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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第76話 無謀な勇気

 第76話 無謀な勇気


 視点 神の視点   ※文法の視点名です。

 場所 クイーン王国 ナナクサ村 ナナクサ小学校

 日時 2033年 4月4日 午後 5時30分



 少年の初恋は弱虫だった少年の心を変えた。

 初恋は常に純粋な想いで人を変えてゆく。だから素晴らしいのだ。だから人は愛するのだ。そう、少年に教えてくれたイヴ女王様の護衛役 新羅咲良は恐ろしいくらい舌足らずだった。そして、恐ろしいくらいの想いで動いていた。

 興味が沸いて、少年――――漁師の息子 クッキア・トースは聞いたのだ。


 クッキア『咲良様は! イヴ様のことが好きなんですか?』


 イヴ『それは予も気になるぞ』


 咲良『ん、友情、愛情、越える。ずっ友』


 クッキア『咲良様、眠そうに喋るから意味が解りません』


 イヴ『ずっ友だから、その想いで予を護ってくれているのだ』


 咲良『ずっ友』


 その後、どうすれば、心が強くなるのか? 咲良にクッキアは聞いた。


 咲良の言っていた通りにいつか、好きと告白できるくらいの勇気を身につけるべく、様々なことに挑戦し、心を鍛えている。

 今も避難先のナナクサ小学校の一室でクッキアは竹刀を振るい、続けてる。8歳のクッキアにとってそれはもの凄く、腕に負担の掛かる心の修行だった。

 咲良はこの修行の意義についてクッキアにこう言っていた。


 咲良『腕、強くなる。武器、軽く感じる。快適』


 クッキア「はい! 咲良先生!」


 今では眠そうにしてばかりの緑髪の少女 新羅咲良はクッキアにとって、目指すべき精神力の強い先生役だった。咲良には先生と呼ぶことを了承してもらっていないので、クッキア自身が勝手に呼んでいるが、尊敬の念は本物だった。


 イヴ皇女様のナナクサ村視察 最終日にナナクサ村を古参のハンターが10人掛かりで初めて倒せるといわれているシルバーウルフが襲いに来た際、咲良は拳の一撃でシルバーウルフを上空 100mまで吹き飛ばし、村の中心部にその危険種動物の死体入りの大穴ができた。ボロ雑巾のようなシルバーウルフの死体を見て、誰もが新羅家の拳に感動した。その事実があるからこそ、新羅咲良のような強くなさそうに見える存在にクッキアが憧れているのも村人達は生暖かく、見守っている。


 その視線に当のクッキアが気づく様子はなく、汗まみれで努力する姿を数多くある教室の一室にいる同級生の女子達が「クッキア、良いよねー」と一目惚れの視線で眺めているのにも気づいていない。典型的な鈍感主人公体質に進化していた。そして、クッキアが告白する前に一番、長い黒髪が綺麗で可愛いと同級生達から言われている駄菓子屋の娘 ナノナ・シイアからも「クッキア、良いよねー」という視線で時々、見られていることに気がついていない。

 そのナノナが憂鬱な眼差しで緊急に板を叩き付けた窓枠を眺めていた。


 不安な気持ちを隠さずに周囲に発しているナノナに気がついたクッキアは日課である1000回素振りを途中で止めると………クッキアはナノナに話しかけることにした。

 ナノナの綺麗な横顔がはっきりと見える位置に近づく度にクッキアの心臓が早鐘を打つ。緊張で声が上擦りそうなので、クッキアは「どうしたの?」という言葉を何度も脳内で繰りかえす。

 これで完璧だとナノナの前に来たクッキアは自分のできる限りの渋い表情を浮かべる。


 可愛いショタ系だと村人達から評判のクッキアがそんな表情を繕えば、かなりヘンテコな顔になるのだが、鈍感なクッキアはまだ、気づいていない。クッキアのモテぶりに嫉妬した同級生の男子達が「おい、あいつが気づくまで言わないようにしようぜ」と半分は本気で、もう半分は遊び半分で結託されているくらいだ。


 クッキア「ろうしたの?」


 やべぇ、咲良先生みたく舌足らずな喋り方になった! とクッキアは自分の失敗を強く恥じた。

 咲良先生はイヴ女王様関連の書籍で言っていた。


 咲良『時間、戻らない。全力必要』


 全く、咲良先生の教えの通りだとクッキアは後悔した。

 ※新羅咲良は教えていません。クッキア少年が都合良く、解釈しています。


 トマトのように赤いクッキアの顔を横目で眺めたナノナがにこり笑う。私の好きな人はこんなに可愛らしいショタ系なのよ、という笑みだ。

 しかし、弱虫だった頃のマイナス思考が抜けないクッキアは…………「えっ、舌足らずが許されるのは幼児までだよねー」と笑われたと思ってしまう。


<クッキアは心に970のダメージを受けた>

<クッキアの童貞な心 4930/5900> ※童貞な心が0になると30歳で魔法使いになることが確定します。童貞な心は就寝すると翌日、全回復します。



 ナノナ「ごめんね、心配させちゃったね。家に空猫のみーちゃんを忘れて来ちゃって。ああー、どうしよう」


 そう、言ってナノナは天井を見上げて、両手のひらで顔を覆った。

 困っているならば、助けなくては! とクッキアは好きな子に自分をアピールするチャンスを得て舞い上がっていた。

 勢いに任せて提案する。


 クッキア「じゃあ、忍び足でナノナちゃんの家の駄菓子屋まで行こう」


 ナノナ「でも、怖いし……」


 クッキア「大丈夫! 俺、鍛えているからね」


 クッキアの身体は鍛えているようには見えない子ども特有の柔らかさが身体全体にあった。これはまだ、8歳という年齢とクッキアのショタ体質によるせいだ。それを知らないナノナは元気出してよと励ましている意に取った。

 ナノナは自分の好きな人がここまで言ってくれているのだから、と外にいるかもしれない危険種動物達の恐怖を一端、忘れて頷いた。


 ナノナ「うん、行きましょう、クッキア君」


 クッキア「それじゃあ、行こうか」



 視点 神の視点   ※文法の視点名です。

 場所 クイーン王国 ナナクサ村

 日時 2033年 4月4日 午後 5時49分



 勢いよく、出発したが……およそ10分後、クッキアとナノナが出くわしたのは危険種動物よりも恐ろしいものだった。

 上空には巨大なドラゴン、地上には盗賊と思われる鎧やTシャツ、スーツ等、不揃いの装備で固めて血に塗れた剣や槍、ハンマー、斧などを握り締めて憎々しい眼光で見つめている。盗賊の数はおよそ600名だった。


 その数字を互いの肩を抱き寄せて恐怖に身を震わせているクッキアとナノナが知らなくとも、村人の死体が十ではなく、数十体くらい辺りに散らばっている状況が絶望的なのだと理解できた。

 ナナクサ村の家々から盗んできたであろうネックレス、高そうな懐中時計等の物品を盗賊達は用意した宝箱に汚らしい言葉で周囲の仲間とコミュニケーションを取りながら詰め込んでいた。


 盗賊1「全く、危険種動物の群れを地方騎士のぼんくら共に任せて、俺らはその隙間から入るなんて作戦を思いつくのはセトさんだけですよ。さすが、盗賊王の右腕!」


 盗賊2「本当に頭良いですよ、セトさん。戦い慣れていない村人の若い衆なんて俺らの目じゃあ、ありませんでしたねー。おかげで苦労せず、俺らは金ザクザク。笑いが止まねぇー」


 盗賊3「でもよぉ、メインイベントは盗賊王に言われた村人の死体を惨たらしく解体したり、女や子どもを犯し殺すことだろう?」


 盗賊4「そうすりゃあ、盗賊王はこの国の女王様に精神的なダメージを与えられるって喜んでいたぜ」


 セト「お前ら、盗賊王の望みと俺らの望みが一致してれば良い。俺らの望みは――――」


 盗賊達「金と女!」


 その叫び声はクッキアとナノナにとって死の宣告のように聞こえた。


 そして、その死の宣告が止んだ後、上空を飛んでいたドラゴンの鋭い眼差しがこちらに向いているのにクッキアとナノナは気づいた。すぐに家屋の中に隠れようと思ったが、二人とも足を糊で地面に接着したように動けない。

 極度の緊張で熱くなる二人の身体にひんやりとした汗が垂れる。

 真っ赤な肌と巨大な体躯が特徴的であるドラゴンが盗賊達に告げる。


 フレアドラゴン「盗賊ども、どうやら、小さな獲物が2匹、我らの悪行を見つめているぞ。すぐに――――」


 上空から降り注ぐ太い声を聞いて、クッキアとナノナは「もう、駄目だ……」とほぼ同時に異口同音に呟く。


 ところが場違いな叫び声が乱入する。

 何か大きなモノを持ち上げた緑色と黒い何かが家屋の屋根を人の目では姿を完全に捉えきれない神速で次々と飛び越えてゆく。

 そして、緑色と黒い何かが饒舌に喋り続けるドラゴンの首を踏んだ。


 眠そうな少女の声「あ、眠くて間違え。踏んだ」



 野太い男性の声「うぎゃああああああ、ヒイタ、俺もすぐ転生宮に行くぞ。ごめん、お父さんは死ぬ! ジェーナ、愛してる。キミー、愛してる! うぎゃああ、胃の内容物が!」


 眠そうな少女の声「大げさ。ふぁー、眠い。通販、購入、ホクホク」


 そんな漫才のようなやり取りの合間にドラゴンの首はあらぬ方向を向き、そのまま、ドラゴンは重力に逆らえきれず、落下した。

 この場にいる全員を覆い隠す土埃が辺りを襲う。


 野太い男性の声「あ、痛い! もっと、優しく下ろしなさい。あ、すいません、咲良様」


 クッキアとナノナはあまりの光景に口をあんぐりと開いていたので思いっきり、砂を飲み込んでしまった。

 砂の味は――――

 クッキア「不味い」

 ナノナ「最悪……」

 ――――のようだ。


 煙が晴れるとドラゴンの死体の上を歩く緑色の髪の上にベレー帽を被った少女 新羅咲良とナナクサ村所属地方騎士隊長のロジャー・バートンが確認できた。

 クッキアが数ヶ月ぶりに姿を見る新羅咲良の姿は低身長、具体的には小学生高学年のままだった。その小柄な身体を漫画に出てくる忍者のような黒装束でコーディネートしている。


 相変わらず、眠そうに咲良は目を何度も指で擦っていた。

 驚き、助かったという表情で咲良を見つめるクッキアに咲良は言う。


 咲良「おっさん、嘔吐。今すぐ、袋。プリーズ」


 緊急なのに緊急そうではないところが酷い。

 ロジャーは大柄ながたいに似合わず、腰を曲げて、口を押さえている。

 ロジャーの喉仏は何度も上下を繰りかえしている。


 ロジャー「後、何度、我慢すれば……」


 そんな情けない言葉を言うロジャーをクッキアとナノナは自分達の村の地方騎士隊長だとは認めたくなかった。彼らの年頃の騎士は凜々しい姿と相場が決まっているのだ。

 咲良は咳き込む盗賊の群れにもクッキアと同じ言葉を投げかける。


 咲良「おっさん、嘔吐。今すぐ、袋。プリーズ」


 盗賊達は勿論、新羅咲良がイヴ女王様の関係者であり、格闘技においては右に出る者はいないと聞こえの高い新羅家の当主だと知っている。両世界のほとんどの人間が知っていることだろう。それくらい、凪紗南イヴの重要度は高い。

 盗賊達はただ、固まってそれぞれ、青い顔をして手に宝箱を持っている者は宝箱を自分の足に落としてしまう。だが、その盗賊は痛がる様子を見せない。それ以前に「終わりだ……」と独り言を口にしていた。

 クッキアはイヴ女王様が何かの雑誌で新羅咲良の実力について語ったのを目にしたことがあるなぁーと思い出した。


 ”新羅咲良は未だに本気を出したことがない。しかし、敵との戦いにおいては無敗。”


 そのフレーズはあまりにも有名で……新羅咲良が眠そうでも、それを咎める人間がいなくなったくらいだ。

 両肩に止まる2匹のコウモリ アフィデータ、アイロを咲良は優しく撫でる。


 アフィデータ「きゅい♪」


 アイロ「きゅい♪」


 その声を聞くと、咲良は大きく頷く。


 咲良「おっさん、弱い。コウモリ、強い」


 ロジャーが吐きそうになるのを見かねたナノナが手提げバッグから、お菓子の空袋を数枚、取り出す。さすが、駄菓子屋の娘だとクッキアは好意的に受け取る。恋する少年は基本、好きな女の子の全てを肯定する純愛馬鹿だ。

 お菓子の空袋を数枚、受け取ったロジャーはすぐさま、空袋に口を突っ込んで胃の内容物を吐き始める。


 黒い革手袋を調節しながら、咲良の蒼穹の瞳が村人 数十人の死体を認識する。そして、咲良の碧い瞳は静かに盗賊達 約600名を見た。

 欠伸の後に咲良は盗賊達に宣言する。


 咲良「逃がさない。盗賊、みんな、殺す」


 盗賊と盗賊を押し退けて、身長 280cmの背の高い男が姿を現す。手には巨大なノコギリの刃のついた大剣を握り締めている。


 盗賊1「セトさん!」


 盗賊2「セトさん、やってください! ママに乳を強請るくらいのガキです! 勝てますよ!」


 そんな盗賊達の悲痛な声援に背の高い男――――セトは応える。


 セト「そうだな。あんなちんちくり、俺の……何……」


 セトの腹部に巨大な穴が開いていた。

 目の前には眠そうな眼をしている咲良がいつの間にか、いる。咲良の開いた手の平は真っ赤に染まっていた。黒い手袋が朱色に染まっている。

 地面にはセトの中にあるべき、臓器が複数、落ちていた。傍には肉塊が複数、落ちていた。


 セトはそれらを見ることなく、後ろに倒れて絶命した。

 わずか、1秒のことだった…………。その1秒の咲良の動きを捉えられた者は誰もいなかった。


 静寂の後、盗賊達 約600名の悲鳴がナナクサ村に響き渡った。


 咲良「わきまえろ。新羅家当主 新羅咲良。拳、最強」



 盗賊達の悲鳴に混じって”機械の鳥の声”が響き渡り始めていた。






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