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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第75話 俺達の故郷(ふるさと) 後編

 第75話 俺達の故郷ふるさと 後編


 視点 神の視点   ※文法の視点名です。

 場所 クイーン王国 ナナクサ村周辺

 日時 2033年 4月4日 午後 5時30分



 危険種動物達の姿はまるで黒い川の流れのようだった……。


 当初、報告にあった約500体という数値は幾つものグループが合流して、約1000体にも及んでいる。


 ロジャーとヒイタ達、地方騎士やウィルが率いる村の若い者達が一生懸命に運んだ投石機 10台が村の東西南北を固める。

 村のドワーフの鍛冶屋が事前に制作していた鉄の車輪が付属した無数の鉄柵が村の防衛力として聳え立つ。その高さ 5メートル。しかし、縦には護れても横には護れない。その鉄柵と他の危険種動物に挟まれて、1体の集団ウルフが煎餅のように潰れて、その死体が鉄柵にへばり付く。そんな光景が幾つも繰り広げられている。

 その状態を望遠鏡で確認して、ロジャーは息を呑んだ。そして、誰か、知らないがイクサの森で騒ぎすぎた人間がいる……。それに強い憤りを感じた。


 危険種動物の氾濫を呼び起こす行為――――危険種動物達の虐殺、血を大量に危険種動物達のテリトリー内で流させる等の行為は異世界 リンテリアのどの国でも法律で禁止されている。地球では同じようにしている国々もあるが、武力に任せて危険種動物達の氾濫を制圧する国々もある。

 第一防衛ラインとナナクサ村所属地方騎士隊長 ロジャーが定めた位置を越えれば、ウィルをリーダーとして構築された若い村人衆が護る第二防衛ラインに到達してしまう。それさえ、越えれば…………村人達を食い散らかす地獄絵図が待ち受けている。尤も、その時、自分は確実に生きていないだろうとロジャーは自傷に満ちた笑みを浮かべた。


 熊の胴体の一部を鋭い角で貫いたままのクイーン猪が鉄柵と鉄柵の合間をすり抜けて、ロジャー達の下へと突撃してくる。

 それをぼっーと見ている彼らではない。


 地方騎士達は三グループに分かれる。

 一グループ目は投石機に石を詰め込むグループ。

 二グループ目は投石機を作動するグループ。

 三グループ目は比較的魔法が得意な者で構成された魔法攻撃グループ。

 地方騎士達は重さ 20キロほどの大きな石を投石機まで運ぶ。鍛え抜かれた筋肉が脈動する。疲れる! と筋肉が疲労感を訴えるが無視して、少数精鋭の為、何度も往複する。


 ロジャー「ここを通すわけにはいかない! ファイアボール」


 投石機の準備が整う前にロジャーは熊の胴体の一部を鋭い角で貫いたままのクイーン猪に炎魔法 ファイアボールをぶつける。

 球状のファイアボールはクイーン猪にぶつかり、肌の焼ける悪臭を漂わせてもクイーン猪の勢いは失わずに前へと進んでくる。怒り猛る声は周囲の危険種動物達の進行速度を速める。そのおかげか、少ない理性を失った危険種動物達は次々と……ナナクサ村周辺に緊急に作られた数カ所の穴に落ちてゆく。


 ロジャー「投石! 開始!」


 地方騎士達「おう!」


 投石機から放たれた石が危険種動物 数体を押しつぶす。

 その石の位置を見て、軽やかに避けていたスモールゴブリン達は地方騎士達の炎魔法 ファイアボールの雨に当てられて、次々とその場で息絶えて燃えてゆく。その死体にさえ、投石機の石が降り注いだ。ぐちゃりという不気味な音が戦場に響き渡るが……地方騎士達の猛攻は続く。

 誰もが額に汗を浮かべて口々に「俺達の故郷ふるさとを護るんだ」と仲間と自分を叱咤する。それが彼らに無限の勇気を与えていた。


 *


 やがて、死体の上に死体が積み重なり……数カ所の穴が意味を成さなくなった。


 未だ、進行を続ける危険種動物達の脅威に地方騎士の一人が赤い狼煙を上げた。赤い狼煙を上げて、無防備になったところを空からワイルドウィングという鳥型の危険種動物がその地方騎士の頭をかっ攫った。空中に羽ばたきながら、バリバリと地方騎士の頭を食べる。嘴の端から地方騎士の右耳が落ちた。その落ちた右耳も中空で別のワイルドウィングに食べられる。

 ワイルドウィングに対抗する為に地方騎士の何人かが弓を握り締めて、弦を絞り、集中して一斉に矢を放つ。命中率は決して高くなく、それでも、ワイルドウィングは羽根や胴体に矢を貫かれて墜落してゆく。何体かは鉄柵にぶつかり、他の危険種動物達に踏み潰された。


 既に茜色だった空は黒く染まり、視界はゼロに近い。

 そのゼロを利用して、ワイルドウィングよりも素早いソニックバードが地方騎士達を何人も食い殺して悠々と飛んでゆく。そんなソニックバードの群れに一矢報いようと、ヒイタ副隊長が槍を投擲した。


 ヒイタ「喰らえ! 化け物野郎!」


 その槍は一直線にソニックバードの頭部を貫き、墜落させた。

 ヒイタはその光景を見てロジャーと共ににやりと笑った。


 ロジャー「ここは俺達の遊びだったもんな。なぁ、ヒイタ、おい、ヒイタ? おい……」


 ヒイタはロジャーが他の危険種動物を狩っている隙に……腕を残して消えていた。悲鳴さえ出せずに勝手に最期を向かいやがって、と胸からこみ上げるものがある。

 それを解き放つようにロジャーは雄叫びを上げた。


 ロジャーの雄叫びに生き残った地方騎士達の雄叫びが加わる。それが今や、70名から45名に減ってしまい、第一防衛ラインを破られ、ナナクサ村に危険種動物達の侵入を許した地方騎士達の涙だった。だが、決して地方騎士達は涙を流さずにただ、騎士剣を握り締めて自分達を囲む危険種動物を睨み付けた。


 ロジャー「ここが死に場所だ……みんな! 覚悟は良いか!」


 地方騎士1「うんと格好いい最期にしましょう、隊長!」


 地方騎士2「どうか、どうか、一人でも多くの村人が生き残れますように。神様! リンテリア様、どうか、皆に祝福を」


 地方騎士3「友よ、俺もゆくぞ! 転生宮で会おう」


 地方騎士4「へへっ、こりゃあ、ちびる光景だぜ。騎士の名に相応しい戦果をあげてやる」


 そして、地方騎士達は心を殺して殺戮兵器の歯車の一部となった。

 腕が折れようと、肩が砕かれようと、幾ら出血をしようと、足が喰われようと、肺が骨で破れても…………彼らは勇敢に戦った。


 それを目撃した者がいた。正しくは2匹のコウモリだが……その小さなコウモリ アフィディータとアイロは2匹の健康診断の為にイヴ女王様からナナクサ村に預けられていた。この村はもう、危ないからとコウモリ飼育士に空へと放たれた。クイーン王国に住む種類のコウモリは賢く、全員がクイーン王国の王族に敬意を払い、従っている。その為、良心的なクイーン王国の国民ならば、コウモリ達は懐く。

 まさに友人のような関係だったクイーン王国の国民の死に様を見て、アフィディータとアイロはきゅい! と悲しく鳴いた。


 その二匹のコウモリ達は知っている匂いを嗅ぎつけてある一点を向いた。

 驚くことに2匹では捉えられない速度で何者かが……危険種動物の渋滞の中を無理矢理、通り抜けている。その何者かが通る度に危険種動物達は宙に舞い、身体が飛散した。

 ああ、この人物が来たならば、大丈夫だと2匹は思った。


 日本の皇族を守護する十家の一人 最年少の少女 新羅咲良。


 咲良「ああー、眠い。通販、見すぎた」


 アフィデータ「きゅい♪」


 アイロ「きゅい♪」


 咲良「おいで、二匹。大丈夫、こんな雑魚、拳一発」


 一瞬にして咲良が築き上げた危険種動物の死体の上から、咲良は二匹を手招きする。二匹は素直に咲良の小さな両肩に着地した。


 わずか、140cmの小柄な少女は異様だった。

 眠そうに蒼色の綺麗な瞳を擦る。

 血の匂いの漂う戦場の風が背中まで伸ばした緑色の髪を静かに揺らす。

 服装はとても、日本チックだった。黒い忍び衣装はとてもではないが……被っているベレー帽には合わない。しかし、咲良はそれに気にかけることなく、周囲を見まわす。


 咲良は弱くても自分の志を護る者は大好きだ。だから、先程まで奮闘していた地方騎士が生きていれば助けたかった。

 その探索を邪魔しようとソニックバードが突っ込んで来た。しかし、咲良は振り返らずに指でソニックバードの両眼を貫くと、瞼板を持ち上げて近くの鉄柵にポイ捨てした。

 ポイ捨てされたソニックバードは鉄柵にぶつかり、しばらく、痙攣してから息絶えた。


 その姿を見ても咲良を食い殺す事を諦めなかったお馬鹿なソニックバードやワイルドウィング 数体が同じような結末を迎える。

 肉塊となった地方騎士達に埋もれるようにして倒れているロジャーを発見した。

 細かな切り傷はあるが、この戦火の中でそれだけとはある意味、奇跡だった。


 ロジャー「貴女は高名な騎士ですか……。その強さ……」


 ロジャーと話している間も危険種動物がうなり声を上げて、咲良へと向かってくるが……裏拳で危険種動物達は吹っ飛ばされて息絶えた。

 それくらいの芸当ができなければ、皇族をあらゆることから護る十家の一つ 新羅家の当主にはなれない。むしろ、咲良にとって最低ラインの芸当だった。つまり、咲良は未だ、本気を出していない。


 咲良「イヴ様、従う十家 一つ 新羅家当主 新羅咲良しんらさくら


 ロジャー「新羅家。あの拳一つで全てを砕く有名な……。お願いだ。村人達を助けてくれ。俺もここで死んだ仲間の為に闘う!」


 ロジャーは立ち上がり、眠そうな瞳をしている咲良に訴える。しかし、咲良は首を横に振る。


 咲良「ここ、いるの、無駄な死。戦況、変化。私、来る」


 咲良はそう言うと無理矢理、ロジャーを両腕でバーベルのように持ち上げてそのまま、先程と同じく、全力で加速した。

 危険種動物達はその速度についてこられず、見送るしかなかった。






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