヴ女王様という希望の光を勝手に見いだした二人の喜びをロジャーと英は否定することはできなかった。

 何故ならば、本当に嬉しそうに笑い、嬉しそうに涙を流していたのだから…………。

 

 イヴ皇女様に掛かる負担を考えない純粋すぎる子ども達の願いに絶句する英の背後から眠そうな咲良の声が聞こえる。

 

 咲良「イヴ様、全て、救う。本質、仕方ない。憧れ」

 

 その一言、一言が恐ろしいくらいに重かった。まるで、咲良の希望がその台詞全てに詰まっているようだった。

 急に新羅咲良という存在が解らなくなった英はすぐに振り返り、咲良を確認する。

 

 そこには忍者の黒装束とベレー帽という微妙なファッションセンスを醸し出している背中まで伸ばした緑色の髪の睡眠系ロリ少女 新羅咲良がぼっーと立っていた。

 眼を開けたり、閉じたりをゆっくりと繰りかえしている蒼い瞳は通販番組を見すぎて疲れたんだなという印象を受けるだけだった。

 咲良の両肩に大人しく、イヴ皇女様に仕えている二匹のコウモリ アフィデータ、アイロが羽根を休めている。

 英は何てこと無いちょっと、強い普通の少女ではないかと思い直した。

 

 咲良「虫、潰した。虫、殲滅。次、どう?」

 

 英「そうだね……。咲良君とロジャーさんは子ども達を近くの避難所に。僕はそこらにいる危険種動物の群れを潰して回ります」

 

 ロジャーと咲良はそれに賛同するという意を込めて頷く。

 だが、その英の的確な判断に意を唱える者がいた。

 

 ナノナ「待って下さい! 私達に私の家に忘れて来ちゃった空猫のみーちゃんを連れ出す時間を。お願いします」

 

 英「それは駄目ですね」

 

 ロジャー「ああ、悪いけど……人命が最優先だ。みーちゃんの無事を祈りなさい、リンテリア神様に」

 

 この場にいる全員がそれは解っていた。

 異世界 リンテリアは中世と同じ文明レベルであり、危険種動物の跋扈や無法者が多い。だからこそ、人命を何よりも優先する。その考えがこびりついている。

 ヒトラーの転生者 真田心愛の口癖の一つである”命は弱さを許さない”を体現したような厳しい1面のある世界……それが異世界 リンテリアだ。

 

 ナノナは少し迷ったが英とロジャーの言葉に頷いた。

 続いて、クッキアも頷く。

 

 英「さぁ、長居は無用です。出発をしましょう」

 

 こうして、雨雲英は危険種動物の群れを見つけ次第、潰しに。

 それ以外のロジャー・バートン、新羅咲良はクッキアとナノナを護衛しつつ、近くの避難所へ。

 二手に分かれることになった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ